六月上旬某日

 朝から数学などくだらん事はやってられない。いざ倉庫へ。


「またいた」

「お返しに“また来た”をやろう」


 高橋はスマートフォンに傾倒しながら言う。勿論、定位置にいる。僕も定位置に、文庫本を開く。


暫くして、

「そんなに本読んで、面白いのか」

「面白いから読むんだろ」


 言わずもがなだ。ふーんとだけ帰ってきた。


「何か読むか?おすすめはたくさんある」

「活字は嫌だ」

「僕はゲームに付き合ったっていうのにか?」


 僕はこう言われると思っていたし最初からこう言うつもりだった。


「嫌なやつだな。...おすすめを頼むよ」


 本当に聞き分けのよさは褒めなくてはならない。


「分かった。図書室に行ってくる」


 僕は立ち上がり扉に手を掛ける。


「逃げるなよ」


 僕は何処かの誰かの台詞を言った。


「わーてっるよ」


 高橋はうざったく言う。


 僕は図書室で借りられる上限の三冊中の一枠を今読んでいる文庫本に使っているので残りの二枠でおすすめを借りてきた。


 一つは短編。短く読みやすい。何より一冊で完全完結しており、スピンオフや何か関わりのある作品などもなく予習なしで読める。  

 もう一冊は同じような説明が出来る長編だ。


「好きな方を選べ」

「こっち」


 即答で短編を選んだ。下手に同じような長さだと選びにくい。なぜなら本を読まない奴は内容などはまず気にせず、本の厚さを見るからだ。


 片方を長編にして、こっち方が薄いからこっち。みたいな風に即決してくれるだろ作戦は見事に成功した。


「ふーん、コメディ、ユーモアねぇ」


 不服そうに高橋は裏表紙のあらすじを見ながら言う。


「どうせだし僕は高橋に教えて貰ったゲームをやってるよ。趣味の共有っていうのはなかなか楽しいのが分かったからな」


 僕もやるんだしお前もやれ、みたいなことを柔らかく言う。


「あっそ」


 そう言って高橋は本を読み始めた。


 一、二時間目が終わるまで僕はゲーム、高橋は本を読んでいた。そして僕がサボりやめようと倉庫の扉に手をかけると、


「明日までに読んでくるから感想は待ってろ。」


 高橋は僕の背中にそう言う。


「別に全部読んで貰おうとかそういうのじゃなかったんだけど」


 振り返る。


「いいんだよ。とにかく明日また、ここに来い」


 なぜか目を合わせてはくれない。


「えー」


 サボりのお誘いを受けていいものかと決めかねた。


「とにかく!」

「わーったよ」


 扉を開け、外に出る。締めざまにまた明日、と言っておいた。高橋はうん。とだけ言った。そんな高橋は僕おすすめの本に傾倒していた。

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