隣にある死

 その日も普段通り、魔銃を使い食材集めに励んでいた。魔銃がある事で食材集めも、格段に簡単となった。手の届かない所にあった実も泳ぐ魚なども、捕まえれるようになった。食材に困らなくなると知り、僕の生活は以前より快適になった。


 だけど、未だ不都合もあった。川から水を取り込む事は出来るが、水を飲む時は自分に向けて引き金を引く必要があった。銃弾は出ないとしても、中々の怖さは常にあった。口に銃口を当てるなど、自死する時のイメージが強烈にあった。それ以外に体を洗う時も、自分の頭や体に向けていた。



「痛っ…」

 魔銃で食材を集めている時に、痛みが頬に走った。空いている手で触ると、血が一筋垂れていた。

 攻撃された。しかも、魔法に。と、気付くのにさほど時間は掛からなかった。そもそも何かが飛ぶのも見えなかったら、あり得ない事ではなかった。

 命を狙われている事に膝が震え始めた。死がこれまで以上に身近に感じ取れた。きっと今回の攻撃も行なっている人は、警告でしかないはずだった。


「誰だ!」

 と、背後を振り向こうとした時に、今度は肩の正面を見えない物が削った。


 突然の痛みに僕は膝を着いた。魔銃を落とし、体を丸めて、次の攻撃にひたすら備えた。


「その手に持っている魔導具を寄越しな。そうすれば、命だけは助けてあげるぞ」

 と、茂みから男が出て来た。


 腰から剣を吊るし、顔は正しく悪党らしさの残酷さがある。異世界ものではよく見る、冒険者の姿だった。僕は体を絶望だけが包んだ。


「…本当に命を取らないのか?」


 魔銃が取られたら、生き延びれなくなる。


「どうだろうな? 何事も断言は出来ないぜ」

 と、男は笑いながら答えた。


 僕が怯えるのを、楽しんでいるようだった。

 …あぁ。生き延びれない。と、僕は自然と確信した。

 だけど、ここでは死にたくないと思った。何としてでも生存したかった。この異世界の明日を生きるために。


 僕の目に力が籠るのを、男は見た。

「何? この状況で生き残れると思っているのか?」


 男の言葉を無視しながら、僕は叫んだ。

「そうだ! 生き延びるのだ。お前なんかに殺されて堪るか」


 男がまた魔法を発動しようとするのが、見えた。掌に小さな明かりが灯される。足元の魔銃はもう届かない。

 その瞬間、僕は魔銃で使う収納魔法の感覚を思い出した。


 急いで、男が放った攻撃を収納する。突然の事に唖然とする男に、僕はその攻撃を放った。男の首筋に当たるように角度を調整しながら。予想通り、ケーキを切るように血管が切られる。

 男は断末魔の叫びを上げてから、息絶えた。僕は何も出来ず、その様子を呆然と見つめていた。



 血が手に流れて来る。

 男の死が、僕に押し掛かって来た。

 始めて人を殺した、生きるために。男が悪党であったとしても。


 これ以上耐えられなくなる前に、跡形もなく男を収納魔法で消し去った。

 視界から消えるだけでも、自分の罪がなかった事に出来そうだった。

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