第87話 綺麗な花にはナニがある?

 社会人にもなって花を育てるなんて地味じゃねぇか。この鉢植えは、彼のそんな考えを根底から吹き飛ばすような代物だった。

 どういう種類の花なのかは生憎解らない。しかし特別で不思議な花である事には変わりなかった。何しろ白い蓮に似た花の中から妖精が飛び出してきたのだから。

 そして花の妖精は彼に対して人懐っこく、フレンドリーだった。件の妖精と話し合うのが、いつしか彼にとって心安らぐ趣味になっていったのだ。

 そうして楽しく甘美な趣味は、段々と彼の心を侵蝕していった。すなわち、他の趣味をおろそかにし、日々の家事を面倒に思い、そして仕事をさぼるようになったのである。


 鉢植えに腰かける花の妖精に、彼は今日も話しかける。

 だが彼は気付いていない。花の妖精が佇む鉢植えはガラスに反射しておぼろな像を作っているが、そこに映し出されているのは単なるに過ぎない事に。

 全てはダチュラの魅せた幻影に過ぎない。

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