第52話 二枚舌

 真美子はその名に「真」の字が使われているにもかかわらず嘘をつくのが好きな女だった。いや、彼女には嘘をつくという事に対する罪悪感はかけらほども無かったのだろう。

 彼女にとって嘘は日常の一部になっていた。あるいはもしかすると、もはや嘘をついているという意識も無かったのかもしれない。それはまぁ、余人には解らぬ事であるけれど。


「あら先輩。いつも仕事を熱心に行っていて尊敬します」

「ふふふ、仕事を黙々チビチビとやるしかない能無しだから、時々こうやって媚を売っていたらチョロいもんよね」


 しかし嘘をつき続ける弊害はあったのだろう。真美子の言動は少しずつおかしくなっていた。彼女が何か言うたびに、その直後に彼女が言ったのとは真逆の言葉が飛び出してくるようになったのだ。それは真美子の意思ではない事は、彼女の慌てようからも明白だった。

 嘘をついたら舌を抜かれるという言葉がある。しかしその一方で二枚舌という言葉もあった。真美子はどうやら二枚舌になってしまったらしい。

 だがその後彼女がどうなったのかは解らない。若しかしたら、二度と嘘の隠蔽が解らぬように、舌を抜いたかもしれないけれど。

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