第22話 まだ終わらない! ゼスターの逆襲だ!

「あら? ここって…………」






 転送先の風景を見て、思わずシンカリアは言葉を漏らした。






 「うむ、間違いない。自分とシンカリア君の出会った場所だね」






 夜だったが、月明かりが強いため周囲ははっきりと見えている。




 周囲で青々とした草原が気持ちよく風に靡かれているのは見覚えある風景だし、ここで起こった最初一番の出来事イベントのせいで忘れようにも忘れられない。




 ここは今日シンカリアが修学旅行開始のため勝手に連れてこられた場所で間違いない。少し向こうには、サトリマックスを埋めようとして爆破魔法ブラストで空けた穴も見えていた。






 「懐かしいなぁシンカリア君。ここで自分と君は運命的出会いを果たしたのだったね」






 「正直に言うわ。キモいんだけど」






 「あ、ここでシンカリアさんと…………えっと、サトリマックスさんは出会ったのですか?」






 「うむ、その通りだ。で、君は誰だったかな?」






 「あ、すいません。リィンリンと言います。さきほどまでいたアルドゥーク神殿で神をしているモノです………………いや、していたって言ったほうがいいかもですけど…………」






 「神!? なるほど! 全てわかったよ! 君は転生者から神の力を奪われて閉じ込められていたんだね! 生かされていたのは、君がいないと転生者は神の力を使えないから! どうだい? 当たらずとも遠からずといった所だろう?」






 「え? アレ? 遠からずっていうか、ズバリすぎなんですけど…………」






 「神よ。人の可能性を侮ってはいけない。人は進化を続ける生き物だからね」






 「は、はぁ…………そういうモノですか…………ん? 関係あるのかな?」






 サトリマックスが放つ謎の勢いに気圧されながら、リィンリンはとりあえず頷いておく。






 「ねぇ、アレって何が神殿で起こってたのかしら? 何か思い当たる事はない?」






 逃げた事でとりあえずの安全は確保されたが、事態が解決したワケではない。




 おそらく謎の事態は進行中であり、それは高確率でマズい事態だ。




 解決する必要があり無視する事はできない。それにシンカリアに限って言うなら、これは転生者関連の事である。歴とした事案であり放置する事は難しく、選定零組ティーレアンでなければできない事かもしれない。




 アルドゥークで何が起こったのか。何が起こっているのか。




 シンカリアは事態解決のために動かなくてはならない。






 「マサノブさんがアルドゥークに何か仕掛けていたと思うのですが…………一体何をしたのかまでは…………」






 「自爆装置でも作動させたのでしょうか?」






 「それはないと思うわ。アイツ、自信こじらせた転生者だから、自爆なんて道連れ行為は絶対にやらないわよ。相手の事を格下としか見てないから、負けるかもって考えただけで発狂だろうし」






 「あ、それ当たってますね。自爆なんて考えるマサノブさんはマサノブさんではありませんし。そういう人なら「全然本気じゃないけど?」とか「あ、もしかして全滅した?」とか「え? それが全力とか嘘だろ?」とか言いません。余裕しかありませんから、いざなんて状況は考えもしないはずです」






 「…………牢屋の時から思ってたけど、あんたって中々言うヤツよね……………………転生者に同情的なクセに…………」






 シンカリアとリィンリンのゼスターに対する意見は同じだ。ゼスターを知っている時間に差はあれど二人の言ってる事に差はなく、悲しいくらい同じ評価を下していた。






 「ではアレかい? そのゼスター・マサノブはアルドゥーク神殿で起きた地震に何も関係無いというのかい? 残った魔物によるハプニングか何かだと? そういう事かな?」






 「あんた、ゼスター・マサノブって名前やめなさいよ………………何か似合ってるような雰囲気出ちゃってるし…………」






 「似合ってる? いいじゃないか! ゼスター・マサノブ! 彼の新しい名前として相応しいという事だろう?」




 「なんで新しい名前ができちゃうのよ!? なんで本来の名前じゃなくなってんのよ!?」






 「ん? 本来の名前もゼスター・マサノブにすれば問題なくなるじゃないか?」






 「いや、そんな「何言ってんのお前?」みたいな顔向けられても………………」






 「……………………はっ! いかんいかんッ! こんな会話している場合では無かったッ!」






 サトリマックスはハッと表情を緊張させると、クルリとシンカリア達に背を向けた。






 「早く妹の元へ帰らねばッ! 自分はその途中だったのだッ!」






 「あ、そういうえばそうだったっけ」






 サトリマックスは帰る途中ゼスターに連れ去られたので、まだ問題解決した妹の元へ帰れていない。ゼスターがいなくなった事で正気喪失魔法ベレレーベが解け、エルナブリアにも戻れている。


サトリマックスが妹の元へ向かわない理由は何処にもなかった。




 「では、自分はここでさらばだッ! もしゼスター・マサノブに会えたら言っておいてほしい! 妹の元への旅路を邪魔した怨みは必ず晴らすとねッ!」






 「あ、怨んでるのね。当たり前だけど」






 「では、また何処かでね! レスクラ君! リィンリン君! シンカリア君!」






 サトリマックスは月明かりに照らされる草原の向こう側へと走って行った。以前と同じでこの場から即去って行き、あっという間に姿を小さくしていく。




 地震の件がまだはっきりしていないので、それまで付き合って欲しかったが、サトリマックスにはサトリマックスの用がある。






 無理に付き合ってもらうワケにはいかない。






 なので、シンカリアは引き留める事なくサトリマックスの背中を見送ったのだが――――――――――――――






 「俺をマサノブと呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」








 ――――――数瞬、夜が明けた。






 攻撃されたのだ。






 「絶大神超砲光エクスゼルスター!」






 闇が消え去り、太陽とでも言うべき光の塊がサトリマックスに直撃する。真夜中を昼間にしてしまうエネルギーの奔流がたった一人の人間に襲いかかり、それは大城ですら飲み込める絶大な一撃だった。






 「は?」






 「これは………………」






 「サトリマックスさんッ!?」






 撃たれた後に見えたのは大きく抉られた地面だけだ。当然だがサトリマックスの姿は何処にも無い。途轍もない一撃をぶつけられたのだ。消し炭所か消滅してしまっただろう。




 これは兵器による圧倒的な攻撃だ。魔法ではない。とても人が防げるようなモノでは無かった。




 個人へ向けるにはあまりに過ぎた力だ。だが、この男にとってサトリマックスにコレを撃つ個人的理由は大いにある。






 「俺はゼスター・マサノブではない! ゼスターだ! 下部分が余計だッ! そして神だッ! そんな俺を汚れた名で呼ぶ者には裁きを下すッ!」






 そう、ゼスターにとってその名は呪われた過去の名前なのだ。




 なので、マサノブと呼ぶ者は誰だろうと絶大神超砲光エクスゼルスターで消滅させる。




 マサノブという四文字にそれだけのコンプレックスを彼は持っていた。






 「俺を日本に戻しやがって! この俺に歯向かう悪は全てにおいて、この“ベルドリーゼ”が始末するッ!」






 それは巨人と呼ぶべき元神殿だった。




 月明かりを遮りながらゆっくりと降りてきたのは、城に四肢が生えたともいうべき姿であり、その体躯はこの周囲に広がっている山より何倍も大きい。




 さすがに動きは鈍重だが、その四肢が攻撃として振り下ろされれば壊滅的な被害を地上にもたらすだろう。小さな町程度な簡単に真っ平らにされてしまいそうだ。






 「リィンリン! まだ自分が殺されないと思ったら大間違いだ! もうお前を生かす理由は無いんだからな!」






 夜で眠っていた鳥達が一斉に騒ぎ出し飛び立っている。他の動物達も同じで周囲の森がやたら騒がしくなり、巨人から少しでも遠くへ行こうと逃げ出していた。




 本能で察しているのだ。






 この巨人は世界エルナブリアを滅ぼすために降り立ったのだという事を。






 「な…………なんなのアレ…………?」






 シンカリアはこんな規格外に大きいモノを見た事が無ければ、動くモノだって見た事はない。四肢があって自分より大きいなんて熊ぐらいがせいぜいで、こんな動く巨大建造物を見せられたら呆然してしまう。






 「リィンリン。これはアルドゥークでは無いですか? 何だか巨人に変形してますけど」






 「マサノブさんなんて事してるんですかぁぁぁぁッ! もしや、魔物達でトンテンカンしてたのってこういう事だったんですかッ! やたら魔物集めて労働力を欲していたのはコレを造るためだったんですかッ! アルドゥークをこんな巨人にしちゃうためだったんですかッ!」






