13 権力-暴力=無力→権力=無力+暴力



 翌日。

「公平さんのばかぁ……」

 半泣きのミーカは、ベッドに横たわる、包帯だらけの公平の汗を拭ってやった。

「……しかたないだろぉ、滞納者には容赦するなって、冬杜さんが……」

 ミリーラの、商人職団ギルドお抱え荒事部隊に部屋を追い出され、ストレス解消の道具にされ、公平はおよそ全治三ヶ月程度の重傷を負っていた。荒事部隊としてはどうやら殺してしまいたかったらしいが、最中に部隊の一人、ミリーラになにか懇願していた人物が、これするとお金がもらえるんですか? というと、別に殺しても殺さなくても給金は同じだ、と気付いて我に返り、公平に唾を吐きかけて帰って行ったのだ。

 異世界では様々な傷や病気を治す、治癒術ヒーリングのスキルが発達している。が、それはあくまでも、自己治癒力を高め、傷の治りを早くする程度のもの。カンポの二階まで往診を願った治癒術士ヒーラーによれば公平は、死んでいないのが奇跡の重傷だという。今でこそ会話できる程度にまで回復はしているが、まだまだベッドから一歩も動けない状態。異世界の治癒術ヒーリング頼みの治療を続けるよりは、地球の病院に行くべきだとミーカは主張したけれど……公平が思い出した異世界転移の手引きの中には、厳重注意事項として「転移時に発熱などがある場合は直ちに使用をやめ、上司に申し出た後、可及的速やかに医師の治療を受けること」などとあったので、念のためこちらで体を休めてからにすることにした。

「じゃなくて……私を庇わなくても、よかったでしょう……!? 子ども扱いして……!」

「……嘱託職員が、正規職員と、一緒に公務災害です、とかなったら、面倒くさくて爆発しちゃうよ……大体、治癒術士ヒーラーさんは、診断書、出してくれるのか……?」

 部隊はミーカをも容赦なく襲おうとしたのだけれど、公平は彼らの足にすがりつき、それだけは防いだ。もっとも少女を庇おうとする公平が面白かったのか、代わりにお前を四倍痛めつけさせろよ、という申し出を快諾してしまったので、公平の怪我はさらに重くなったのだけれど。ちなみにそれを申し出た男はその返事を聞くと喜色満面に〈用心棒センセイ〉という称号コードから〈拷問者トーチャラー〉という称号コードに付け替えた。荒事部隊は情報収集も担当しているのだ。

「どういう理由ですかもう……!」

「あぶっ……」

 むにっ、と公平の唇をつまむミーカ。守られて嬉しいのが半分、お前は半人前だと言われて悔しいような気分が半分の、複雑な気持ち。

「旦那……お加減はいかがで……?」

 果物を皿に盛ったキィハァルが部屋に顔を覗かせる。

「お見舞い客がもう一人、来てましてね……ほら」

 そう言うと、ひょい、と脇に一歩どいてみせる。

 キィハァルの背後には、一人の少女が立っていた。いや、ひょっとすると少女という言葉さえ当てはまらないほど幼い娘。丸みを帯びた可愛らしい顔を沈痛な表情に曇らせ、ベッドの公平を見るとはっと息を呑む。

「あぅ…………あ、あの……ご、ごめん、なさい……」

「あれ……あなた……」

 ミーカが目を丸くする。ミリーラに、平和に済ませようと懇願していた荒事部隊の一人だ。兜を目深に被っていてわからなかったけれど、どうやら本当に少女だったらしい。

 少女、〈傭兵マーセナリー ニコ・サイオン〉が涙を流しながらそう言うと、背中に突然、羽根が現れた。翼を一つはためかせると次の瞬間にはもう、公平の枕元に立っている。忽然と消えたようにしか見えないほどの速度だった。

「ほ……本当に……ごめん、なさい……」

「え、あ、いや……」

 ニコは泣き崩れ、公平の上に屈み込んだ。優しく彼の頭を抱えると、ゆっくり目をつぶり、顔を押しつける。涙はニコの頬を伝い、公平に落ちると、不思議な白い光で彼を包んだ。


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