第80話 傘でさす話
長雨の季節と言えば、傘を巡る奇妙で恐ろしい出来事の事をどうしても思い出してしまう。
中学生くらいの子供と言えば、暇さえあれば何がしか悪戯みたいなものをしながら学校までの道のりを進むような物ではないだろうか。男子だったら尚更ね。
僕もそんな、他愛のない悪戯をするような子供の一人だった。悪戯と言っても別にえげつない事ではないさ。これと定めた石ころを蹴り進めたり、タイルの線を踏まないようにどこまで進めるかとか、逆に転がっているドングリを踏んでみたりとか、本当に他愛のない遊びだったんだ。
ある時僕は、傘の先であちこちつつきながら歩く事に凝っていたんだ。傘の先であちこちを突いてはいけない。そんな風に母親から言われていたはずなんだけどね。
のみならず、溝の間に生えたコケなんかも、傘の先で引っぺがしたりしていたんじゃあないかな。好奇心旺盛な少年というべきか、しょうもない悪童というべきかはお任せするよ。
その日は夕方から雨が上がっていたんだ。朝も昼も雨がざざぶりだったから、もちろん傘は持って行っていたよ。
それで、自分の傘は忘れずに持っていたんだけど、そうなったらやはりいたずら心が刺激される。それが少年の心という奴だったんだ。
しかもその日に限って、僕はいつもと違う道を進みながら家に帰ろうとしていたんだ。ドクダミと小さな白いツユクサがひっそりと両脇で花を咲かせ、その間には大小さまざまのカタツムリ共が這い回る……石畳の小径だったかな。後で知ったんだけど、水神様を祀った小さな祠もあったらしいね。
そんな事は僕は何も知らなかった。ともあれ妙に興奮していたんだ。憑かれたような……そんな言葉を使っても良いかもしれないね。よくよく考えれば、普段は通らないとはいえ、全くもって知らない道でも無かったからね。
気付けば僕は傘の先で色々な物をつつき回していた。石畳のタイルの合間にある溝や、道の端っこに僅かに残るぬかるみなんか、もう半ば無差別にやっていたと思うかな。途中からは、大きなカタツムリなんかを狙っていたからね。ああ本当に、阿呆で能天気な子供だったのさ。
そんな僕の振る舞いのツケは、翌日になって降りかかってきたんだ。学校から帰ってすぐに、家とその周辺に異変が起きていたんだ。家の周りは大きなへこみが幾つも出来ていて、家自体は潰されていたんだ。まるで、何者かが棒で押しつぶしたみたいにね。
家族は仕事とか用事とかで出払っていたから巻き込まれなかったんだけど……柴犬のモコはその場に居合わせたらしいんだ。途方に暮れた様子で家の残骸の上に陣取っていたんだけど、僕の姿を見るや駆け寄ってきたんだよな。モコは本当に困り顔を浮かべていたよ。
結局のところ、僕の家が何故潰れたのか、詳しい原因は解らなかった。地元の老人たちは水神様の怒りを買ったんだろと噂をして……僕たち一家は引っ越さざるを得なかったんだ。
それ以来、僕はもう傘を使った悪戯には手を染めていない。
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