第5話 異世界転生されたら異世界でこういう事が起こります
いつからか、このエルナブリア王国で異常が起こり始めていた。
端的に言うと、エルナブリア王国の人間達がどんどんバカになっていったのだ。いや、もうホントにバカだらけになったのだ。知能や思考が異常に低下したのである。
各地で“足し算や引き算といった計算を知らない”という者達や、“数は四までしかわからない”者達に、食事する時“テーブルと意思を使う事を知らない”者達、料理している時“肉を両面で焼くことを知らない”者達、物を買う時に“お金の使い方がわからない”者達、“井戸から水をどう汲めばいいのかわからない”者達、トイレが終わったら“お○りを拭く事を知らない”者達といった異常すぎる事件が頻発した。
酷いのになると“自分が二本足で立てる事を知らない”という者達まで出てくる始末で、呆れるというより恐怖を覚える事態がエルナブリア王国で起こっていた。
どうしてこんな事件が起こってしまうのか。その理由を調べていく内に、エルナブリア王国は事件を引き起こす“元凶”がいる事を突き止めた。
その元凶とは異世界から転生した人間達。
通称、“転生者”である。
地球という世界の日本という場所に住んでいた者達が、このエルナブリアに転生して事件を引き起こしているのが判明したのだ。
彼らは自覚無く、以下の内容を引き起こす。
まず一つ目だが、転生者はエルナブリア王国民を強制催眠状態にする力があり、それを町規模で無意識に引き起こす。そのせいで、転生者に都合のよい常識改竄や知能変異が起こり、異常に知能と思考を低下させられた王国民達が大量発生した、どんな人物も無能に墜とされてしまうのだ。
これは転生影響無能病フラジャイルと呼ばれ、転生者はこれにより無能になった者達に自分の知識をひけらかす。
やれ、お金は便利だから使い方を教えるだの、テーブルに食べるモノを置いて椅子に座れば楽に食事ができるだの、肉は両面で焼いた方がいいだの、計算を使ったらすぐに物を数えられるだの、数字は四から先があるだの、井戸の水はこうやって汲むだの、トイレで大きいヤツしたなら紙で拭くだのと、水組むにはバケツを使うと便利になるだのと、色々と教えていくのだ。
そして、教えられた者達はその知識に全く違和感を持たず転生者を絶賛する。自分達は転生者がいないと何もできないと依存し、それが普通であると認識してしまうのだ。
それは、刷り込みを受けたヒヨコよりも疑う事を知らない状態であり、異性なら転生者に高確率で恋愛感情まで持つようになる。無意味にモテてモテまくるのだ。
転生影響無能病フラジャイル。
もし、この最悪の病が王国全土に広がれば、これまでの王国文化が滅ぼされるのは必至だ。転生者が教えた事しか知らない、わからない、理解できない状態になっているのだから。これでは、これまで培ってきた王国文化など消え去るのは当たり前だろう。
次に二つ目だが、転生者はふざけた力チートと呼ばれるモノを持っている。
転生者は生まれ変わる時に、何故か神から途方も無い力を授かるのだ。
そんな力を持っているため、転生者にとってエルナブリア王国民の力は足下にも及ばない。圧倒的な力であるふざけた力チートの前では誰もが等しくザコと成り下がってしまう。
例え、相対する者がエルナブリア王国最強の騎士だろうと戦士だろうと魔道士だろうと誰だろうと関係ない。
転生者はどんな攻撃も無効化するし、どんな防御も必ず貫き、どんな速さでも追う事ができるし、どんな数で攻めようと疲弊する事がないからだ。そして、逆に転生者の攻撃は凄まじいモノばかりで、その防御も果てしなく強固で、誰も見切る事のできない速さで動き、それらを全て余裕でやってのける。
できないのは日本とエルナブリアを行き来するといった“異世界間の移動”くらいだ。できない事を探す方が難しいと言われている。
この反則級の力。いや、この反則技はその…………うん…………えーと、もうなんというか、子供が考えた『ぼくのかんがえたさいきょうのしゅじんこう』状態に等しい。強いというより酷いと言った方がしっくり来る。弱い者イジメをしたいだけの力としか思えないモノだ。
もちろんというか、このふざけた力チートは酷いのになると、転生者が息をするだけで殺す、転生者が敵を思い浮かべるだけで殺す、転生者が殺気を向けただけで殺す、転生者が心臓の鼓動を鳴らずだけで殺す等々と多岐に渡る。反則技なので、使いこなせれば実現できない殺し方は無い。
