五月下旬某日

 またサボりに体育館倉庫へ。するとまた例のごとく例の女生徒がいた。彼女の定位置は跳び箱の付け根らしい。前のようにスマートフォンをいじっている。


 柄にもなく話しかけてみた。


「またサボってるのか」

「そっちもでしょ」


 本日のファーストコンタクトとしては上出来だ。僕は定位置に座り、文庫本を開き、暫くして聞く。


「なぁ、スマホでずっと何してるんだ?」

「ゲーム」


 向き合うこともなく会話は続く。


「面白いか?」

「面白いからやるんだろ」


 御尤もだ。僕は文庫本に戻る。すると、


「なんか馴れ馴れしいな、お前」


 そう言ってきた。


「初対面であんなこと聞いてくる奴よりましだ」

「あれは忘れろ。他人と会わなすぎてコミュニケーションを間違った」

「じゃあ丁度いいな。僕でコミュニケーション能力を鍛えるといい」

「友達は欲しいが私はお前と仲良くなんてなりたくない」


 あまり教室にはいないのでいるときは目につく。と要らない前置きを一応しておく。


 彼女はいつも教室で独りだ。見た目の凛々しいイメージのせいで独りでも平気なタイプだと勝手に思っていた。


 それにしてもこの発言は結構傷つく。


「それならそれでいい。でもそんな奴とこんな所で二人きりなんて耐えられるのか?因みに僕はこの場所を譲る気はないからな」


 傷心中とはいえ僕も大いにコミュニケーションを間違っていると言った後気づいた。


「分かったよ。それなら、ゲームでもやるか」

「嫌だよ」


 聞き分けのよさは褒めるが実際、僕も彼女とあまり仲良くはなりたくない。


「お前からコミュニケーションがなんちゃらって言ってきたんだろ。逃げんな」

「仕方ないな」


 仕方がなかった。


 そうやって言われるがまま指定されたスマホゲームのアプリをインストールしゲームを一緒にする。


 ゲーム内の名前を南にしたら何で南なんだ?と言うから本名だと言ったら笑って、しょうがないなと言って彼女はゲーム内の名前を高橋にした。


 なぜ本名だと面白いのか。


 彼女は ゲームのやり方を割と真面目に享受してくれたがよく分からなかった。何よりあまり面白くない。


 少し楽しくはあったが。

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