第24話 そういう神であってほしいというシンカリアの本音
その弾は巨躯を誇るベルドリーゼの拳よりも大きく、磨かれきった宝石のような輝きを纏って夜闇を切って行った。
そして、その巨弾はベルドリーゼの拳へぶつかる。瞬間、シンカリアに向かって振り下ろされていたその拳を見事に爆発四散させ、この究極爆破魔法ゼオガ・ブラストの威力を見せつけた。先程ベルドリーゼ目がけて撃った超爆破魔法ハイ・ブラストとは比較にならない攻撃魔法であると、この場にいる全員を驚愕させる。
ベルドリーゼの拳は跡形も無く吹き飛んでしまい、さらにそこから腕部分を伝って全身にダメージが伝わって行き――――――――直撃箇所である腕はそのまま崩壊していった。
究極爆破魔法ゼオガ・ブラストのダメージはベルドリーゼを半壊させたに等しく、破壊された箇所からリザードマン達が落ちてくる。ベルドリーゼを動かすため配置についていた魔物達だ。崩壊から逃げるのが間に合わなかったのだろう。
「えええぇッ!? なんですかこの威力ッ!?」
「シンカリアはこんな魔法を会得していたのですか…………」
あまりの威力にリィンリンやレスクラは唖然としてしまっている。選定零組ティーレアンに転生者特攻があるといっても、あまりに異常な破壊力だった。
「…………やっぱ燃費悪すぎだわこの魔法…………連射も効かないし、やっぱ対城とか対要塞とか…………そういうモノ相手にしか使えないわね…………」
シンカリアは両手を合わせ、人差し指と中指を銃のように構えてベルドリーゼに向けていた。
その指先から白い蒸気が漏れている。究極爆破魔法ゼオガ・ブラストを撃った事で魔力の残滓が蒸発しているのだ。上級を超える魔法を使用した際によく見られる現象である。また、使用者の実力に不釣合いな魔法を使った時にも見られる現象だ。
「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
ゼスターにとってこれはあり得ない状況だった。
ベルドリーゼは選定零組ティーレアンと戦えるために造ったモノだ。それはさっきの超爆破魔法ハイ・ブラストで証明されている。シンカリアの放った上級魔法に余裕で耐えきり、ダメージは皆無に等しかった。
ベルドリーゼの防御仕様は余裕があり、超爆破魔法ハイ・ブラスト程度では総防御力の一パーセントも使わない。そのため、上級魔法をここまで完全防御できるなら、さらに上である究極ゼオガ級魔法を撃たれても何の問題もないと思ったのだ。
「バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
だが、事実として防げるはずのモノが防げていない。結果として耐えられるモノが耐えられていない。
ゼスターはエルブナリア人(異世界人)であるシンカリアを最後まで甘く見た。
ゼスターは敗北決定になる絶対に言ってはならない言葉を絶叫しながら、この事態に混乱していた。
「どうしてって顔してそうね………………なんでって思ってそうね…………耐えられるはずの魔法をくらって、なんで大破してるんだって………………」
かなりの大魔法だったのだろう。シンカリアは肩で息をしつつ身体をフラつかせながら、ゼスターがいるであろうベルドリーゼの頭部分を見上げた。
「あんた達はね………………異世界人を侮りすぎなのよ………………異世界人はみんな転生者よりも下だって思いすぎてんのよ………………私達は決してアンタ達より下なんかじゃない…………常にふざけた力チートで私達に無双できると思ったら大間違い…………私達の力が転生者を超える事だって往々にしてあるのよ………………ふざけた力チートなんかに負けない強さが………………異世界人が転生者の上を行く事だってあんのよッ………………!!」
シンカリアは再び自身の両手を合わせ、人差し指と中指を銃のように構えた。
「異世界人なめんじゃねぇっての」
二発目の究極爆破魔法ゼオガ・ブラストがベルドリーゼを完全破壊するために発射される。
それは佐藤正信という日本人が、異世界人のシンカリア・ヨリナガ・レシュティールに敗北した瞬間だった。
「で、この男はどうするのですか?」
ベルドリーゼが大破し、吐き出されるように空から落下してきたゼスターがシンカリア達の傍に転がっていた。
上空から落下して無事なのはふざけた力チートによるモノだろう。だが、身体は無事でも本人は白目を向いて気絶しており、ピクリとも動く様子はなかった。
つまり心や精神が敗北し、言うならば再起不能状態になっていた。
「まあぶっ殺よね。ここまでされたんなら」
座り込んでいるシンカリアは、そんな無様なゼスターを見てあっさりと呟いた。
クリハラの時とは違う。ゼスターはエルナブリア王国へ戻ってきたのだ。
しかもエルナブリア王国を再びムチャクチャにするために。エルナブリアに住む者達の事など何も考えず、とにかく自分が気持ち良くなる世界を楽しみたいだけに。
