14 異世界創世神話



 むかしむかし。

 戦乱が過ぎ去り、まだ白煙立ちこめる大地を見て、百の神々は大層お嘆きになられた。

 木々は枯れ、海は干上がり、山は千々に砕け、空は割れている。

 だから百の神々は、それぞれに自分の似姿を地上に使わし、産み、増え、作り、世界の傷を癒やせ、と、似姿たちに使命をお与えになった。

 だが大地に使わされた似姿たちの中で一人だけ、その使命に逆らうモノがいた。

 鳥人族バード・ヘッズの祖、リラ・ルーシウ。リラはただ、他の種族の祖たちがせっせと大地の復興に励んでいる間、壊れた大地を見ながら飛び続けるだけだった。神は、なぜお前は与えられた仕事に忠実ではないのか、と問いただす。するとリラは答えた。

「この世界が壊れていると、どうしてそうお思いになるのです? 私は今のこの世界を、ただ、美しいと思うのです」

 いたく気分を害した神はこう言った。

「災いなるかな傲慢なる翼。なれば汝の悲しみは喜びとされるべきである」

 と、このこと以来、鳥人族バード・ヘッズの涙にはあらゆる傷を癒やす力が与えられた。これを知った他の種族の祖たちはリラを追いかけ回すようになり、時折は捕まえ、大いに折檻して涙を得、瓶に詰めて重宝していた。が、やがてリラは追いかけ回される内、より良い飛行の技と、身を隠す術を身につけるに至った。

 一般的な獣人族ビースト・ヘッズは、見かけは完全な獣となる獣形態と、人と獣の間である人獣形態の二形態を持ち、自在にそれを行き来できる。鳥人族バード・ヘッズもそうなのだが、彼らに獣形態はなく、背と頭に翼を持つ人鳥形態と、完全に人間族ミッド・ヘッズにしか見えない人形態の二つを持つ。

 かくて現代に至るまで鳥人族バード・ヘッズは、異世界基準でも超常の癒やしの力を涙に秘め、その力を奪われぬよう、人里離れたところにひっそりと暮らす種族なのである。


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