第84話 ずっと一緒の四人組

 猿渡、間宮、虎島、蛇崎の四人は暇を持て余した若者だった。

 彼らは世間で言う所の大学生であり、大学生活は勉学よりも人生の夏休みという解釈を行っている面々でもあった。

 ちなみに四人の通っている大学は、九月の下旬まで夏休みであるから、九月初旬現在では彼らも夏休みの真っ盛りという事である。まぁ、今年は九月に入っても秋とは思えぬ猛暑ぶりであったが、それはまぁ別の話だ。

 若くて暇を持て余し、そしてそこそこ仲のいい者同士で寄り集まっている。そうなると、羽目を外そうという考えが浮き上がってくるのも、致し方ない事だったのかもしれない。


「おおっ、ここは何とも雰囲気が出てるよなぁ」

「そうだろ虎島ぁ。ははは、ここも曰く付きの場所らしいぜぇ。ま、俺にしてみりゃあ、絶好のSNS映えスポットと言えるがな」

「マミッチって結構オカルトとかも好きだもんな。ええと、確かこの辺はバケモノが出るとかって噂があったんでしたっけ」

「おっ、蛇崎のインテリムーブが始まったんか。でもさ、インテリぶってるくせにバケモノを真面目に信じてるとかマジ受けるんだけど、キャキャキャ」

「やっぱり猿渡はエテ公丸出しですね。流石に僕だって、本気でオカルトを信じている訳じゃないですよ。あくまでもエンタメとして嗜んでるだけです!」


 九月某日。草木も眠る丑三つ時ではないが、夜遅くに件の四人は出歩いていた。電源の入った懐中電灯をブラブラと振り回し、鴉の群れのように大声で言葉を交わし、時に爆笑しながら。

 彼らが向かっているのは、所謂心霊スポットと称される所である。時期はちと遅いが肝試しの一種になるだろうか。もっとも、彼らは肝を冷やすためにその土地に足を踏み入れたわけでは無いのだが。

 彼らは単に、SNSに投稿するネタを求めてこの地に立ち寄っただけに過ぎない。怪異などという物ははなから信じていなかった。むしろ何もない方が彼らとしては都合が良いのだ。後に動画を編集して配信するにしても、何もない事を証明してやった方が、アホな視聴者に「やっぱりオカルトって迷信だったのだ」と思わしめる事が出来るではないか、と。


「まー、ここは大昔には祠か何かがあったらしいけどなー。それらしいモンは見当たらんよなー」


 言い出しっぺである間宮は言いながら、わざとらしく頭の上に手を添えて周囲を見渡した。懐中電灯がそこここを照らすが、しおれた草や砂利の上に転がる石ころなどの姿を示すだけである。祠という事は、神様とか仏様を祀っていた時期があったのかもしれない。しかしそれも忘れ去られる事もあるのだ。

 そんな事を思っていると、猿渡が一団から離れていた事に気付いた。元よりニホンザルのようにお調子者のきらいがある彼の事だ。何かを見つけ出して興奮し、そちらに向かっているのだろう。夜の帳が彼を一層興奮させているのは明白だ。ましてや四人とも多少なりとも酒が入っていたのだから。


「あっ、いってー。やっぱり痛いわこりゃあ」


 ややあってから猿渡が戻ってきた。右足を奇妙な塩梅にプラプラさせている。但し折れたりしたのではなくて、単にふざけてやっているだけのようだが。

 仲間内では比較的生真面目な蛇崎が、眉をひそめて猿渡に問う。


「痛がるようなものを蹴飛ばしたんですかね」

「や、あすこに丁度サッカーするのにピッタシな感じの石を見つけたからさ。ああ、でもやっぱり石だったから痛かったぜ」


 石なんて蹴飛ばしたのか……三人は呆れつつも、猿渡が蹴飛ばしたという石を眺める事にした。

 三人は黙って石を眺め、それから失笑を漏らした。石を蹴飛ばしたという猿渡の行動も笑えるが、その石自体もボールなどとは似ても似つかない。丸みを帯びてはいるものの、何がしかの獣を模した造りの石像だったのだ。

――その石像がこの地に封印されている鵺だった事、猿渡が石を蹴飛ばした事で、彼らの周囲にもやのような妖気の残滓が取り巻きだした事に、四人はついぞ気付かなかった。


 いや、彼らは結局自分たちが取り返しのつかぬ事をしたのだと知る事と相成った。だが知った時には手遅れだった。

 何せ彼らは――ひとかたまりに融合し、新たな鵺に変貌してしまったのだから。

 かくして、曰く付きのスポットに足を踏み入れた若者たちは、曰くそのものになったのだ。ついでに言えば、彼らは物理的に離れられぬ、四人一組となってしまった訳である。

 かつて彼らはズットモだのいつまでも一緒だのと冗談交じりで言っていたのだが、それが思わぬ形で実現したともいえるだろう。

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