第14話 チートを与える神を倒しに行きましょう
「神のヤツが地球のヤツらをこの世界に転生させてる……………………だから、いくら選定零組ティーレアンが転生者をどうにかしても、その神っていう元凶をどうにかしないと意味が無いわ………………転生者はこのエルナブリア王国に増え続ける」
地球人自身はこの世界に直接転生できず、神が必ず仲介して地球人をエルナブリア王国に転生させている。そのせいでクリハラが起こしたような被害が王国各地で起きており、その被害は止まる事を知らない。
そう、だから神をどうにかしなければ意味が無い。
今のままでは、いくらシンカリアが転生者をどうにかしても、また転生者が増え続けてしまう。
「神の迷惑すぎる転生を止めない限り、エルナブリアの危機が解決する事は無い………………」
神は転生者による影響で異世界がどうなってしまうのか全く考えていない。
もし、考えているなら転生影響無能病フラジャイルなんてモノは起きないだろうし、起きる事を知っていれば何らかの対策をするはずだからだ。魔物についても右に同じである。
他にも、神は転生者に無条件でふざけた力チートを与え続けているが、転生者が悪だったらどうするのか。それでエルナブリア王国が無秩序に支配されたり滅びたりしたらどうするつもりなのか。
神だから転生者が悪か善か解っている。
神だから今は善でも悪になっていく者が解っている。
神だから今は悪でも善になっていく者が解っている。
神だから――――――――――――そう、神がしている事なのだから、善悪の判断は間違いなくできている。その判断は人間ごときが疑うに値しない。
こう考えられるのかもしれないが――――――――とても神にそんな高等な判断ができるとは思えない。
もし、神にそんな高等な判断ができるなら、転生影響無能病フラジャイルや魔物の被害を放置するワケがないからだ。あまりにも当たり前の話だが、今のエルナブリア王国で起こっている事を当然と放置できるなら、それは正気では無い。
国を浸食していく悪を善とするのは、狂った者のやる事だ。
「こんな事されたんじゃ信仰心ってヤツが消えてくわよね。なんで私達よりこの世界の人間じゃない誰かを優先してるんだってのよ。ふざけんなっての」
エルナブリア王国で起こっている転生者の静かな支配が正しいワケがない。
これは神があまりに自分勝手な行動をしている結果だ。
転生者の第二の人生とやらを満足させるために。
「でも、神がいる所なんてどういけばいいのって感じよね………………死んだら絶対会えるって保証は何処にも無いし、それで神に会えたとしても死んでたら意味ないし」
シンカリアは神と会う方法が無いとため息をつく。
「やっぱ、世界移動魔法リリルージヨンで転生者を送ってくしか方法無いわよね………………いたちごっこをずっと続けるしか――――――――――」
仮に死んだら神に会えるとしても、その方法にはリスクしかない。
元凶をどうにかしたくとも手段が無いと諦めるシンカリアだったが。
「神のいる場所というのは神世界メルガリアのアルドゥーク神殿でしょうか? ならば行く事は可能ですが?」
突如、レスクラがとんでもない事を言った。
「……………………今なんて?」
盛大な聞き間違いじゃないかと、思わずシンカリアは聞き返す。
「神に会う事は可能と言いました。アルドゥーク神殿にいるので」
再度、レスクラは断言した。
「…………一応聞くんだけど、それって死ななきゃダメとかじゃない? レスクラが私を殺せば神と会えるとか」
「いえ、そんな事をする必要はありません。シンカリアが使っていた世界移動魔法リリルージヨンをワタシが使えば地球ではなくアルドゥーク神殿に繋がるというだけの話です。世界移動魔法リリルージヨンは他世界へ行く事のできる魔法ですから」
「あ、そうか…………世界移動魔法リリルージヨンなら可能なのか…………」
世界移動魔法リリルージヨンは今いる場所と異世界を繋げられる大魔法。エルナブリア王国と地球の日本という全く違う場所を繋ぐことができるなら、神のいる場所と繋げられても何ら不思議は無い。ただ、シンカリアとレスクラでは転送できる場所が違うというだけだ。
「まさかの方法を持ってるのね………………よし、お願いできるかしら」
「了解しました」
神がどういったヤツなのか、どうにかできるヤツなのかもわからない。
だが、まさかの神と会える手段を見つけてしまった。
ならば、それを利用し何かしら現状打開しようとするべきだろう。
「あ、でもそれは今日じゃなくて明日ね」
すぐにでも神にあって色々と問い詰めた所だが、もう夜だし、クリハラの件での疲労もあるし、お腹も減っている。
「さっきまでのアレやコレでヘトヘトだし、すっっっごくお腹も空いてるし」
今日の所は休んで、明日の朝にでも行くべきだなとシンカリアは呟いたが――――――――――――――それは遅かった。
レスクラにさっさ言わなかったのはとてもマズかった。
「明日の朝くらいにしたいんだけ………………ど?」
現状に気づいた時にはもう遅い。
「――――――――――――え?」
文字通りアッと言う間に転送が行われてしまい、口から声が出た時には全てが変わっていたのだ。
見えていた風景も。
立っていた場所も。
起こっている状況も。
おそらく時間帯も。
他にも――――――――――――――――――――――目の前にシンカリアと同じくらいの年齢であろう女子が出現している。
「ぐーぐーぐーぐーぐー」
女子は遊び疲れた幼児のように石床で眠りこけており、そのせいか寝返りで衣服を汚していた。
普段の生活では見る事ができない神秘さを感じさせる衣服だ。高貴な煌びやかさと清らかさを兼ね備えており、衣服にある装飾がそういった雰囲気を一層際立たせている。着る者を選ぶ衣服というのはこういったモノを言うのだろう。
――――――――――まあ、着ている本人はこの衣服を寝返りで汚しているし、口から涎を垂らしていびきもかいている。そのため、現状はそんな高貴だとか神秘な雰囲気を衣服が溢れさせていても、本人がその雰囲気を完全にブチ壊していた。
ちなみに神の顔はずっと眺めていたい可愛らしさが溢れている――――――――はずなのだが、今の顔は流れる鼻水や涎やいびきのせいで台無しになっている。
「ズズズズビビビビ………………んごごごぉぉぉぉ…………」
女子は時折鼻をすすると、またすぐにいびきをかきはじめる。起きる様子は泣く、すぐ傍にいるシンカリアに気づけない。思い切り揺さぶったりして起こさないかぎりずっとこのままだろう。
「コイツって……………………間違いないわ…………間違いないと思うけど…………」
自身の置かれた状況やら何やらの変化に、シンカリアは色々な疑問を浮かべまくるが――――――――――――とりあえず、この女子については判断できる。いや、察する事ができる。
どうしても察してしまう。
なぜなら、目の前で寝ているこの女子の背中には羽が生えており、頭の上には天輪と呼ばれている輪っかが浮いているからだ。
この特徴的な姿はシンカリアが知っている文献や昔話に出てくる神様と呼ばれている者と全く同じだ。当然、イールフォルト魔法学園で習う神の特徴とも合致しているので、この女子が神なのは――――――――――そう、疑いようが無い。
そして、その特異な姿はシンカリアにここが何処なのか理解させる。あまりにいきなりなので、実感を得るのはもう少しかかりそうだが。
「飛んできた場所がなんでこんな所に………………神(?)がこんな所で泣いてるのも違和感バリバリだし」
レスクラの世界移動魔法リリルージヨンは成功し、シンカリアは来るべき場所へやって来た。
神世界メルガリアのアルドゥーク神殿。
まだ夕飯も食べず休憩も挟まない、いきなりの転送だった。
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