第23話 転生者が異世界転生したい理由
ベルドリーゼ(巨人)については、ふざけた力チートと魔物を使って完成させたという事で無理矢理納得できる。
だが、当人のゼスターがここにいる理由はわからない。
あの時、ゼスターは確実にシンカリアが展開した世界移動魔法リリルージヨンによって転送された。それは絶対に間違いないのだ。
なのに、何故ここにゼスターがいるのか。
自力で戻ってきたと考えるべきなのだろうが、ふざけた力チートで異世界移動はできない。神の力なら可能かもしれないが、その力ははリィンリンに戻っているのだ。今のゼスターに異世界移動ができる技術スキルや方法は無いはずだ。
だが、ゼスターはシンカリア達の前に姿を現した。
ならば戻れた理由が必ずある。しかし、一体どうやってエルナブリア王国にやってきたというのか。
「そんなの簡単よレスクラ。ここに戻ってくる方法なんてもの凄く簡単」
ゼスターがここにいる理由。シンカリアは気づいている。
シンカリアは転送したはずのゼスターがここにいる事に意外とも何とも思っていなかった。
「アイツ、また死んだのよ。死んだからココにいるの。きっと、転送されて速効で自殺したんでしょうね。ふざけた力チートがあろうと以前住んでた世界に戻るのが嫌すぎて………………」
シンカリアの言う通りだった。
そう、ゼスターがエルナブリア王国に戻ってきたのは至極当たり前で、何も難しい理由など無いのだ。
転生者は死んでしまったからアルドゥークに来る。アルドゥークに来るからリィンリンが転生させる。転生するからエルナブリア王国にいる。エルナブリア王国にいるから第二の人生を送る事ができる。
だから、死んでしまえば戻ってこれるのだ。また命を落とせばアルドゥークにやってくる事ができるのである。
「死んでアルドゥークに来る事ができれば………………まあ後はふざけた力チートでどうにでもできるんでしょ。ふざけた力チートでできないのは異世界移動とか限られた事だけだしね。コイツ、こんな巨人を造れるようなヤツだし、アルドゥークにさえ来ればふざけた力チート使って他諸々の事やるのは造作もないわよ」
「ほう? さすがそこのチビより年上なだけあるな。無駄に育ってるのは身体だけではないらしい」
「…………一応、転生者の事は勉強してるからね。ちょっと察しやすいだけよ。まあ、こんな巨人出現は発想も予想も何もなかったけど。あと、私の方がレスクラより年下だから! 年下だからね! 別にどうでもいい事だけど!」
多少なりとも思う事があるのか、ツッコミ担当として言うべきと思ったのか。どうでもいいと言いつつ、年齢の事をしっかり訂正するシンカリアだった。
「でも、よく光の速さで死ねたわね………………怖さとか無いワケ? 死ぬってかなり覚悟いる行為だと思うんだけど?」
「フン、お前はには何もわからんだろうさ。俺にとって、地球で生きる方が死ぬより覚悟がいるんだ」
「………………どんだけ前の世界の事が嫌いなのよ」
ふざけた力チートを持ったまま戻ったのだから、死ぬ前と同じ状況では無いはずだ。むしろ、以前にはなかった余裕があるはずだが、それでも地球という場所はゼスターにとって生きにくいようだった。日本という場所で生きる事は、ふざけた力チートがあっても嫌になるくらい絶望的な世界らしい。
「なんか興味出てくるわね。ふざけた力チートがあっても嫌なままな世界があるなんてさ。ひょっとしてふざけた力チートって大した力じゃないの? 地球は誰もがふざけた力チート以上の力を持ってるヤツらだらけとか、そういう事なの?」
「…………わからねぇかなぁ」
心底呆れたため息をゼスターはつく。
「あのなぁ…………ふざけた力チートがあっても意味が無いんだよ。ふざけた力チートがあったって、地球で俺の都合良い出来事イベントが起きなきゃ意味ねぇんだよ! だから楽しくねぇんだよ! つまらないんだよ!」
ベルドリーゼで地団駄を踏みながらゼスターは語り出す。
大地を揺らしながら日本で生きていた頃を思い出し、怒りで興奮していた。吐いた言葉には、青空に向かって廃棄物で染めた砂利をぶち込むような憎悪がある。