「世界移動魔法リリルージヨンで転送しても、またすぐ死んで戻ってきそうだしね。それに、コイツは私に納得してやられたワケじゃない。今はノビてるけど、起きたらまた同じ事繰り返すだろうし。特に私への憎悪は半端なさそう」
シンカリアは気絶しているゼスターに手を向ける。
「やれますかシンカリア?」
「正直しんどいけど、超爆破魔法ハイ・ブラスト一発くらいはなんとか撃てるわ」
ゼスターがエルナブリア王国にマイナスしかもたらさないのは明白だ。シンカリアの言う通りだし、捻くれた内面が改善される期待もできない。
「超爆破魔法ハイ・ブラスト――――――」
だが、リィンリンはそんなゼスターを――――――
「待ってくださいッ!」
――――――超爆破魔法ハイ・ブラストをゼスターに撃つのをやめさせるべく、リィンリンはシンカリアの腕を握った。
「お願いします! マサノブさんは私に任せてもらえないでしょうか!」
リィンリンはシンカリアの目の前で地面に額を擦りつけながら言った。
「…………リィンリン。あなたは自分が何を言っているかわかっているのですか?」
「わかってる!」
「この男はシンカリアの世界をメチャクチャにしたのですよ? 全ての元凶なのですよ? エルナブリアの危機はゼスターがもたらした事を理解しているのですか?」
「理解してる!」
答えに淀みが無い。言われる事は想定できるし覚悟もしていたのだろう。リィンリンの言葉には明確な意思があった。
「調子のいい事を言ってるのはわかってます! とんでもなくフザけた事を言ってるのも理解しています! 神の力を奪われたお前がどの口で言ってんだって事も!」
全てはリィンリンがゼスターにふざけた力チートを与えてしまった事から始まった。ゼスターがリィンリンから神の力を奪い、地球人にふざけた力チートを与える転生をやり続けた結果、今のエルナブリアの状況となったのだ。
「でも私はマサノブさんにふざけた力チートを与えてしまった責任を取らなければいけない! 力を与えてしまった神として、そこに何も触れず無視してしまうのは違うと思うんです!」
そして、その状況になったツケはシンカリア達が払った。決着をつけた。原因のきっかけであるリィンリンは何もしておらず、何もできず、ただ見ているだけだった。
そう、リィンリンはただ助けてもらっただけ。
事態はシンカリア達が解決し、リィンリン自身はこの一件に対して行動も決意も何もしていない。
「責任とはゼスターを殺す事では無いのですか? ヤツが死んでこそ、リィンリンの責任が果たせるのでは?」
「…………マサノブさんのやってきた事は死んで済むような小さなモノじゃない。死んで全て終わったなんて…………マサノブさんにとっても私にとってもやっちゃいけない事だと思う…………逃げてるに等しいと思うから…………」
だから――――――――神としてもリィンリンという個人としても、これだけはやらなくてはならない。
シンカリアへの大きな貸しを返すためにも。
死という安易な解決にして逃げないためにも。
「これからの私はマサノブさんとエルナブリアのために動きます。マサノブさんがすぐに協力するのは難しいと思いますけど、絶対にお手伝いさせますから」
「………………とんでもない事をサラッといいますね」
リィンリンの爆弾発言にレスクラは少し呆れてしまうが、レスクラは転生者による被害の件に関わっていない。当事者や関係者では無いのだ。そのため、それ以上何も言う事はできなかった。
「…………いいんじゃない。私は別に文句無いわよ。罪を償うってんならそれでいいし。レスクラも問題ないでしょ?」
「シンカリアがそう言うなら私はその意見を肯定するだけですが」
なので、被害者であるシンカリアがリィンリンの行動と決意を良しとするのなら、レスクラに否定する気は全く無い。
「ま、そこまで言うからにはゼスターに確実な首輪をつけられるんだろうし……………………それに私はそういう神の方が好きだから」
「マサノブさんの管理は任せてください! シンカリアさんに敗北して心が折れてますし、気絶してるのもありますから、もうふざけた力チートは私の許可無しに使えないよう封印します。当然、エルナブリアへ悪影響が無いようにです」
リィンリンと気絶しているゼスターの身体が夜空へ浮いていく。神世界メルガリアのアルドゥーク神殿跡へ帰るのだろう。アルドゥーク神殿は破壊されているが、リィンリンに困った様子は見られない。別に建物は無くとも、神の仕事(義務)に支障は無いようだった。
「ソイツの矯正は難しいだろうけどしっかりやんのよ。もうあんなデッカイのをブッ倒すのはゴメンだわ」
「はい! 本当にありがとうございました! また何処かで!」
しばらくしてリィンリンとゼスターの姿は消えた。その後、シンカリアは静かな周囲を見渡してから、とりあえず色々と終わったのだと実感する。
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