第25話 後始末はまだ終わっておりません

「はぁ~疲れたわね。魔法が出ないくらい疲れるなんていつ以来かしら」






 「ご苦労様です。ワタシもなかなかにボロボロになりました」






 「大丈夫なの? 結構な怪我だと思うんだけど…………?」






 「あ、ご心配には及びません。どんなに重傷でも身体の怪我なら勝手に治りますから。夜が明けるくらいの時間が経てば全開です」






 「それ、なんていうかふざけた力チートみたいな回復力ね…………」






 シンカリアは魔力切れになっており、レスクラはベルドリーゼの多光線撃ミハイラルで大きく傷ついている。すぐにでも町へ行って休みたい所だが、ここでしばらく休憩してから向かう方が良さそうだった。






 「シンカリアは甘いですよね。いや、寛大と言うべきなのかもですが。正直、リィンリンの行動を許すとは思いませんでした」






 「…………普通に考えたらそうよね。報復措置は当たり前で、救いを与えたり許す行為は狂った判断なんだろうけど………………それはアイツがホントの純粋悪だったらの話」






 「純粋悪?」






 「行動の根底には理由の無い感情しかなくて、それをやっても気が晴れるとか解決に向かわないヤツの事。ただただ、壊れた使命感の悪意を全力で続けていくだけっていうね……………………でも、アイツはそういうのと違うわ」






 何も心配事が無くなったため少し気が抜けたのか、シンカリアは大の字で地面に寝転がる。






 「アイツは嫉妬とか調子のってるとか何も見えてないだけ。それって善を知ってるから起こせる行動なの。はっきりした裏表のある感情が動力源だからそんな行動ができるのよ。だから、正しいとか、こうありたいとかゼスターは思ってるはずで………………それって純粋悪の思考じゃないわ。私は被害者で怨みもアイツにはあるけど――――――――――それなら私はゼスターを庇う人物を肯定する。許すというか、リィンリンを指示したいなって思うのよ」






 「シンカリアは転生者を信じているのですね。世界に被害を与える危うい人物だというのに」






 「あ、勘違いしないで。私は転生者達の行動は嫌いよ。色々と気持ち悪いし、何でもいいから持ち上げられて気持ちよくなりたいなんてあそこまで行くと理解できないし、そんな事のためにエルナブリアを玩具にしてるんだからフザけんなだし、そのせいでバカ達を大量発生させるし」






 ソレとコレとは話が別なのだと。




 シンカリアはレスクラに「そこを間違えてもらっては困る」と念を押した。






 「私はエルナブリアに迷惑かけないならいいだけ。細かく言うなら、私にとっての致命傷を発生させなければいいだけ。何度でも言うけどここが線引きなの。その線引き内ならなるべく慈悲を向けるってだけよ。転生者達の好き勝手は絶対阻止するけど、転生者自身の事はそれと別問題なの。ま、こんなめんどくさい事してるの私くらいかもだけどね」






 シンカリアは大きなため息をつく。それは我ながら何をしているんだという感情やら何やら、色々なモノが合わさって出たため息だった。




 そして、それはこの先も自分がやろうとしている事はやり続けられるのか。ただの傲慢なのでは無いかという、無意識に出た不安の先端でもあった。






 「大丈夫ですよ。シンカリアがそうするのであればワタシも手伝いますから。二人でやれば一人でやるより確実性は増すでしょう」






 「ええ、頼れるのなら頼っていくわ。せっかくの友達だものね」






 「………………ありがとうございます」






 二人だけになってどれくらいの時間が経っただろう。




 そろそろ町に移動しようとシンカリアは立ち上がり、レスクラもそれについていく。




 正直、ここから町までそれなりの距離がある。急げば宿が閉まる前に辿り着きそうだが二人とも疲れているしレスクラは大怪我もしている。そのため、今日中にゴールできるか微妙だ。何処かで野宿できる所を探すのも視野にいれなければならないだろう。




 残った元気と体力を振り絞り、二人は町を目指すが――――――――――――






 「グルルルルルルルル――――――」






 ――――――それは困難なモノとなった。




 いつの間にか魔物リザードマンに囲まれていたのである。周囲一帯を埋める程、大量のリザードマン達がシンカリアとレスクラの二人を標的とし、逃げ場を封じていた。




 魔物の本能である人間への殺意が容赦なくシンカリアに向けられている。






 「………………コイツらゼスターが操ってた魔物か。忘れてたわ…………つか、放り出されて生きてる魔物がこんなにいたのね………………」






 ゼスターはアルドゥーク神殿を巨人にして動かすために大量の魔物を操作していた。それらはアルドゥーク神殿が崩壊した事、ゼスターがシンカリアに敗北してしまった事で正気に戻ってしまったのだ。




