森を抜ける

 魔銃を拾い上げると、僕は走り出した。後ろを振り返らずに、ひたすら我武者羅に。その罪から何としてでも、逃れるように。

 もう、森には男のような人しかいないと、思ってしまった。なら、そこに残る意味を見つける方が大変である。人が通ったと思われる道を辿り、僕は人が住む場所へと急いでいた。


 唸り声と共に、獣が突進して来る。魔銃より、習得した収納魔法を展開した。狼に角が生えた獣は、視界から消える。一度立ち止まって取り出すと、確かに亡くなった状態で入っていた。傷も何一つなく。生きているものを入れたら、中で死ぬ事が立証された。

 これで魔銃がいらなくなったので、売った方が価値があるのかもしれない。あの男が欲しがっていたほど。


 殺気を感じると、全方向から先程と似た狼が飛び出て来た。統一性が取れている事から、群れであると直感した。

 ──先程のが、遊撃役か? 

 見た感じ彼らも命懸けで、僕に向かっているようだった。なら、僕も命懸けであいつらに対抗する。ここで負けて、死ぬものか。あの男を倒せるのなら、こいつらも倒せるはずだ。──いや、倒すのだ。


 向かって来る狼達を、全部視界ではっきりと捉えた。フロントサイトの焦点に当てるように。戦闘機でロックオンするように。

 彼らを自分の中に取り込むようにイメージすると、姿を消した。

 ──収納魔法の展開だ。

 脳を全力で回転させる事で、掛かるスピードも早める事が出来た。彼らが何かを考える先に、魔法で収納して、中で瞬殺する。苦痛も与えずに。


 今更だが、これをあの男に使えば良かったのだった。だけど、先程はそんな事に頭が動く事はなかった。


 敵が消えた事で、息を整えた。少し立ち止まって、何とか深呼吸をする。走りまくっていると、大量がなくなるのを感じる。収納魔法で口に水を出して、飲んだ。


「…っ」

 体に痛みが走った。そこに手を当てると、血が付いた。男にやられた時の記憶が、一気にフラッシュバックされる。何もかも変わらず、死んでいるはずの男があの笑い声を上げる。決して忘れられない。この世界が僕が忘れる事を許さないように。さっきまでの自信が嘘のように、体がまた震え出した。


 ──怖い…死ぬ。


 死神の手が首を絞めているのを感じると、横から丸い物体が飛んで来る。僕は何も出来ずに、それを視界で捉えると消えるように、脳内で唱えた。

 その攻撃から逃れた事で、僕は近くの木に倒れ掛かった。

「もう、嫌だ…」


 だけど、そんな願いも無駄であるかのように、殺気が浴びせられる。疲れを奥に押し込んで、僕は再び走り出した。何としてでも、森を抜けそう、と。



 暫くすると、街と思われる大きな門が見え始めた。安心した僕は、糸が切れたように字面に倒れ込んだ。


 遠くで誰かが呼び掛けるのが、聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る