「ふざけた力チートがあるからなんだ? 元いた世界でふざけた力チートを使えば問題ないってか? それじゃあ意味ないだろ! ストレス感じてた世界でそんな事しても自分の過去を捨てられないだろ! 毎日を楽しく生きるにはワクワクしなきゃいけないんだよ! 地球じゃワクワクできないんだよ! そんなの日本じゃ無理なんだよ! 自分の知らない世界で自分に都合の良い出来事イベントが起きないとダメなんだよ! それでいて世界が俺を優遇してくれないとダメなんだよ! 破格の待遇を用意し続けてくれる異世界でないとダメなんだよ!」
ベルドリーゼの地団駄が強くなっていく。ただでさえ地面を割りそうな強さがあるため、だんだん周囲の地形が変わり始めた。辺りの地面が地割れと陥没だらけになり、遠くの木々は軒並み倒れ始め、一部の山は沈み込んでいる。
「だから俺はエルナブリアに帰ってきた! 速効で爆走するトラックに飛び込んで即死してやった! 俺に都合良い出来事イベントをたくさん起こしてくれる世界に戻るために! 俺の故郷へやって来るために! 気持ちよくワクワクできる世界で過ごすために!」
ゼスターは何も気にしていなかった。
己が起こしている災害に目を向けている様子が全く無い。ベルドリーゼの出現によって飛び去った鳥達の群れにも、逃げるように大移動した動物達にも、今頃大騒ぎしてるだろう遠くの町に住む住民達にも。
己に起こっていた理不尽さや、思い通りにいかなかった世界と、シンカリア達への怒りだけで――――――――――――――視覚的にも心情的にも自分の都合しか見えていなかった。
「…………私さ…………転生者って基本はバカで自分に自信が持てない器の小さいヤツだと思ってるけど………………別に悪だとは思ってないの。ムカついても憎んではいないし、フザけんなとは思っても殺したいなんて思わないし、キモいとは思っても本人を否定する気にならないわ。私は転生者ってヤツを……………………褒められて頼られたいから行動してるだけのヤツだって………………それをしたいためだけにふざけた力チートなんてモノを使うヤツらだって………………まあ、基本的にはそう思ってるの。基本的にはね」
そんなゼスターを見てシンカリアはどう思ったのか。
シンカリアの目はゼスターを転生者として見ておらず、明確な敵だと認識していた。
「でも、アンタは違うわね。転生者ってのは神からもらったふざけた力チートを自分の力だと勘違いしてるヤツが多いけど、アンタはそれが行き過ぎてる。捻くれた自信が全ての行動を悪にしちゃってて、どうしようもなくなってるわ。急に力を持ってチヤホヤされれば捻くれてくもんだけど…………そうなるのは仕方ないけど…………そこに同情する気や意味は全く無いわね」
クリハラの時とは違う。
シンカリアはゼスターを滅すべき悪だと断定している。
「異世界人は黙っておけッ! お前達は転生者達のカマセ犬でやられるだけでヨイショするだけで常に俺の上に立つ事はできない弱い味方で俺の言う事は何であろうと肯定する! 常に俺を認める存在なんだッ! なのに、あろう事は俺に説教なんてストレスを与えるヤツはッ!」
確実に一撃でシンカリアを殺すと決めたのだろう。
ゼスターは一振りするだけで街を崩壊させられそうなベルドリーゼの拳をシンカリアへ放った。
明らかに過剰な威力であるその拳は、ゼスターがシンカリアに対してブチ当てたい己の感情だった。
「転生者のためにならない異世界人はここで滅殺デストロイだぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ベルドリーゼが打ち下ろす拳に速さは無かった。だが、あまりに大きな拳のため、狙われればその攻撃範囲から逃げる事はできない。移動魔法を使えばいいのかもしれないが、そうすれば多光線撃ミハイラルなどの攻撃でどのみち迎撃されてしまうだろう。
だからシンカリアがすべき行動は――――――――――攻撃しかない。
