第11話 神滅兵器のレスクラちゃん

「「…………え?」」






 シンカリアとクリハラは揃って、その突然の光景に呆然とした。二人とも同じ表情で少女を見る。






 「「…………何が起こった?」」






 二度も二人は同じタイミングで気の抜けた返事。






 「私は神滅兵器レスクラ。かつて、この世界で神と人が魔と争っていた時に作られた、人類の最終兵器です」






 簡単ではあるが少女は自分の名と同時に、そのギャグみたいな設定をクリハラに告げた。






 「あなたの名を教えてください。それで私との契約は完了します」






 レスクラと名乗った小さな女の子は、シンカリアよりも明らかに年下で、十歳にも届いていない外見をしていた。さらに、無表情だが頭を撫でれば嬉しさと恥ずかしさで照れそうな、そんな可愛さがある顔をしている。こういった特殊すぎる登場でなければ、シンカリアもクリハラも抱きつきたくてたまらない衝動にかられた事だろう。




 特徴的なのは可愛らしい顔もそうだが、胸元下げられている剣のネックレスや、髪を結っている大きなリボンも該当する。中でもリボンは最も目立っており、それだけで後頭部が隠れそうなくらい大きい。






 「く、栗原…………栗原大樹クリハラマサキ…………です…………はい…………」






 「クリハラマサキ。登録完了しました。これより主マスターを守るための行動に移ります」


 レスクラの氷のような冷たい視線がシンカリアへと向けられる。






 その瞳に容赦は無い。






 「ちょ、ちょっと待ってよ………………神滅兵器ってたしか………………」






 世界の終末ディーザグィードと呼ばれている有名な昔話がエルナブリア王国にある。






 何千年もの大昔にあった本当の出来事であり、神と人が魔と争い、一度世界が滅びてしまったという内容ストーリーだ。








 そこに出てくるのが神滅兵器である。








 「ホントに? マジであの子が?」






 悪逆の限りをつくしていた魔という存在を倒すため、当時の人が持つ全ての技術を込めて造られた存在が神滅兵器だ。




 神滅兵器と呼ばれているのはまさにその通りで、当時の高すぎる技術オーバーテクノロジーが惜しみなく投入された結果、神ですら滅殺できる程の力を持った超兵器オーバーウェポンが生まれたのだ。




 今より遙かに高い兵器製造技術が古代の人間達にはあったため、超兵器オーバーウェポンを造る事ができたのだろう。その証拠に、神滅兵器は敵に対して必ず無双している。苦戦した描写のある歴史書はこれまで出てきた事は無く、それが神滅兵器の凄さと恐ろしさを今に伝えていた。






 「嘘でしょ? もしあの娘が本当に…………正真正銘の…………その、間違いなく神滅兵器だって言うなら――――――――――」






 選定零組ティーレアンは神様からもらった力なら何であろうと優位に立ち回れる。シンカリアは転生者であるクリハラに対してならほぼ無敵だ。だが、神様からもらった力ではなく、その者の本来の力は無効化する事はできない。






 つまり、単純に言うと普通に強いヤツには勝てないのである。その場合は、シンカリアが持つ魔道士としての実力のみで戦わなくてはならない。






 「――――――――勝てるワケがないんですけどッ!?」






 そう、ならばあまりにも勝てるワケが無い。




 神滅兵器であるレスクラは、神を滅するとかいう半端ない強さが普通デフォルトである。なので、当然そのレスクラの力を無力化する事はできない。






 「主マスターの敵対者と認識。殲滅します。覚悟を」






 レスクラをクリハラが操っているというなら話は変わるが、レスクラは契約を結んだだけで操られてはいない。クリハラのふざけた力チートは関与していないので、もう純粋なタイマン必至である。






 「こ、こんなのついてないってレベルじゃないわよ!? 何をどうすればただの魔道士が神滅兵器なんかに勝てるっていうのッ!?」






 おそらくエルナブリア王国の人類史を見ても、神滅兵器と戦う事になった人間はシンカリアだけだろう。




 そして当然、神滅兵器に蹂躙される人間もシンカリアだけだ。






 「抵抗はご自由にしていただいて構いません。それが私にできる唯一の慈悲なので」






 完全に面白ひどい歴史となる出来事だが、当の本人はそもそも死にたく無いし、こんな歴史の残り方も認めたくない。






 「聖剣エルディアンヌ!」






 その名を叫ぶと、レスクラの胸元に下げられた剣のネックレスが光り輝いた。




 するとネックレスは一瞬で大剣へと変化し、それが主武装メインウェポンである事を直感でクリハラやシンカリアに認識させる。




 大剣は持ち主レスクラの身を隠せそうなくらい大きく、見ただけで叩き潰されそうな迫力がある。とても少女が使うような武器には見えない。本来なら筋肉塗れの男が扱うような武器だ。






