第29話 金を気前よくあげる
盗賊たちを無事に奴隷として売り払うことができた。
俺は、エミリーたち行商一家と村長を連れて、奴隷商館を後にする。
「それなりにまとまった金が手に入ったな。お前たちの交渉のおかげだ」
「いえいえ。そもそものことを言えば、リキヤ殿がやつらを生け捕りにしてくださったおかげです」
村長がそう言う。
「そうですな。それに、単純にリキヤ殿が横でにらみを効かせてくださったことも大きいです。店長も、安く買い叩こうとしてリキヤ殿のような強者の不興を買うのは避けたのでしょう。商人であれば、当然のことです」
エミリーの父がそう同意する。
「……さて。なにはともあれ、無事に用事も済んだことだし解散となるな。村長たちは、村に帰るのだろう?」
「ええ。私たちが奴隷の売却をしている間に、若い衆が諸用を済ませてくれているはずです。彼らと合流して、街へ戻ることになります」
「では、言っていた通り、村の復興費としていくらか渡そう。……そうだな。半分ほどでどうだ?」
俺はそう言って、盗賊どもの売却で得た金貨の半分ほどを差し出す。
「こ、これほどの大金はいただけません! リキヤ殿には、むしろこちらから払わなければならないぐらいですのに」
村長がそう言って遠慮する。
少し前にも、こんなやり取りがあったな。
「気にするな。俺はこの腕っぷしで、まだまだ稼いでいくつもりだからな」
「ですが……」
村長がなおも遠慮する。
「それに、村長も知っていると思うが、フィーナは俺の女だ。両親も健在だし問題などは起きないと思うが、万が一のことがあれば気にかけてやってくれ。その分の費用も含んでいるということにしよう」
「……分かりました。そういうことであれば、遠慮なくいただくことにします。ありがとうございます」
村長がそう言って、頭を下げる。
「達者でな」
「ええ。こちらも、リキヤ殿のご活躍を心よりお祈りしております」
そして、彼は恐縮しながら去っていった。
村の若者たちと合流して、村へ戻るのだろう。
「よし。次はお前さんたちだな。この街で仕事を探すと言っていたが、しばらくの生活費は必要だろう。村長に渡して残った金の……。そうだな、そのまた半分をやろう」
「そ、そんなにいただくわけにはいきませんよ。村長さんもおっしゃっていましたが、むしろこちらが払いたいぐらいです。それに、村とは違って私どもは3人だけの家族ですし……」
エミリーの父親がそう言って、遠慮する。
「そう言うな。エミリーのような美少女が苦労している姿を見るのは、心苦しいのだ。生活が軌道に乗るまでの足しにしてくれ」
俺はそう言って、金貨を押し付ける。
「あ、ありがとうございます。この恩は、決して忘れません」
「ありがとうございます」
エミリーの父親と母親が、そう言って、頭を下げる。
「…………」
エミリーが赤い顔で俺を見つめている。
俺に惚れたか?
俺はフィーナのことを大切に思っている。
しかし、女はたくさんいればいるほどいい。
それこそが、強い男の証でもあるのだ。
「リキヤさん。私にできることがあったら、何でも言ってくださいね。何でもします」
エミリーがそう言う。
「ふむ。何でもか。ではさっそく……」
俺は1つ頼みたいことを思いつき、そう言う。
「ふぁっ!? い、いきなりですか……。父と母が見ている前で……」
エミリーが顔を真っ赤にして、そう言う。
何か勘違いしていないか?
早めに修正しておこう。
「冒険者ギルドに案内してくれ。これからガンガン稼いでいかなければいけないからな」
「えっ? あ、ああ。その件でしたか……。早とちりしちゃいました」
エミリーがお茶目な表情でそう言う。
「冒険者ギルドの場所は、もちろん知っています。案内しますね。こっちです」
エミリーの先導のもと、俺たち4人は冒険者ギルドに向かうことにした。
俺はこの世界の常識をほとんど知らない。
とりあえず冒険者登録を済ませるまでは、エミリーたちの世話になることにしよう。
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