第65話 美女が御馳走を食べるだけの動画
好奇心が猫を殺す。その言葉はまさしくあの動画にぴったりの言葉なのかもしれない。
※
「美女が御馳走を食べるだけの動画【ある意味閲覧注意】」という名の動画は、サムネイルとタイトルとのギャップがあまりにも大きかった。タイトルに関しては後半の閲覧注意を除けばまぁ普通の動画だと思うだろう。美女が勇気を出して顔を出し、食事をするという食レポ的な(二重の意味で)美味しい動画だと思う男性陣もいるかもしれない。
しかしそのサムネイルは――食事の場所とは到底思えなかった。暗がりを赤外線カメラで撮影したと言わんばかりの光景であり、控えめに言って廃墟を撮影したという様相を見せていたのだ。
『え、ええと……こういう動画の配信は、は、初めてなんですけれど、お友達……こ、後輩の八重ちゃんと美沙希ちゃんもいるんで、が、頑張りますっ!』
たどたどしく、やや吃音気味に語るのは一人の若い女性だった。色白なのは解るが顔立ちは妙に判然とせず、手や顔などの白い部分が暗がりにぼんやりと浮かんでいるように見えてならない。黒々とした背景と同化するような闇色のロングコートの方がむしろ印象的だった。髪も黒く長く、闇と彼女とどこまで分離しているのか、何処まで別々なのか明らかではないくらいに。
その彼女の背後では、二人の女性が手を振ったりすまし顔で映り込んだりしている。一人は白いロングワンピース風のコートに白い帽子姿で、もう一人は深紅のロングコートを身にまとっていた。恐らくは彼女らが八重ちゃんと美沙希ちゃんなのだろう。統一性のない衣装なのに、彼女ら三人が姉妹やある種の仲間であるかのように思えてならなかった。
『さて、それでは早速ごちそうタイムと逝きましょう! ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、こちらは※※病院跡になります。そうです。あの恐ろしい…………件が※※年前に起きた場所ですね。ええと、日本唯一とされるオカルト雑誌、アトラでも何かと取りざたされているのではないでしょうか』
先程までどもっていたのが嘘のように、黒いコートの女性は流暢に語り始めていた。もう不穏な気配しかしなかった。彼女の言葉には所々ノイズが入って聞き取れなかったし、何よりオカルト雑誌の単語が出てきたではないか。食レポ動画のはずなのに。
『……さん! とうとう出てきましたよ!』
『本当だわ美沙希ちゃん。それじゃあ早速いただきます』
紅いコートの女が暗がりを指し示す。そこにいたのはあからさまに怨霊だった。猫山は怨霊を見た事は無い。それでも本能的に、それが怨霊だと解ってしまったのだ。
放送事故じゃないか……猫山は生唾を飲んだ。
しかしこの動画の真の恐ろしさはそこではなかったのだ。
確かにこの動画は、美女たちが御馳走を捕食する内容である事には違いが無かった。口裂け女と八尺様を従えた女妖怪が、廃墟に巣食う怨霊を捕食していたのだから。黒いコートの女が何者なのかは定かではない。だが、闇色のコートに彼女は貪婪な食欲と冒涜的な触手を隠し持っていた事だけは確かだった。
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