第50話 はんぶんこの怪

 ツヨシとタケシは従兄弟同士なのだが、諸般の事情があって兄弟であると周囲に思われていた。父親が一卵性双生児だったので遺伝的には同一である事、生まれた日と住んでいる場所がほとんど同じである事が主だった原因であろう。


 それはさておき、二人は不思議な道具を持っていた。一見するとおもちゃのナイフに見えるのだが……切り分けた分だけ切り分けられたものが増殖するという能力を具えていたのだ。それでケーキを切れば一つのケーキが二つになる、というものである。

 それの持ち主がツヨシだったのかタケシだったのかは定かではない。二人共同の持ち物だったのかもしれない。とにかくそのナイフを二人は重宝していた。

 兄弟かもしれない二人は、好みのものもとかく似通っていたためである。

 同じ物が一つだけであっても、そのナイフのお陰で二人は揉める事は無かった。ケーキもリンゴもオモチャの車もはんぶんこにすれば二人に同じものが行き届くのだから。


 おもちゃのナイフを使わなくなったきっかけは、一匹のハムスターだった。どちらの親が買い与えたのかは定かではない。ツヨシとタケシは既に八、九歳になっていたのだが、その小動物をやはり欲しいと、所有者ではない側が思ったのである。

 おもちゃでありながらも切れ味の鋭いそのナイフで、ツヨシとタケシはそのハムスターをはんぶんこに――しなかった。実際には途中まではんぶんこにしようと思っていたのだ。しかし生き物をはんぶんこにして構わないのか? そのような疑問が浮かんだのである。

 だが二人がためらい踏みとどまった時にはすでに遅かった。ハムスターの頭部が既にはんぶんこになった所だったのだから。

 ハムスターは死ななかった。二つに分かれた頭部を起点に、そのまま二つ頭のハムスターになっていた。二人は後に、ケルベロスの兄弟に二つ頭の犬がいた事を知るが、それはまた別の話だ。

 事の重大さにツヨシとタケシはおののいた。


「こんなのハムジローじゃない。二つ頭なんて化け物じゃないか」


 どちらともなくそんな声が上がった。ハムジローと呼ばれた二つ頭のハムスターは、不思議な事に元の一つ頭のハムスターに戻った。


 それ以降、二人ははんぶんこのナイフを使う事は無かった。

 はんぶんこにされかけて再び元に戻ったハムジローについては、それ以降特に奇妙な事は起こらなかった。ただ、五歳八か月とハムスターにしては驚くほど長寿だったという位であろう。

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