第25話 消滅
「最初から分かっていたことだが、これで決定的に確定したって言っていいな。まったくもって、予想通りだ」
今まさに自らの元へと近づいてくる傭兵たちの様子を確認しつつ、繋はそんなことを口にする。
「貴族派か、反王族派か、それ以外か。呼び方はなんにしろ、いま動いている王族派的な派閥とは別の勢力なのは間違いないか。
しかし、どいつもこいつも、どの世界に行っても権力者ってやつはなんでこうも大規模に派閥を作りたがるんだか。面倒くさいったらありゃしない。それに、権力者の欲ってやつも毎度ながらひどいもんだ。どれだけ異世界の情報が欲しいんだよ、まったく」
先ほどまで楽しそうにしていた表情を一変させ、なんとも飽き飽きしたと言った表情を浮かべながら繋は本当に面倒くさそうにため息をつきながら呟く。
「まぁ、目的を果たせば強制的に元の世界に帰還するよう設定されているから、当然と言えば当然か」
だがすぐに悪戯を思いついた小さな子供のような表情を浮かべると、右手を目線の高さまで上げ視線を人差し指にはまっている指輪に向けた。そしてこれから起きる出来事に期待し、自然と口角が持ち上がった繋は一つの魔法を使用する。
「──
なんとも楽しそうに繋はそう口にした。
瞬間、指にはまっている指輪がぐにゃりと床に落とした粘土のように歪んだ。
指輪だった物体は滑らかな動きで混ぜ合わされ、ぐちゃぐちゃと、ぐにゃぐにゃとひとりでにうねりだす。
それはどうにも背筋に寒気が怖気が走るような、現実と虚構の境目が曖昧になってしまうような動きで、一分どころか十秒も見続けていれば頭の芯がマヒしそうな何とも言い難い動きだった。
いうなれば、SAN値に直接干渉するような動きと言える。混沌が這い寄ってくるような動きとも。
永遠に続きそうに思えたその動きはほんの三十秒ほどでピタッと止まり、今度は新たな形へと造り直されていく。
たださっきまでの冒涜的な動きとは違い、こちらは熟練された職人が行っているようなミリ単位の繊細な動きでだ。
同じように三十秒ほどで造り直された造り替えられた指輪は、元の形とは似ても似つかないシンプルなリング状の指輪となった。
新たな指輪は全体的に木目のような文様が見え薄く緑がかり、なんともシックな感じのデザインである。
目に見える形で変化した〔ステータスの指輪〕だったが、他にもしっかりと目に見える変化を起こしたものがあった。
それは、今も繋のいる丘へと向かっている傭兵たちの動きである。
初めに反応を見せたのは、パネルを展開し逐一監視をしていたグラルだった。
「な! 反応が消えやがった!」
グラルは目を見開き驚愕しつつも足を止めることなくすぐさま声を張り上げ、隊長及び仲間全員へと報告する。報告しながらも目線はパネルから離すことなく、再び点が現れないか器用に操作しながら目を皿のようにして監視を続けていた。
その顔には先ほどまで浮かべていた飄々とした表情は消え去っており、焦りの色が濃く浮かび上がっている。
「急ぐぞ!」
隊長はグラルの報告を聞き驚くような表情をわずかに浮かべたものの、すぐさま冷静かつ迅速な指示を全体に出し一気に全体の移動速度を上げさせた。
指示を受けた傭兵たちはすぐさま速度を上げ、一秒でも早く繋のいる場所へ向けて走り出す。
「おお、優秀優秀。なかなかできる奴らだな」
繋はその迅速な行動を目にして、感心した表情を浮かべて数度手を叩く。手を叩きながら「あいつら、ちょっと欲しいな」と小さく呟いた。
ここまでくれば、傭兵たちの目的が繋だと言うことは馬鹿でも分かるだろう。
つまり、城から抜け出した繋の捕縛。
ではそれが誰の指示かと言えば、国王の指示、ではない。
明確に、否だ。
なぜ国王の指示ではないのか、ないと言えるのか。
であれば、いったい誰の指示なのか。
これは少しばかり考えれば分かるほど簡単な問いである。
まず、繋たちにはめられた〔ステータスの指輪〕には、ステータスを確認する効果以外に発信機的なものが付けられていた。
何のために付けられているのかはさて置いておいて、そんなものが付けられているのであれば今現在も続いているように王城内を走り回り王都を巻き込むほどの騒ぎにする必要はない。王国兵たちを使う必要はない。
なにせ、めったなことでは外れない指輪に発信機が付いていると言うことは、すぐに居場所を特定することができるから。
なのに、ここまでの人員を使ってまで見当違いな場所を捜索すると言うことは、発信機のことを国王たちは知らないと言うことに他ならない。
ならば答えは明白だ。
世界的重要な勇者に渡すべく作られた魔道具に、これほど大胆な小細工できるほどの権力を持った何者かが、私利私欲のために動いている──と、言った答えが自然と導き出される。
ここで私利私欲であると断言する理由としては、私利私欲でないのなら国王に話しているはずである。なにせ、今は世界の危機なのだから。
そうしたことを指輪の発信機から経験則と照らし合わせて推測した繋は、誰かの思惑かを探るために見せるために動いたと言う訳である。
誰か、つまるところ飛び降りる前に老執事へと口にした言葉がそれだ。
「さて。大体わかったし、今日は帰るとするか」
一連の流れから大まかな情報を得た繋は、
「──【ゲート】」
用が済んだとばかりに移動系スキルである【ゲート】を、裸足で芝生を踏み鳴らしながら発動させた。
軽く踏み鳴らした瞬間、神界の時と同じく足元に黒い円が拡がり人ひとりが悠々と通れるほどに拡がりきると繋の体は円の中へと沈んでいく。ゆっくりと、まるで底なし沼に飲み込まれるかのように。
そして繋の体がすべて沈み証拠隠滅とばかりに黒い円が消えた直後、入れ違いのように傭兵たち全員が繋のいた丘の上へと到着した。
誰もいない、影も形も痕跡も形跡もない丘の上に。
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