反撃



 ――戦闘開始から、数分が経過した。



 クリムが『剣群の王』にて床に突き立てた漆黒の大剣と、今まさに電磁迷彩ECSを解いた、直近まで迫っていた一機のロボットが振りかぶったマニピュレーターがぶつかり合い、激しい火花が散って騒音が大空洞内に響き渡る。


「雛菊!」

「はいです!」


 即座に大剣の左右から飛び出したクリムと雛菊、その手にした武器が、戦技の輝きを帯びる。


 装甲部分を通常の武器で狙っても効果が薄いのは先刻承知している二人の狙いは、腕の関節部。

 稼働のため装甲板が薄く、比較的脆い箇所へ向けて正確に振るわれた二閃が、ロボットの両腕を宙に舞わせた。


「おぉおお! 『エクゼキューション』ッ!!」


 マニピュレーターを失い動きが止まった瞬間、クリムが裂帛の気合いと共に全体重を回転に載せて放った斬撃が、ロボットの中心から真っ二つに断ち割る。


「やった、まず一機です!」

「いや……まずい爆発するぞ、退け!」


 喜ぶ雛菊へ向けてクリムが短く警告を発した直後、すぐにバチバチとショートしていたかと思えば、切断面の各所から炎を噴き上げて爆散したそのロボット。

 その破片を、咄嗟にクリムが生成して床に突き刺した漆黒の大剣に再度身を隠し、やり過ごしながら……しかしクリムは、難しい顔で舌打ちする。


「チッ……一機倒すたびにまた補充されておるな」

「こんな調子じゃ、キリがないです!」


 敵の足音が、減っていない。やや遠くから新たな足音が接近しているのが、大空洞内を反響して聞こえてくる。


 どうやら、常に内部にいるロボットが六機となるよう、外壁がどこかから補充されるらしい。さすがに無限沸きは無いと思いたいがと、雛菊と二人、揃って難しい顔をする。


「後続の皆が救援に来るまで……あと数分というところか。雛菊、やれるな?」

「はいです、武器の耐久は心配ですが、なんとか騙し騙しやってみるです!」


 そう、あえて元気な返事を返す雛菊にフッと頬を緩めた後、クリムは背後をチラッと振り返り、そこで座り込んでこれまで守られていたヒーラーの少女へ声を掛ける。


「お主は……辛そうならば、無理せず自死コマンドを打って撤退しても構わんぞ?」


 コマンド入力「/killmyself」による自死であれば、衰弱のデスペナルティはともかくスキル減少等は起こらない。

 普段であれば保身によって他者に迷惑を掛ける行為のため非推奨とされているが……クリムはこの状況で、今にも倒れそうな顔色をしている少女に最前線での戦闘を無理強いするつもりは無く、そう薦める。


 が、しかし。


「……大丈夫です、やれます。きっとこのために仲間達は私を最後まで守ってくれたんだと思いますので」


 蒼白な顔ながらも、長杖をしっかりと握り締めて立ち上がる少女。

 その予想外に気丈な姿を目にして、クリムも雛菊も感心したように軽く目を見開く。


「お主、名前は?」

「シタ、と申します。魔王様、回復は任せてください」

「うむ、良い覚悟じゃ。では……三人揃って生き残るぞ!」

「「はい!!」」





 ◇


「――シタ、屈め!」

「は、はい!」


 クリムの叱責に咄嗟に身を低くした、シタと名乗ったヒーラーの少女。

 直後、その首があった場所をクリムが振るった黄昏色の大鎌の刃が通過し――姿を消して背後からシタを狙っていたロボットを、真っ二つに両断する。


 半ば直感からくる危機感に任せ振るったその一撃は、シタに迫っていた危機を救ったものの、当のクリム自身は大きな隙を晒してしまう。

 そこを狙って迫るロボットの、耳障りな音を上げて回転するマニピュレーター。


「――魔王様!」


 今度はシタが咄嗟に放った、クリムの周囲に展開された防御魔法が、ロボットのマニピュレーターとぶつかり合う。


 対障壁効果が高いその回転するマニピュレーターを前に、瞬く間に保有していた耐久力を全て削り切られ、儚く砕け散る障壁だったが……しかしそれはクリムにとって十分すぎるほどの隙を稼いでくれた。


「よくやった、ナイスアシストじゃ、シタ!」

「あ……ありがとうございます!」


 援護が来る前提で回避行動を捨てていたクリムが、最良のタイミングで障壁を展開した少女を褒めちぎりながら、振り向きざまに手にした大鎌を振るう。

 その振りきられたクリムの黄昏色の大鎌、絶対切断能力を有するラグナロクウェポンの刃は、堅牢なはずのロボットの装甲など一切無視して紙切れのように両断する。


 だが、フォーメーションが崩れた瞬間を狙って、さらにもう一体のロボットがすでに至近距離まで飛び込んで、そのマニピュレーターを振りかぶった攻撃態勢で姿を表すが、そこへ即座にカバーに入ったのは……雛菊。

