第8話 ペット捜索をやってみた

「昨日の姉ちゃんハッスルしまくりだったな。オレはあんなに歌えないよ」






 「んー、そうかなぁ。二人が曲入力遅いだけだと思うけど」






 「私はお姉ちゃんの歌がいっぱい聞けてよかったよ。すっごくよかったー」






 「うむうむ。妹よ、もっとお姉ちゃんをアゲアゲしてよいぞ」






 「お姉ちゃんよかった! めちゃめちゃよかった! ライブして!」






 「よーし! じゃあここでいっちょ歌っちゃうか! 昨日の続きだ!」






 「きゃー! お姉ちゃん最高ー!」






 「うぜぇ…………」






 放課後。昨日行ったカラオケの話やらなんやらしながら、オレと椿と柊華姉ちゃんは旧校舎の部室で時間を潰していた。




 そう、ここは我が識那珂椿部長が率いる占い部の部室である。




 中央に長机が主のようにデデンと置いてあり、隅に教室で使う机と椅子がいくつか積まれている物置――――――――ではなく立派な部室だ。




 その隅っこにある椅子を持ってきて、オレと椿と柊華姉ちゃんが長机を挟んで座っている。椿と柊華姉ちゃんは隣同士。オレがその二人の対面というフォーメーションだ。






 「柊華姉ちゃんって、よく曲知ってるよな。何処でそんなに歌覚えてくんの?」






 「だって私は占い動画配信者であると同時に、ちょっとしたアイドルだもん。そのジャンルは勉強してて当たり前。頑張るのが普通ってもんだよ」






 「いや、そうかもだけどさ。でもホント色々歌えるなと思ったし、知ってるなと思ったよ」






 柊華姉ちゃんは人気動画配信者で、故にテレビではちょっとしたアイドル扱いをされていて、そんで政府に協力する占い師もしている。




 柊華姉ちゃんが頑張って元気に活動してるのは今に始まった事じゃないが、カラオケでもそうだとは思わなかった。全力で二十曲歌うとか平気でやるんだもんこの人。しかも全部絶叫系。腹の底から声を出し、喉の限界も要求するくらいのヤツを連投しまくっていた。なんて頑張りだよ。




