第55話 ヨモカコ伏魔殿

・一日目:おうち時間も増えたし、一念発起してヨモカコに登録してみた。元々小説を書くのは好きだったから、自分の小説を投稿してみよう。最近公募に出すのもサボっていたから、いい刺激になると思うんだ。


・二日目:初めてのコメントがついた。どうしようって思ったけれど一応返信してみたよ。ああすごいなぁ。僕の作品を見てくれる人がやっぱりいるんだ。


・十六日目:うぅむ。人がほとんど来ないや……このところずっとPVゼロだし。まぁ多少は付いてるんだけどこれって僕がうっかりログアウトした状態でクリックしてるから実質誰も見てないって事だよね。どうすれば読まれるようになるんだろう……


・二十二日目:あ、自主企画に参加してみたら企画主から星を貰えた! しかもフォローまでしてくれてる。やったぁ! 僕自身のために書いているとはいえ、やっぱり嬉しいな。


・三十一日目:面白い作品だってフォローしたら、その作者の人が僕の作品をフォローしてくれたんだ。趣味が近いから楽しんでくれるんだろうね。コメントを送ったら返信してくれるし……そっか。だからこそヨモカコなんだね。


・五十八日目:え、僕の作品に似ている作品のフォロワー、うなぎ上りに増えてるじゃないか。後発なのに。転生もののテンプレなのに。自主企画にも入ってないのに。何で?


・七十九日目:とうとう創作論に手を伸ばしちゃったかも。でも先輩たちもいるし、読んでたらついつい書きたくなっちゃったんだ。そりゃあもう、きちんとした創作論を造るために、どんどんヨモカコの中を巡回しないと?


・九十七日目:うわぁ……態度の悪いユーザーもいるんだな。率直な感想を欲するとか言っておきながら意見を出されたら逆切れするし、それでいて自分は相手の事を酷評するはその相手が紹介した作品を駄作呼ばわりか……感じ悪。


・百十五日目:ちょっと、何で創作論のカテゴリーの中に小説が入ってるのさ? 最初は何かの間違いかなと思ったけど……これはワザとだね。創作論だとランキングに入りやすいし。あ~、それにしてもムカつく。


・百二十九日目:「読み合いに来ました!」だって? そう言えば星を投げられるのもこれで二回目だな。まぁ俺もさ、別に気に入った小説を読んで、向こうも読み返してくれるのは良いと思うよ。だけどはなから見返り目的で読み合うのっておかしくね?

 第一、読み合わなくても自主企画に入らなくても星を何百と稼いでいる作品もあるし。


・百四十七日目:うーわ。久々に入った読み合い企画で態度の悪い奴がいると思ったら、マジでヤバい奴じゃん。何度も何度も更新用にダミーページを作って更新してやがる。それで読み合い企画にしれっと参加して星を荒稼ぎしてるのか。

 そう言えばずっと一日後終了の自主企画があったけど、よく見たらこいつが主催者か。全く何を考えてるんだか。


・百※※日:ああもう絶望した。ヨモカコは、いや投稿サイトは小説を愛する者たちの楽園じゃなかった。手練手管を使って賢い奴がのし上がる伏魔殿じゃないか。

 そうか。そうと決まれば俺も俺でやる事があるさ。はは、ははは……



 以上が、ヨモカコを混迷の渦に陥れたハッキング事件の犯人の記録である。

 意に反し、元々は純朴な青年であるようにも思える記載だった。して思うと、投稿サイトの中には人心を狂わせる何かが潜んでいるのかもしれない。

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