六月中旬某日

 いつも通りサボりに倉庫へ。いつもと違うのは朝サボりではなく昼サボりということか。


「高橋、いたのか」


 採光窓が南向きだからか、いつもより倉庫内は明るい。高橋の顔がよく見える。片方のほっぺが膨らみ、その反対側の口元にごはん粒がついていて、なかなか子供っぽい。小馬鹿にして言うなら可愛らしいと言ったところか。


「悪いか」


 高橋は依然頬張りながら言う。


「別に」


 サボっていることを除けばが。それは僕もなので何も言わなかった。定位置に座る。


「早弁か」

「なんだ、女子が早弁しないとでも?」

「いや、ちゃんとした弁当なんだなと思って。僕はいつもコンビニで済ませるから。」


 高橋の手には小さめの二段の弁当箱の片方が収まっていて、それはごはん、もう片方は足下の床に。そっちはおかずだ。そしてその横にゲームが起動しているスマートフォンが置かれている。


「朝はサボるからな。時間があるからたまに自分で作ってくるんだ。」


 ごはん粒に気づき、それを箸で取って食べる。器用だ。


「”朝も“だろ」

「まぁな」


 ふてぶてしく言う。


「でもまぁ、弁当が茶色いのはイメージ通りかな」

「うるさいな。たまたまだよ」


 そう言ってごはんをかき込む。飲み込んで、


「お前も早弁しに来たんじゃないのか?」


 僕の指に引っかかっているビニール袋を見ながら言う。中には言ったとおりコンビニで買った昼食が、もといパンが入っている。


「まぁな」


 ばれないよう真似する。


「うわっ」


 ビニール袋からパンを取りだしたとき、高橋は言い放った。


「何だよ」

「不健康そうなパンだな」

「ピザパンがか?」

「よくそんなの食えるな」

「コンビニに失礼だろ」

「コンビニなんかに義理はない」

「あっそ。それに僕の勝手だろ、何食べたって。茶色い弁当を女の子が食べるみたいに」


 とんでもない失言をしようと思って僕はした。


「お前、私の弁当を馬鹿にしたな」


 怒っている、と思う。続けて、


「私の母親はな、なかなかの飲食店に勤めて料理人してるんだ。結構教えて貰ってる。だから料理は人より断然上手い自信がある」


 何か語り始めた。


「分かったって。悪かった」


 とりあえず謝る。


「クラスの女子の食べているあんなおちゃらけた弁当と一緒にするな」


 人の話も聞かず、怒濤に話し続ける。そのあと、小声で「...見たことないけど」と言った。そこで勢いが収まった。


「んん、とにかく今日はたまたま茶色いだけだ。」


 それでも念押しに言ってくる。


「分かったってば。それによく分からんが料理は見た目じゃなく味だろ?不味そうとは微塵も思ってないからな。寧ろ美味そうだ。」


 実際、おかずの方に入っている唐揚げはとても美味そうだった。


「そ、そうか」


 ちょっと困り気味に言う。褒めても駄目か。


「とにかく納得がいかない。茶色い弁当しか作れないわけじゃないんだ。明日また弁当を作ってくる、完璧な弁当をな。」

「そうか」

「だから見に来い」

「やだよ」


 なぜ弁当を見るために授業をサボるとかいう謎なことをしなければならんのか。


「いいから来い。この時間にな」

「分かったからパンを食べさせろ」


 これは本気だと思い、折れることにした。


「分かればよろしい」


 そのあとパンを咥えながら本を読んでいたら「行儀が悪い」とか常識的なことを言いやがるので「そっちだってゲームしてるだろ」と言ったやった。


 すると高橋は不服そうにスマートフォンを仕舞い、「ほら」と言った。仕方がないので僕も本を閉じ、四時間目から昼休みが終わるまでくだらないことを駄弁った。

 午後の授業に行こうとしたとき高橋に「明日、逃げるなよ」と言われた。

「そっちもな」と言っておいた。

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