 きっと姉ちゃんの歌声はフロア中に響き渡っただろう。あのカラオケ部屋の壁薄かったし。隣の人の歌声聞こえたの確認したから間違い無い。






 「だってカラオケ行くのも三人で遊ぶのも久しぶりだもーん。嬉しくて張り切っただけだもーん。だから遠慮なかっただけだもーん」






 「まあ、別にいいけど。アイドルの歌聞けるのは幼なじみ冥利につきるし」






 「うんうん。お姉ちゃんの歌聞けるなんて私達は幸せ者だよ」






 椿は昨日のカラオケ最中、ボーッと熱視線を送りながら姉ちゃんの歌を聞いていた。




 あれは妹というよりファンだったな。絶対そうだ。完全に脳が姉ちゃんで埋め尽くされているヤツのする目だった。






 「来週からは忙しくなるんでしょ? その前にまた行こうよお姉ちゃん」






 「うむ、いいぞ我が妹よ。風雪ペスキスタワー完成披露セレモニー前なら付き合えるぞよ」






 「やった! お姉ちゃん大好き!」






 「よしよし。お前はホントに可愛い可愛い我が妹よのぉ」






 「でもカラオケじゃなくてもいっか。何処か遠出するのもいいよね」






 「うむうむ。何処でも付き合うぞよ椿。我も妹の椿が大好きじゃからのぉ」






 「やだもー。お姉ちゃんってば。ふふふー」






 「うむうむ。我が妹は赤い顔もめんこいのお。もっとそんな顔を見せておくれ」






 「やぁん、もーお姉ちゃんってばー」






 「うぜぇ!」






 椿は隣にいる柊華姉ちゃんに抱きついて、猫みたいに撫でられつつ顔を赤くしている。




 姉ちゃんも悪い気がしないのか、撫でる手には全力で愛おしさが込められていた。言葉遣いは何故かなんちゃって時代劇口調だが、これは柊華姉ちゃんのいつものテンションだ。




 しばらく柊華姉ちゃんが抱きついてきた椿をナデナデする時間が続く。






 「もうそろそろ時間じゃないか椿?」






 「にゃ? あ、もうそんな時間」






 あざとい。なんで猫みたいな返事したんだコイツは。






 「あー、もう時間かー。残念ー」






 「大丈夫だよお姉ちゃん。帰ってからでも時間はあるから」






 「あ、そうだね。帰ってから椿ちゃんをわちゃわちゃだ」






 「ふふふー。お姉ちゃんにわちゃわちゃされるー」






 「わちゃわちゃするぞー」






 「やーん。わちゃわちゃされちゃうよー」






 「わちゃわちゃわちゃー」






 「きゃー! わちゃわちゃわちゃー」






 「うぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!」






 どうでもいい会話をしながら、オレと椿と柊華姉ちゃんは天宮高校を出た。




 向かうは隣に立っているエンドレスの工場入り口。




 そこが今日の部活動場所だ。


















 「椿ちゃんの占いっていつもこんな感じなの?」






 「うん、そうだよ。いつもまどろっこしくていきなりでランダムで…………」






 校門を出てエンドレスの工場入り口に向かうと、すぐに工場の壁がずっと続く光景が目に入った。




 かなり広い敷地だ。地平線とまでは言わないが、延々と続くエンドレス工場の壁は囚人を逃さない刑務所のように見えてしまう。






 「今日の朝とかいい例だな。本読んでたらいきなり椿が部屋に入ってきたし」






 「アハハハ。大変だね要くん」






 「要ちゃんにはすっごいお世話になってるよ。いつもありがとね要ちゃん」






 「別にいいよ。気にするこたない」






 今日の占い部の活動は前もやった猫探しだ。また安原が昼休みに依頼してきたのだ。




 つい先日猫を見つけてやったばかりだってのに、またペットの猫が失踪したらしい。以前とは別の猫らしいが、二日連続でペット失踪とかどんだけ主(安原)は愛されてないんだ。






 「今回は予知の結果が放課後でよかったよ。要ちゃんとお姉ちゃんと一緒にゆっくり部活できて嬉しいなー」






 「三人で頑張れば、すぐに猫見つけられそうだな」






 「そうなんだよね…………やっぱり肝心の猫が何処にいるかは頑張って探せって結果だよ…………」






 「お前、喜んだり悲しんだり忙しいな」






 今回の予知内容は「放課後に部室でダラダラと十五分過ごした後、エンドレスの工場に行って頑張って猫を見つけて逃がす」というモノだった。相変わらず「どんな予知だ」と思う様な内容だ。






 「でも、その頑張りでいつも依頼達成してるじゃないか。頑張りあってこその結果だ」






 だが、かなり楽な部類の予知だ。朝っぱらじゃないし、無茶な内容でもない。放課後の十五分を部室で過ごして指定の場所に向かうだけなのだから。いつもコレなら何の苦労もないんだがな。






 「…………達成?」






 突如、柊華姉ちゃんが不思議そうな顔をした。






 「必ず達成してるの? 依頼者の希望通りに?」






 何か違和感でもあったんだろうか。




 柊華姉ちゃんは「そんなバカな」とでも言いたげな顔で椿に聞いてくる。






 「え? うん、そうだよ。でも、お姉ちゃんみたいに凄い予知じゃないし、遠回りな予知だし「頑張る」なんて単語が出てくるし。依頼だってペット探しとか財布を落とした場所とか、そういうのばかりだし」






 「あ、いや、そういう事じゃなくて。えっとね…………依頼者を必ず満足させられてるって部分がその…………うん、気になって」






 様子が変だ。




 柊華姉ちゃんは椿に対して、明らかに何か気にしている。




 なんだろう。不安? 動揺? いや、これは――――――――――――――――畏怖か?




 でも、だとしたら何故? なんで椿に畏怖するってんだ?




 朝菱先生から言われたのもあって、柊華姉ちゃんの態度や口調がやけに気になってしまう。

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