 「私ってなんてあまりにもレア体験――――――――――いや、レア大剣? って、そんなのどうもよくてッ!」






 当然、大きいのは刀身だけでなく柄部分も同じであり、それ相応の大きさだ。なので、レスクラの小さな手では柄全体を握りきれていない。




 だが、大剣がレスクラの手に吸い付いているのか、それともレスクラの握力があまりに凄まじいのかわからないが、どんな理由であれ大剣の扱いにレスクラが困っている様子は無い。酷くアンバランスに見える武器だが様になっている。




 レスクラは軽く二、三回大剣を振り回すと、その剣先をピタリとシンカリアへと定め、いつでも処刑できる準備を終えた。






 「ど、どうするッ!? どうする私ッ!? どうすればいいの私ッ!?」






 当たり前だが、神滅兵器との戦い方など授業で習っていない。というより、あるわけがない。そして、そんな存在と戦って生き残れるワケがない。






 「ふ、ふふふふふふふ……………………はははははははは!」






 突如勝利確定となったクリハラが、余裕の高笑いを響かせる。






 「なんだ、抵抗できないのか。てっきり余裕で片付けるのかと思ったよ。結構あっけないんだなぁ」






 「………………なんていうか、その転生者がよくやるムカつく余裕の態度…………それがこの世で最後に見たモノになるとは思わなかったわ…………」






 すっかりよくいる転生者の態度になったクリハラを見て、シンカリアは冷静になり覚悟を決めた。




 いや、正確に言うと覚悟なんて決めたくないが、もう本当にどうしようもないのだ。塩の一粒より小さくても、何か可能性があるなら違うのだろうが、それすらもない。




 クリハラによって冷静になったシンカリアの思考は、この状況をふざけるなと否定しても、現実である事は肯定していた。






 「おさらばです」






 レスクラの大剣、聖剣エルディアンヌがシンカリアの命を絶つべく、真っ直ぐに迫ってくる。命中すれば身体は真っ二つだ。もしくはその威力に身体が耐えきれず肉塊になるだろう。しかも、それは人の眼では認識できない程の速さで迫ってくる。








 そう、人では認識できない速さ迫って――――――――――――――








 「ッ!?」








 ――――――――――――――きたのだが。








 「………………どなたですか?」






 レスクラの突撃は中断された。




 攻撃を妨げるように銃弾が放たれたのだ。




 「名乗る程の者ではないよ。サトリマックス・サトウという英雄ヒーローの名はね」






 レスクラはサトリマックスの横槍でシンカリアに攻撃できなかった――――――――――これはつまり、サトリマックスの射撃精度と銃弾は神滅兵器であるレスクラに通用するという事だ。






 「聞こえなかったならもう一度言ってあげよう。サトリマックス・サトウ。自分はサービス精神旺盛だから何度でも言ってあげるよ」






 「なんでもう一回言うのよ。つか、それ以前になんで名乗ってんのよ。名乗る程の者じゃないんじゃなかったのかよ。なのにフルネームをバッチリ名乗ってんじゃないってのよ。あと、助かったわ。ホッッッッッント助かったわ!」






 何となく久々感のある反応ツツコミをしつつ、シンカリアは「た、助かったぁぁぁッ!」と脳内で安堵の悲鳴を上げていた。サトリマックスが銃弾を撃ってなければ、シンカリアの命はここで終わっていただろう。






 「なかなかのピンチだったようだねシンカリア君。急いで戻ってきてよかったというモノだよ。浜辺の魚を釣り上げ腕立てするとはこの事だ。ハッハッハッハ」






 「ごめんなさい。そのギャグ全然わかんないんだけど。いや、ギャグなのかそうじゃないのかもわからないけど」






 サトリマックスは銃口と自身の視線をレスクラに向けたままシンカリアに軽口(なのか?)を叩き、それにシンカリアは冷静に反応ツツコミした。






 「サトリマックス。つまり、あなたは私の敵ですね?」






 その一言と共にレスクラの姿が消える。




 その場から動いたのだ。ただし、恐ろしい速さで。






 「え? ど、何処に――――――」






 シンカリアはその動きを捉えられなかった。当然だ。神滅兵器の動きを人間が追えるワケがない。レスクラがその場から動いたと認識できただけでも、シンカリアの戦闘センスを褒めるべきだろう。