 ゼスターは自分が発生させてしまう魔物だけでは足りないと言っていた。それはこういう事だったのだ。




 アルドゥーク神殿をベルドリーゼという巨人に造り変えるため、その労働力が欲しかったのである。その完成のために魔物達を操作し、おそらく今もベルドリーゼ運用のために操っているのだろう。






 「アイツってふざけた力チートの使い方が凄いわね。こういう使い方するヤツって少ないんじゃない? 才能って言っても良さそうね…………」






 転生者は主に自身を圧倒的に強くするためふざけた力チートを使う。どんな他者でも蹂躙できる力で異世界生活を行うのだ。




 だが、このゼスターはそこだけに止まらなかった。ふざけた力チートでこんな巨人を生み出している。ふざけた力チートであらゆる魔法を使ったり身体能力強化をするでもなく、キチッと何でもできる反則技として使ったのだ。




 シンカリアは「こんな事までできるのかよ!」と思わず胸中で叫んでしまうが、こんな事もできるからこそ、ふざけた力チートはふざけた力チートと呼ばれている。




 そう、ふざけた力チートとは物語を破綻させられる何でもありで不可能はほとんど無い力を持つ反則技である。




 それを忘れてはならない。






 「もう一度言ってやろうッ! コレはアルドゥークでは無いッ! ベルドリーゼッ! それがこの巨大ロボの名前だ! あとッ!」






 直後、ベルドリーゼの胸部から数十門の砲塔が顔を出す。その全ての砲塔は一斉にリィンリンへに向けて狙いを定め、次のゼスターの標的が誰なのか明らかにした。






 「リィンリン! お前も俺をあの名で呼んでいたなぁぁぁぁぁぁぁッ!」






 ベルドリーゼの一斉砲撃が放たれる。






 全ての砲塔から光線レーザーが発射され、真っ直ぐリィンリンへと向かって行く。






 「リィンリン!」






 レスクラは即座にリィンリンの前に回り込んだ。




 襲い来る光線レーザーの全てを叩き落とすべく、聖剣を大剣に変化させて迎え撃つ。






 「はああああああッ!」






 迎撃は一瞬だった。レスクラは縦横無尽に聖剣を振り回し、光線レーザーを弾き飛ばしていく。


 転生者の攻撃にこれだけ対応できたのはさすがレスクラと言うべきだろう。神滅兵器と呼ばれる少女だからこそ、刹那の時間で数十発の光線レーザーに対応できたのだ。




 だが、これはふざけた力チートで作り上げた巨人だ。さすがに何の問題もなく対応できはしなかった。甘く弾いてしまった光線レーザーがレスクラの身体の至る所を掠めており、その部分の皮膚が焼けている。熱い鉄板に押しつけたような大量の火傷は見た目にもわかる酷いダメージだった。






 「レスクラちゃん!」




 「余裕の無傷にはできませんでしたか………………相手が転生者とはいえ…………これでは神滅兵器の名が泣いてしまいますね……………………ぐっ」






 「そんな…………私なんかをかばって…………」






 「勘違いして欲しくはありませんね…………リィンリンより私の方が強いのですから助けるのは当たり前ですし、この程度の怪我で気に病まれるなんて、そっちの方が傷つきます…………」






 「動いちゃダメだよ! ジッとしてて!」






 虚勢を張るのも難しい大怪我なのだろう。レスクラはまだ戦えるというが、火傷だらけの身体では説得力皆無だ。レスクラの様子からして戦闘に支障があるのは明らかで、もうまともに戦う事はできないだろう。






 「ほう? ベルドリーゼの多光線撃ミハイラルをくらって無事か。そんなヤツがエルナブリアにいたとは驚きだぞ」






 おそらく視界を担当している一つの部位だろう。ベルドリーゼの頭部分に灯る紫の弱光がシンカリア達の方を向いた。






 「…………あなたはゼスターですよね? 先程シンカリアが世界移動魔法リリルージヨンで地球の日本に転送したはずですが…………どうやって戻ってきたのですか?」






 それはこの場にいる全員の疑問だった。

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