第92話 見知らぬ二次元コード

 新田にしてみれば、二次元コードを使う事は特段珍しい事では無かった。スマホにはごく普通に二次元コードを読み取る能力があるし、それに呼応するように製品だのチラシだのなんだのには二次元コードが印字されているのだから。

 だからこそ、会社で回覧されていた二次元コードにも違和感を持たなかった。会社を改善するためのアンケートなのだという文言があったのだから尚更だ。


 B5のわら半紙に印字されていた二次元コードを読み取ると、すぐにアンケートの回答サイトへとスマホの画面が遷移した。画面を見た新田は一瞬だけ面食らった。チェックボックスを選択するタイプのアンケートかと思っていたら、存外に文章を書き連ねなければならない質問ばかりだったからだ。しかも五十文字以上、などと縛りがあるのが何ともしんどい。

 それでも新田はスマホを操って回答を始めていた。画面を眺めているうちに、回答せねばならないと強く思うようになっていたのだ。その一方で、彼は質問の内容については頓着していなかった。質問の数がやたらと多く、詳しい所まで聞き出そうとしているのだな、と思いはしたけれど。


 そうこうしているうちに新田は全ての回答を終え、そのまま回答内容を送信した。何やらゴテゴテしたサイトのデザインだったような気もする。

 上司から声がかかったのは、ちょうどその時だった。


「新田、さっきからスマホを弄っていたみたいだけど、何をやっていたんだ?」

「何って、休憩時間の間にアンケートに答えていたんです」


 これは課長が回覧として回していたんですよね。わら半紙の二次元コードを見せるや否や、課長が訝しげな表情で首をひねった。


「いや……確かに二次元コードでのアンケートについては回覧は回しているよ。だけど、アンケートの二次元コードは


 わら半紙を摘まむ新田の指が震え始めた。自分が繋がっていたサイトは、誘導されるがままにあらゆることをさらけ出してしまったサイトは何だったのか。その事を思うだけで怖気が走った。

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