六月下旬某日その2

 倉庫に着くと高橋はやはり跳び箱の付け根に寄りかかっていた。定位置ではなく遠すぎず近すぎない場所に座る。


「ほら、これ」


そう言って僕は重箱を手渡す。自分でも無愛想だと思う。


「他に言うことは?」


お礼でも言って貰えるかな、そんな思いとは裏腹に高橋は早速本題に入る。


「逃げ回ってすまなかった」


屋上で話したときはそんなに怒ってないと思ったんだが気のせいだった。とりあえず謝る。


「何で逃げてた」

「女々しすぎて言いたくない」


仲良くないんだと思ったら話すのも会うのも気まずくなったなんて本当に女々しすぎる。


「...嫌われたかと思ったんだぞ」


しおらしい高橋はなんか、うん。


「そんな顔すんなよ...」


僕は事の顛末を出来る限り自分が恥ずかしくないよう話した。


 高橋は少し考えた後、

「馬鹿な上に気持ち悪い」


そう言った。しおらしい高橋はどこだ?


「あー、そうだよ。気持ち悪いよ」


拗ねてみた。


「だって、教室は色んなひとがいるんだぞ。皆に見られたら恥ずかしいじゃないか」


高橋が何か言い始める。


「何が恥ずかしいんだ?」

「私が男子と話してるのは不自然だ」


合点がいった。


「あぁ高橋、女友達すらいないもんな。そりゃ狼狽えるな」


教室で高橋はいつも独りだ。僕もだが。


「お前だって友達いないだろ!そっちだって本当はただ女子に話しかけるのに狼狽えてたんじゃないのか?」


それもある、と思わず言いかけてしまった。


「そういえば僕と高橋がつるんでるのは高橋のコミュニケーション能力がどうとかだったよな?」


高橋式の強引な話題変えである。


「ん、あぁ。そういえばそうだな」


矛先を高橋へ。


「じゃあ高橋は友達が出来てないと駄目じゃないか?」


間。


「よく考えたら友達がいないやつとコミュニケーション能力を高めようとしても意味なくないか?」


矛先はまた僕へ。


「もういい、もういい。お互いの傷を抉るだけだこれは」


私もそう思うと高橋は納得してくれた。


「でも私たちは、一旦友達だよな?」

「そうなんじゃないか?よく分からないが」


そう返すと高橋は「まだな」、小さくそう言った。意味を聞いても「うるさい」しか言わなくなってしまった。やはりまだ怒っているのか?


 そのあとある程度ちゃんとした会話をして僕は家に帰った。高橋は午後の授業に出ないとマズいらしくサボっているのに苦しそうだった。

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