第2話 革命ふたたび
小説投稿サイト「ヨモカコ」にてテンプレ作品の上層への跋扈を食い止めるための減点方式がスベりにスベった事は、ウェブ小説を嗜む紳士淑女たちには周知の事実だった。
運営が善かれと思って敷いた方式は、却って投稿サイト内に混乱と混沌をもたらし、ランクに上がらぬ面々に労苦を強いる事となった。
――但し先の話はすべて「ヨモカコ」内の話である。「ヨモカコ」とは別のサイト、それも老舗で最大手の投稿サイト「作家になるぞ」では別の動きが待ち構えていた。
※
「クフ、クフフフフ……」
昼なお昏い部屋の中、液晶の光を眼鏡に反射させながらその青年は奇怪な笑みを浮かべていた。青年の名は谷岡菊雄。システムエンジニアに分類される生物である。ウェブ作家としての彼は「作家になるぞ」にてメインの活動を行っていた。ヒューマンドラマをベースに文芸の薫りを漂わせているのが彼の作風だった。異世界・ハイファンタジーが主流を占める中で不人気であるのは言うまでもない。
そんな折、菊雄はヨモカコで発生した革命を知り、その顛末も部外者として把握し分析する事が出来た。そして――おのれが今度は「作家になるぞ」にて革命を起こそうと考えたのだ。
部屋の主のように鎮座するゲーミングPCを操り、菊雄は最後の仕上げに取り掛かっていた。
システムエンジニアとしての職能を駆使して彼が作り出したのは、「ビフロンズ」と言う名のソフトの一種だった。ディープラーニング技術を知りえる限り結集させ、投稿サイト内にある小説を精査し、書き換えるという優れモノである。菊雄はこれで上位にのさばるテンプレ小説をテンプレ小説とは対極の存在にすり替えようと画策していたのだ。
「ヨモカコの連中は失敗したけれど、ボクのビフロンズは失敗なんてしない……これで、鬱陶しいテンプレ連中を地に引きずりおろせる……そうすれば、ボクが、いや真面目に小説を書いているみんなが喜んでくれるはずだ……」
「作家になるぞ」に仕込まれたビフロンズの効力は恐るべきものだった。テンプレ小説は皆ことごとくテンプレ小説とは対極の存在に置き換わってしまった。
しかし菊雄は悪ふざけが過ぎていたというほかなかった。彼がテンプレ小説とは対極であると定義したのは、その道の好事家でなければ好んで読まないようなアングラ小説だったのだ。全年齢向けの内容からはもちろん逸脱していた。大抵の作品がいたいけな美少年が餌食になるような、頽廃と冒瀆と悪徳に満ち満ちた代物である。
菊雄が何処でどうやってそのような内容を知ったのかは不明である。ともあれ、口にするにもはばかられるような内容の小説が「作家になるぞ」内に偏在する事になったのだ。
したがって、こちらの革命もかつてヨモカコにて発生した革命と同じく不発に終わってしまった。
革命の火種を起こそうとした谷岡菊雄はある日忽然と姿を消したのだという。有名テンプレ作家の怒りを買ったために消されたのだなどと言う噂がネットの海では飛び交ったが、当事者たちからの発言は何一つないので全ては憶測に留まるのみである。
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