「超爆破魔法ハイ・ブラスト!」
シンカリアの超爆破魔法ハイ・ブラストが振り下ろされるベルドリーゼの拳に命中する。
だが、あまりにも対象が大きすぎる。超爆破魔法ハイ・ブラストではベルドリーゼの指先に刺激を与えるのが精々で、とてもダメージと呼ばれるモノになっていなかった。
――――――――しかし、それは普通の場合だ。
シンカリアは選定零組ティーレアンでゼスターは転生者である。
今のゼスターに神の力は無い。
なのに、どうしてシンカリアの超爆破魔法ハイ・ブラストが通じないのか。
「そんな!? シンカリアさんの攻撃が通じてない!?」
「もうゼスターに神の力はない…………ただの転生者になっているはずです…………シンカリアの攻撃はゼスターなら何だろうと通じるはずですが…………どうして…………」
ベルドリーゼにシンカリアの攻撃が通じていない事にリィンリンとレスクラは驚愕する。
ゼスターがどんな力を持とうが振るおうが、転生者という存在なら転生者特攻と耐性を持つシンカリアに勝つ事はできない。これは法則であり、どんなに巨大だろうと強固な防御手段があろうとシンカリアの攻撃は転生者の防御を必ず貫く。耐えらえないのだ。
なのに、シンカリアはベルドリーゼにダメージを与えられていない。いや、正確に言えばギリギリ嫌がらせと呼べる程度のダメージは与えられている。だが、選定零組ティーレアンと転生者の相性を考えればこんなのはあり得なかった。
「俺が何故こんな巨大ロボに乗ってると思ってるんだ!? 転生者特攻と耐性を持つ相手に勝つためだろうが! お前が俺に対して有利と言われているのは、あくまでダメージの増幅と軽減だッ! なら、そんな増軽減されても関係無いダメージを与えて防げるようにすればいい! それがこのベルドリーゼだッ!」
これはゼスターなりの選定零組ティーレアン対策だった。神の力が無くなって転生者の力だけになったとしても、選定零組ティーレアンを蹂躙できるよう造りあげたのである。
選定零組ティーレアンは転生者に対して圧倒的有利に戦える存在だ。転生者が選定零組ティーレアンと戦えば殺されるのが大半である。
だが、その特性はあくまで転生者からの攻撃を軽減し、転生者という対象への攻撃を増幅するだけ。無効や一撃というワケでは無いのだ。軽減されても問題無い絶大なダメージを与え、増幅された攻撃に耐えられれば、別に転生者が選定零組ティーレアンを相手にしても問題ないのである。
脳筋巨人ベルドリーゼ。
このベルドリーゼはそういったコンセプトから生まれたゼスターの切り札だった。
「絶望を見せろ! 俺にカタルシスをよこせッ! 異世界人を蹂躙するのはッ! いつもどこでもこれからもッ! そう! 転生者だぁぁぁぁぁぁ!」
ベルドリーゼの拳は止まらない。選定零組ティーレアンに対抗できていると確信し、それは勝利であるとも確信している。
事実、シンカリアはどうにもできなかった。本来なら相手が山より大きかろうと海より深かろうと、さっきの超爆破魔法ハイ・ブラストで全て決まっていたはずだ。本来の何倍何十倍ものダメージが全身全体へと駆け巡り、一撃で終わったはずである。
なのに、それができなかった。
つまり、ベルドリーゼのコンセプトは単純ながら成功しており、この巨人なら選定零組ティーレアンを倒せる。もうゼスターに怖いモノは無く、再度リィンリンから神の力を奪い取れば、再び転生者のための世界おもちやを作る事ができる。
転生者のために――――――――――エルブナリア王国に犠牲になってもらう気持ちの良い世界を。
だが――――――――――――――――
「調子にのらないでよねッ!」
――――――――――――当然、そんなのシンカリアは許さない。
それに、ベルドリーゼなどという巨人ガラクタに敗北するなど、シンカリアは微塵も思っていなかった。
「究極爆破魔法ゼオガ・ブラストッ!」
瞬間、シンカリアから極大な赤のエネルギー弾が放たれた。
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