ここまで過ぎていると「そんな事してまで相手を殺したいんですか?」と聞きたくなってしまうが、そこに違和感を抱かないのが神と転生者なのだろう。
通常思考が恐怖である。
次に三つ目だが、転生者は王国民を無能にしたり、ふざけた力チートで歯向かう者をイジメる以外に、魔物まで生み出すのだ。
魔物とは王国民に対して好戦的な種族であり、転生者が無双するためだけに生み出される存在だ。転生者を中心とした一定の範囲内に発生し、その場所や付近の治安と流通を著しく悪化させる。
魔物が発生している地域は転生影響無能病フラジャイルによりそれが常識となっているため、違和感を持つ者はいない。そこに存在する事が当たり前と思われてしまうのだ。
唯一の救いは、魔物はエルナブリア王国民で対処可能な所だろう。転生者と違って勝つ事ができるのだ。
だが、魔物は再発生リスポーンするため全滅させる事はできない。時が経てば復活する特性を持っているのだ。しかし、駆除は可能なため転生影響無能病フラジャイルやふざけた力チート程の脅威にはなっていない。(あくまでこの二つよりはマシというだけだが)
ちなみに魔物とは転生者に無双される存在なため、どんなに魔物が強かろうと、何百匹、何千匹という数であろうと、相手が転生者なら「え? なんか自分凄い事した?」というように余裕で倒される。それがどんなに弱くか細く拙い一撃でも、どんなに頭の悪い作戦でも、どんなに意味の無い陣形で攻めても、関係無く勝利できてしまう。
そして当然逆事象として、魔物はどんな恐ろしい強さを持っていようと、人知を超えたレベルであろうと、神と同等の存在であっても、相手が転生者なら絶対に敗北する。
そのため魔物が転生者に勝てないのは、もはや摂理とか法則ってな感じであり、水に塩を入れたら溶けるくらい当たり前な事となっている。
他にも転生者による影響は様々なモノがあるが、代表的なのはこの三つだ。
転生影響無能病フラジャイル。
ふざけた力チート。
魔物発生。
この三つがエルナブリア王国で起きている大事で、このまま転生者の影響を放っておけば王国が滅びるのは必至だが――――――――――――――――――解決方法そのものは難しい事では無い。
そう、難しい事ではないのだ。
解決方法は単純明快である。
ただ、その実行は恐ろしく難しい。
その実行――――――――――――――転生者を殺してしまうという事は。
転生者という元凶の命がエルナブリアから絶たれれば、王国を脅かしている現象は全て霧散するのである(ただし魔物は霧散しない。だが、再発生リスポーンしなくなるため全滅が可能になる)
しかし、そう簡単に転生者を殺害する事はできない。
まず、転生者に近づけば転生影響無能病フラジャイルになる。こうなればもう終わりだ。殺害するどころか転生者に心酔してしまうからだ。王国の事など忘れ、ひたすら転生者をヨイショし続けるだろう。それに転生者にはふざけた力チートもある。このふざけた力チートの前にはどんな力も通用しないので、そもそもダメージを与える事が非常に難しい。
転生者の殺害は不可能に近い。だが、それ意外で現状をどうにかできる手段は無いのだ。
このため、エルナブリア王国が転生者によって荒らされていくのは止められないと思われたが――――――――――――――――王国はある人間達が生まれている事に気がついた。
おそらく、世界そのものが転生者という外悪に対して対抗手段を作ったのだろう。
転生者による無意識な支配が進む中、それと同時期に僅かな人数ではあるが転生者に対抗できる存在が生まれていたのだ。
転生影響無能病フラジャイルを無効化し、ふざけた力チートを打ち消し、魔物に無双し、転生者に問題なくダメージを与えられる者達
“転生者特攻”と“転生者耐性”とでも言うべき能力を持ったエルブナリア王国民が誕生していたのだ。
その者達は選定零組ティーレアンと呼ばれており、判明すればすぐに王国に保護されイールフォルト魔法学院に入学させられる。そして、その人物達は転生者を殺すための技術や知識を仕込まれるのだ。
その後、問題なしと判断された生徒は“修学旅行”と称された転生者殺しの旅に出る。
シンカリア・ヨリナガ・レシュティールは選定零組ティーレアンで修学旅行を命令された者の一人。
転生者を殺すための旅が決まった者の一人である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます