第77話 煩悩丸出し七夕祭り
ちょっと旬は過ぎちゃったけれど、七夕で思い出した話でもしようかなって思ってるんだ。
七夕のお祭りって何も無邪気な子供のためだけの物じゃあないって事はみんな知っていると思うんだ。何せ、寂れた商店街やメトロナントカの地下通路の中にも、七夕のシーズンが近づいたら短冊の吊るされた笹の枝が飾られているんだからさ。
あの願い事を観察するのって中々面白いんだよね。悪趣味だって? まぁ確かにそう言う側面があるのは私も認めるよ。というか子供だった頃、初詣とかで絵馬を見ようとしたら、親に「そんな事はやめなさい」って叱られた記憶とかもあるんだよね。
ああ、それで七夕の願い事だね。あれ本当に面白いよ。二度目だけど。何せ
『宝くじで一攫千金!』
『世界征服やってみたい』
『彼女が欲しい』
『彼氏と結婚したい』
なんて感じのかなーり俗っぽい物の隣にさ、
『世界が平和になりますように』
『○○さんの病気が良くなりますように』
『家族が明るく楽しく過ごせますように』
『大いなる※※様が目覚めますように』
てな感じのかなり聖人君子だなって思えるような願い事とかも飾られているんだからさ。あはは、清濁併せ呑むって感じがして、人間の縮図ってものを感じられて不思議で面白いでしょ? その事に気付いてから、七夕の笹を見るたびに、ちょっと願い事とかを見ちゃったりする事に嵌ってたんだ。
あーあ、でも、考えてみれば、そんなのって何も知らない小娘の戯れだって思い知らされたんだ。
※
七夕で怖いなーって思ったのは、三年前の事だったんだ。地下街の外れで七夕飾りを見つけたんだけど、ちょうどその時女の子の一人が短冊に何か願い事を書いていた最中だったのよ。その子が書き終わって七夕飾りから離れたのを見計らって、私もその七夕飾りを見に行ったの。まぁアレよ。自分も願い事を書くふりをしてね。いや……後で実際に書いたんだけど。
『※※※夫(プライバシー保護のため仮名表記)を奪った泥棒猫は死ね』
随分と過激な願い事だなぁって、さしもの私もドン引きしちゃったのよ。隣に添えられた短冊の願い事が、一層不気味さを際立たせていたわ。何せ
『※※※夫と結婚できますように♡』
なんて書かれてあったんだから。いや、その名前はありふれた名前だから、単なる偶然だって私は自分に言い聞かせたけどね。
だけど、遠くで女の子たちの話声が聞こえてしまって、それでもう駄目だったわ。
「あ、もう良いの?」
「うん。七夕のイベントがあったから、ちょっと願い事を書いといたんだ」
「そうだったんだ。へへ、うちはこの前書いて吊るしたんだけど」
「だろうなーって思ってさ、隣に吊るしといたんだ」
「え、ホント? それじゃあ見に行こ」
「えー、別に七夕飾りなんて子供っぽいからいいじゃん。ほら、折角だから先に進も?」
聞き耳を立てながら、私は書いたばかりの短冊を思わずぐしゃりと握りしめていたわ。何せその短冊には『みんなの願いが叶いますように』なんて書いてしまっていたんだからね。
その後私は新しい短冊に『明るく楽しく過ごせますように』って無難な願い事を書いて吊るしておいたんだけど。
だからね、七夕はどうしても忘れられないイベントになってしまったの。
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