 少女が、思い切り腰を捻った独特の態勢から、バネを最大まで引き絞った神速の踏み込みによる居合を放つ。


「――桜花の型『散華』、です!」


 焔が、奔る。まるで、風に吹かれた桜の花弁が空に舞い上がるように。


 雛菊が、手にした白に近い蒼い光で構成された刀を残心の体勢からチャキリと刃を返し構え直した瞬間、ロボットが縦に割れて、床へと左右それぞれ別方向へと倒れ込む。

 その切断面は、真っ赤に融解するほどの高熱によって灼き斬られていた。


『蒼神炎舞刃・煌』。


 今雛菊が手にしているそれは、彼女のEXドライヴ『蒼神炎舞刃』を打刀サイズまで凝縮し、切断力と持続時間を向上させた対単体用の派生形態だ。


 眩く輝く青白い焔の剣が、クリムの『ラグナロクウェポン』同様に、堅牢なはずのロボットを真一文字に斬り裂いていた。


 仲間たちが駆けつけるまで持たせるため、切り札を惜しみなく切っての拮抗状態は、しかし……長くは持たない、そろそろ効果時間も切れる頃合いだ。


 それでも微塵の諦観もなく、シタを庇って徹底抗戦の構えを見せるクリムと雛菊に、僅かな時間差を付けて二機のロボットが飛び掛かった――その瞬間。




「――吹き飛ばせ、『セラフィックランチャー』、なの!」



 可愛らしい掛け声と共に、遠方入り口から柱の間を縫って飛来した純白の光弾が、今まさにクリムに迫るロボットの胴体に着弾し――穿孔跡から膨れ上がるように発生した、まるで小型の太陽が如き光の球体に飲み込まれ、近くに居たもう一機のロボットも巻き込み消滅した。


「……来たか!」

「いまのは、リコリスお姉さんの!」


 喜びの声を上げる二人。直後、大勢の者たち……『ルアシェイア』の仲間たちと、『黄昏の猟兵』の男たちが大空洞内へと雪崩れ込んでくる。


「クリムちゃん、雛菊ちゃん、無事!?」

「うむ、しかし敵は普段姿が見えぬ、辺りを徘徊しているから気をつけよ!」

「なるほど電磁迷彩か、だったら!」


 クリムの話を聞くやいなや、即座に決断したフレイの両手に宿る、精霊魔法の輝き。

 敵ではなく上方に向けて放たれた水球と火球はぶつかり合い、激しく水蒸気を撒き散らしながら相殺した。


 すると……機体表面を覆う電磁場が霧と接触したことで、パチパチと火花を上げて、霧の中に姿を消していたはずのロボットたちの姿が浮かび上がりはじめる。


「助かる、さすがフレイじゃな!」

「姿さえ見えたなら、こちらのものです!」


 すでに間近にまで迫っていたロボットたちも居たが、姿が見えるならばクリムと雛菊にとって対処はそう難しくはない。


 そして……こうして敵集団の動きを見渡せるようになって、向こうの動きの癖もわかった。


「こやつらはヘイトは機能しておらん、最も近い対象を機械的にターゲットしているだけじゃ……じゃから、このまま我らが囮になろう!」

「フレイヤお姉さんは万が一そちらにターゲットが行った時の対処をお願いします、皆はこのまま殲滅を優先してくださいです!」


 最も内部に入り込んでいる、クリム、雛菊、シタに固執するような配置で周囲を包囲しているロボットたち。

 どうやら近くに居るものを優先排除するルーチンを組まれているらしく、新手である皆の元へ向かっている機体は居なかった。


 そして――今、クリムたちの戦力には強力な遠距離攻撃手段が豊富にあるという、この場にて絶好のメンバーが揃っている。


「お……俺たちは」

「手伝って貰えるならば助かる!」


 即座に帰ってきた返答に、驚きに硬直したのは『黄昏の猟兵』アルファ分隊のメンバーだ。よもや、即断即決で協力を要請されるとは……PKである自分たちに、こんなにも迷いなくことを承諾されるとは思っていなかったらしい。


「おい、いいのか、俺たちは……」

「今は、目的を同じくする仲間じゃろうが!」


 周囲を旋回し、波状攻撃を仕掛けてくるロボットたちをギリギリでいなしながら、しかし楽しげな笑顔を浮かべたクリムがまたも即答する。


「まぁ、それで絶好の機会だからPKに戻ると言っても我は許す、我の見込みが甘かったということじゃからな……じゃが、雛菊ちゃんが許すかな!」

「PK? あなた方やっぱりPKするですか!?」

「なんでお前らこの状況で嬉しそうなんだよ、おい!?」


 殺人兵器と交戦中ながら、クリムに話題を振られて嬉しそうに尻尾を振っている雛菊に、たまらずと言った様子でツッコミを入れる部隊長の男。


 そんなバタバタした様子を愉快そうに眺めながら、クリムは効果時間終了により消えてしまったラグナロクウェポンの代わりに新たに創造した大鎌を振るい、ロボットの一体を真一文字に斬り捨てる。


 遠方からまた一機、新たにこちらに走って来る「ガションガション」という足音が聞こえてくるが……しかしそれに対して大鎌を肩に担いで不敵に笑うクリム。


 その姿を見て、隊長の男が呆れ半分、嬉しさ半分と言った様子で肩を竦め――その手が上がると同時に、『黄昏の猟兵』アルファ分隊の男たちが一斉に、背負っている銃火器を構えた。


「…………カインズだ。仲間にはカイ隊長と呼ばれてるから、魔王様もそう呼んでくれ」

「了解した……では、ルルイエ以来久々の共闘と行こうではないか。蹴散らすぞ、カイ隊長! それにアルファチームの者共よ!」

「「「――イエス、マム!!」」」


 一斉に上がる男たちの返事と共に、絶妙なエイムにてクリムを避け、迫るロボット相手に次々と命中していく彼ら『黄昏の猟兵』たちの火砲。


 次々と補充されるとはいえ、人数を増したクリムたちプレイヤー連合の敵ではなく……ほどなくしてロボットたちはその残機も尽きたことで、大空洞内部は完全に制圧されたのだった――……






【後書き】

戦うと元気になるまおーさま。

今回出てないスザクさん達勇者組は空洞入り口で退路確保中。

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