 「そこだね!」






 だが、世の中にはその戦闘センスが抜群に高い者がいる。






 「見え見えの動きだ。本気を出してはどうかな? それが全力なら、果物を囓りつつ長編小説を読んでうたた寝しても勝利できてしまう」






 サトリマックスは背後に回ったレスクラの動きを当然のように察知し、その方向へ銃弾を放っていた。それも三発。神速とも呼べる早撃ち(クイツクドロウ)だ。






 「………………あなた何者です?」






 その銃弾のせいでレスクラは思ったより距離を詰めらていない。




 レスクラは大剣で防がれ地面に落ちた銃弾と、その銃弾を放ったサトリマックスを一瞥する。






 ――――――――信じられないのだろう。






 無表情だがサトリマックスにレスクラは驚愕している。ただの人間が神滅兵器と戦えているのだ。そのあり得ない事実に対して何も思わない方が不自然だろう。




 時折吹く風に大きなリボンが揺れており、それはレスクラの動揺を表しているように見えた。






 「え、ええ…………? ど、どういう事なの? アンタ、なんであの外見に騙されるな少女と対等に戦えてるわけ?」






 そして、それはシンカリアも同じだった。




 サトリマックスがクリハラにお星様にされた理由はわかる。なぜなら、クリハラは転生者でありサトリマックスは普通(転生影響無能病フラジャイルには耐性有り)の人間だからだ。




 そのため、サトリマックスがレスクラと戦える理由は――――――――――――――無いはずだ。レスクラは神滅兵器という、人間では絶対に太刀打ちできない絶望の塊なのだから。






 「どうやらシンカリア君はわかっていないようだね。自分が何故あの少女と戦えるのか」






 人間では神滅兵器に殺されるだけ。殺されるなのに――――――――――これはどういう事なのだろう。






 「全く、そんなの簡単で当然な事じゃないか」






 サトリマックスは二人にアピールするように肩を竦めた。






 「人間、できない事は何も無い。自分はそんな綺麗事が大好きだから戦えているんだよ」






 サトリマックスはこれ以上無いくいのドヤ顔をシンカリアに向けた。






 「あと毎日ちゃんとご飯を食べる! 一日一回以上他人に良い事する! ぐっすり眠って疲れをとる! これらができているなら、何だろうとやってやれない事は無い!」






 素晴らしい事言ったの間違い無し。感動必至間違いなし。自分に酔っているのも間違い無し。






 そんな諸々が含まれたサトリマックスのドヤ顔だった。






 「え? そんだけ? そんだけなの? マジでそれだけなの?」






 今サトリマックスが言った内容だけで神滅兵器と戦えるワケないので、シンカリアはごく普通に聞き返した。






 「あれ? 信じられないかい? んー、そうだね。強いて他にも理由がるとするなら…………ぬーん………………」






 サトリマックスはシンカリアの疑問いっぱいの反応に少々がっかりしながら、腕を組み眉を思い切り寄せて考える。あと、何故か上半身をユラユラと左右に揺らす。






 「たまにアッパラモンドリンリン踊りをする事かな? あと、ドンドレマンドリゴーランで己の健康具合を確認するとか………………いや、これは関係ないか。関係なんかしているワケがない…………何を言っているんだ自分は…………」






 「そんな踊り聞いた事ないしどんな踊りかも全く想像つかないけど、関係するとするならソレな気がしてならないんだけど。ドンドレマンダラリーン? それが何であるとしても!」






 「おっと、それは名前が違うよ。ドンドンパッパラゴリゴリアーだよ」






 「それ、私以上に名称間違いしてるわよねッ!?」






 「バカな!? 私が神聖なバレバッパラトンテムポーラを言い間違えるワケがない!」






 「あんたさっきから私をバカにしてるでしょッ!」






 ギャーギャーとシンカリアとサトリマックスはボケとツッコミの応酬を繰り返す。




 そのためサトリマックスは大きな隙を晒す結果となっており、どう見てもレスクラの攻撃チャンスになっていた。やるなら今である。






 「……………………………………」






 しかし、何故かレスクラは攻撃を仕掛けようとせず、シンカリアとサトリマックスのやり取りを見ていた。さらに大剣をネックレスに戻しており、腕を組んで何やら考えている。完全に戦闘をやめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る