第61話 ひとり歩きは止まれない

 ※※※(きちんと名前があったんだけど、それが何であるか今となっては記せない)という信仰を僕がでっち上げたのは、本当に出来心みたいなものだった。学生としての生活に多少のストレスは感じていたし、それに外国ではスパゲッティの怪物を信仰する宗教だってあるくらいなんだからさ。

 最初は僕や友達の間だけで行っていたお遊びだったんだ。お遊びで……あんなことになるなんて思っていなかったから、教義とか儀式とかも結構適当に野放図に作っていた感じだったかな。それも「こんなのやってたらマズいじゃないか」って笑い飛ばすためのモノだったから、かなりめちゃくちゃな内容だったと思う。まぁ、多分この話を聞いている君は、どういう物かはもう知っているだろうけどね。

 それでも本当に、現実離れした信仰とそれを支える行為への空想は、僕たちのささくれた心の慰めになっていたんだ。最初はね。もちろん実行する・しないの問題じゃあないよ。ただ、自分が※※※に仕える司祭になっている空想だとか、その信仰がもたらした変容などを文章に起こすのがとても楽しかったんだ。若者ながらに非現実の世界に浸っているって思えてね。

 でも後で考えれば、そんな事はやってはいけない事だったんだ。


「へぇ、君が※※※の教祖様なんだねぇ」

「※※※は世に出るべき教義です。私どもがその手助けを行って進ぜよう」


 仲間内だけで遊んでいたはずの※※※を広めたいと言い出した人たちがいたんだ。二人組の男の人たちで、一人は七つの丸い珠を首飾りに連ねていて、もう一人はエキゾチックな風貌の神父みたいな人だったんだ。

 今思えばどこからどう考えても胡散臭い二人組だったよ。だけどあの時の僕は、ついつい彼らの言葉に耳を傾けてしまったんだ。


 ※※※が広まったのは、きっと彼らのせいなんだ。彼らの正体が何であるか、僕は今なら知っている。知っているからこそ、彼らが世に出るべきだなんていったのかも大体解っている。

 けれど※※※は僕らの手を離れて独り歩きを始めているんだ。もう止める術なんて僕には無いよ。

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