第3話 今はこんな感じで生きている
「その要ちゃん…………疲れてない? 朝早くに付き合わせちゃったし…………」
「気にするなって。オレが付き合わせろって言ってんだし、もう慣れてるよ。疲れる疲れないで言うなら、こないだ駅前で逆立ち百回ジャンプした時の方が疲れたし。アレはなかなかの予知だった」
「それもゴメン…………」
「だから気にするなって。オレがお前を信用しなくなるとか、言われた事に嫌気が差すとか、そういうの絶対ないから」
「エヘヘ、ありがと」
「にやけるな。バカ面が目立ってるぞ」
「むー、バカは余計だよぉ」
周囲の雑踏に紛れるようなどうでもいい会話をしながら、オレと椿は天宮高校への通学路を歩いていた。
「はー、でもこんな予知ばっかりじゃ部員が増えてもすぐやめちゃうよぉ…………」
「そういう予知なんだから仕方ないだろ」
「そうだけどぉ…………」
「占い部は駅前で百回二重跳びしたり、雨のグラウンドで泥を飲むくらい転げ回ったり、オフィス街で「ダイエット好きですか?」って知らない人に話しかけたり、仲睦まじいカップルに変顔したり、そういう事を“頑張る”部活だから部員獲得は難しいな」
「口にするともの凄い部活動だよぉ…………」
「してるのはオレだぞ。気にするな」
「フォローになってないよぉ…………」
どうでもいい会話とは、オレと椿だけしかいない“占い部”の話だ。
そしてその占い部とは、飛行機爆破テロ以降に椿と柊華姉ちゃんが手に入れてしまった“予知”を使って生徒の悩みを解決する部活動だ。
予知。
そう、あの日から識那珂姉妹は予知能力を手に入れている。
「なんで私ってお姉ちゃんみたいにできないのかな…………いつもまどろっこしい予知になっちゃう。なんかすっごく遠回りして目的地についてるみたいな…………」
「別に気にする必要ないだろ。結果としてお前の予知を実行できれば、困ってるヤツを助けらるんだ」
「でも、普通の予知ってもっとスマートだよね?」
「普通の予知っていうのが、既によくわからんけどな」
そもそも予知そのものが異質で異常だ。
「きっとお姉ちゃんの予知なら「いなくなった子犬は明日帰って来る」って、これだけだと思うけど、私の予知になると「朝六時に丘の上の公園の何処かにいる子猫を頑張って見つけて、捕まえたら逃がせ」とかになるんだもん…………」
「いつもお前の予知には「頑張る」とか「頑張って」なんかの部分があるよなー」
「私だって好きでこんな予知にしてないよぉ」
「まあ、気にすんなって。いつもそうなるんだし。今朝のは具体的な方だから楽だったし」
「そりゃ先週の「今日一日頑張って学校の平和を守る」とかよりは、何をすればいいのか解る予知だけど…………でも、絶対こんな予知おかしいよぉ」
椿はトホホといった表情でがっくり肩を落とす。
「そういいつつ、椿は予知通りにしっかり頑張ってるぞ」
「そりゃ頑張るよぉ。依頼主さんのために頑張るのは当たり前だし申し訳ないし、そもそも頑張らなきゃいけないって予知なんだし」
「それでいいだろ。予知うんぬんの前に、お前は依頼主の為に頑張ってる。頑張って結果にしている。何の問題もない」
「何だかはぐらかされてる気がするよぉ」
宅配トラックがやたら行き交う道路の向こう側、肩を落として歩く椿の横を女子が通り過ぎた。
地味めな紺のブレザーはオレや椿の通う天宮高校の制服だ。それを着ている女子生徒は、時折前方を注意しつつスマホを覗きながら歩いている。全く前を見ていないワケではないが、あまり感心できない歩き方だ。そのうち誰かとぶつかるかもしれない。
そんなリスクを冒しつつ何を見ているのかと思うが、大体予想はつく。
「あんな風にいつもスマホで見られるくらいになれたらなぁ」
きっと柊華姉ちゃんの動画だ。
姉ちゃんの動画を見ながら登校する生徒はかなり多い。
「別に動画が全てじゃないだろ。困ってる人の力になれるかが大事だ」
「でも、いっぱい知られて夢中になってもらえたら、それだけ助けられる人も増えると思うな」
「教祖にでもなりたいのかお前は」
「開祖したいなんて言ってないよぉ」
柊華姉ちゃんは占いで有名な配信者だ。ジプシー衣装を着て活動しており、配信チャンネル「シューカ」は、一つの動画で百万再生は当たり前の大物になっている。
何故、そんな大物になれたかというと、占い結果が凄まじく当たるからだ。どんな事だろうと、一度でも水晶玉で占えば悉く的中するのである。
それは瞬く間にネットでめちゃくちゃ評判になり、彼女に占われるとその結果が確実に起こると恐れられているくらいだ。今や柊華姉ちゃんの占い結果は、事実と同義になっている。
おまけに柊華姉ちゃんの占い結果はポジティブな未来ばかりで、悪い未来は一つも無い。良い事づくめの結果だけを言われるのだ。それもあって、人気に拍車がかかっている。
「ま、姉ちゃんが凄いのは同感だ。凄すぎて国のお偉いさんに呼ばれるレベルになってんだし」
「ホントだよね。私じゃ絶対に無理だよ…………」
「それに姉ちゃんは全然ウジウジしないしな」
「色んな事に立ち向かえる強さに溢れてるよね…………」
「そんで姉ちゃんは勉強も運動も好成績だし」
「完璧超人ここに極めりだよね…………」
「さらに姉ちゃんは性格的欠点もない」
「愚痴の一つも何も言わないとか凄いよ…………」
「なによりも姉ちゃんはスタイルまですっっっごく良い」
「そ、そこは…………えっと…………私だってその…………」
「お前、そこは完全否定しないのかよ」
色々と柊華姉ちゃんに勝てないと思ってる椿だが、そこはどうにか張り合える箇所らしい。まあ、全てが敗北じゃコンプレックスでどうにかなるだろうからな。少なからず戦える部分があって、それを自覚できるのは良い事だ。健康男子的に見ても(客観)良い事だ。
「お、なんだなんだ? なにやらエッチな話題の匂いがしますなー」
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