 ゼスターの操作から解放された魔物は、当然本能のまま行動する。ならば人間を襲うのは当然で、その人間が近くにいるならなおさらだった。






 「大量にいたからか…………最初に放り出されて死体になったヤツがクッションになったりで生き延びたヤツが結構いたんだわ………………これはちょっと勘弁ね……………………普段なら気にしないけど数が多すぎるわ…………」






 今のシンカリアにこの数のリザードマンを相手にできる体力や魔力は残っていない。レスクラも似たようなモノで、今の二人は大量の魔物と戦える力が残っていなかった。






 「…………シンカリア。隙はワタシが必ず作ります」






 レスクラは自分が囮になると言った。






 「タイミングは言いますので必ずここから逃げてください」






 その行動がどういう意味となるのかレスクラはわかっている。わかっているからこそ、シンカリアが同じような事を言う前にレスクラは断言したのだった。






 「何言ってんの! そんなのに二つ返事できるわけないでしょ!」






 「超爆破魔法ハイ・ブラストを一発撃つのがせいぜいな今のシンカリアよりは戦えます。それにワタシは元々シンカリアより強いのですから、守るのは当たり前です」






 「今の私とアンタじゃ大した差がないっての! そんなくだらい事考える暇あったら二人で逃げ切る方法考えるのよッ! 二人で殲滅できる方法でもいいからッ!」






 「そんな時間も方法もありません。今、この量が襲いかかって来たら確実に全滅します」






 「街に向かっても夜闇から魔物が飛び出てくる可能性もあるのよ! 距離もあるし、逃げても状況が好転する可能性は低いわ!」






 「少なくとも今より生き残れる可能性はあります。早くシンカリアは逃げてください」






 「ぬぐぐ…………眠る時はあんなあっさり諦めの態度になったクセに…………」






 主マスターであるシンカリアを何とか生かそうとするレスクラと、二人で生き残る道をどうにか考えるシンカリアだったが、どちらにも正しい道は無い。




 この状況の終結にハッピーエンドは存在せず、どの行動をしようと後悔が残る。少しでも状況をマシにできても、完璧にする事はできない。




 レスクラ、シンカリアは相手を思うが故にこの場から動けずにいた。






 「ギャララララララララァァァァァァ!」






 そろそろ頃合いと思ったのだろう。




 一匹のリザードマンが二人に向かって突撃を始めると、他のリザードマン達も一斉に行動を開始した。片手剣シヨートソードを振り上げ、我先にとシンカリアとレスクラに走っていく。




 それはとても対処できる数では無い。




 意見がまとまっていないシンカリアとレスクラは、それぞれできるだけ魔物を減らそうと待ち構える。




 殲滅できないなど関係無い。根拠が無くとも全滅の可能性を少しでも減らすべく力を振り絞るだけだった。






 「グギャアアアアアアアアアア!」






 なので――――――――――――――二人はヤツの事など考えもしていなかったし、そもそも生きてるとすら思っていなかった。




 追い詰められた思考では奇跡を願っても、奇跡が起こる必然に気づけなかったのだ。






 「なるほど。つまり自分は君たちのヒーローになれたというワケだ」






 ただの人間で、シンカリアやレスクラのような特性持ちでも無い。




 なのに、何故かムチャクチャな強さがあるコイツが助けに来る奇跡を。






 「随分と疲れているようだね。ここは自分に任せてそこで一時休息しているといい。ああ、もし気が引けるというなら自分を応援して欲しいかな。人の力というのは、常に誰かの暖かい思いや行動から引き起こされるモノだからね」






 ボロボロの身体を奮い立たせたシンカリアとレスクラの前にソイツは突然現れ、後は任せろとばかりに引き金を引いて魔物達を倒していく。






 「つまり、サトリマックスがんばえー。これに限るというワケだ。もう一度言おうか。サトリマックスがんばえー。わかったかな?」






 「な、なななななな………………」






 抜群のタイミングで現れたサトリマックスに、シンカリアは瞬時に声を出す事ができなかった。






  「なんであんた生きてんのよッ!?」






 サトリマックスはベルドリーゼの攻撃で蒸発したはずだ。




 なのに、どうして五体満足な上に無傷でこの場にいるのか。




 シンカリアの第一声が戸惑いに塗れてしまうのは当然の事だった。

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