セイファート城の客人たち11

 ――そろそろ、戻っても良い頃合いだろう。


 そう判断してジェードの工房を後にしたクリムだったが……その庭にて、珍しい組み合わせの者たちを発見した。




「む、あれはエイリーと……クルゥ?」


 エイリーが両手で捧げ持つように、デフォルメされたタコのような魔神――クルゥを持ち、じっと見つめ合っている。


 クルゥの方もエイリーから目を離せずに固まっているようだが、いったい何をしているのかと、クリムが様子を伺っていると……エイリーが、その小さな唇を開き、呟いた。


「…………たこ焼きゲット」

「――ちょっと待てぇええい!!」


 エイリーの呟きが聞こえたその瞬間、クリムは瞬時に判断して『縮地』により一瞬で距離を詰め、その腕の中からクルゥを奪取していた。


「冗談。だからそのたこや……その子を返して」

「いま何と言い間違えたエイリー!?」

「まおーさまは、もうちょっと私のことを信じるべき」

「ことが食に関する事ならば、我はお主の発言を冗談とは信じぬからな!?」


 震え、しがみついてくるクルゥを守るように抱きしめながら、最大限の警戒でエイリーを威嚇するクリム。


 今、見た目は可愛らしい少女が小さく「チッ」と舌打ちしたのは、気のせいだと信じたかった。


 そうして不満げに睨んでくるエイリー、その小さな身体から発せられる強大な圧力に抗って、クリムは真っ向から睨み合う。


 彼女に一人ソロで勝てる可能性は、種族進化した今でも限りなく薄いが――ここで退いてしまえば、見知ったNPCが一匹、完全にこの世界から消えてしまうという焦燥感は、クリムに抗う勇気を与えてくれていた。



 ……そうして、必死の睨み合いがしばらく続いた後。


「あら……クルゥちゃん、こんなところにいたの?」

「む、ルゥルゥか、良いところに……!」


 のんびりと現れた銀髪の少女の姿を見て、クリムはほっと安堵の息を吐く。

 そうしてクルゥを抱いていた腕から力を緩めたところ、クルゥはすごい勢いでルゥルゥの方へと飛んでいき、その背後に隠れてエイリーへ威嚇していた。


 ――よっぽど怖かったんじゃろなあ。


 普段は抱かれている間ずっと不機嫌なはずのクルゥのそんな様子に、クリムは心底同情するのだった。


「む……原初の巫女か。残念」


 なぜかルゥルゥ相手には素直なエイリーは、心底残念そうに呟く。何が残念なのかは聞かなかった事にして……もう一つ、気になる事があった。


 それは、エイリーがたびたびルゥルゥに向ける、その呼び名。


「その、『原初の巫女』とは何なのじゃ?」

「似てるからなんとなく、そう呼んでただけ」

「……さよか」


 このフリーダム幼女にまともな議論を期待しただけバカだった。


 そんな徒労感にぐったりするクリムだったが、そこに、ルゥルゥが挙手して話に加わってくる。


「えぇと……たぶんなのですが、いまたくさん客人として訪れている彼女たち『巫女』の力の原理は、私と起源を同じくしていると思いますよ……?」

「そうなのか?」

「はい。ざっと見せてもらったんですが、彼女たちが先天的に付与されている光翼のシステム、ほとんど私と同一のものです。私は封印に特化し、あの方たちは浄化に特化しているという違いはありますけれど」


 なるほど、言われてみればたしかに、封印を発動する際のルゥルゥの光翼と、浄化を発動する際の巫女たちの翼は、枚数こそ違うが同じものに見える。


「というわけで、私があの方たちの大先輩ということになりますね」


 どやぁ、と自慢げな顔をするルゥルゥに、肩へと移動したクルゥが『調子に乗るな』と言わんばかりに、その触腕でペチンと突っ込みを入れていた。


 そんな光景を微笑ましく眺めつつ……そうなれば、疑問がまた生まれてくる。


「じゃがルゥルゥ、お主は暗黒時代よりも以前の生まれよな。何故、ここ数百年で生まれた巫女たちと技術的な繋がりがあるのじゃ?」


 確か、暗黒時代の中でほとんどの技術は断絶したと、クリムは書物フレーバーテキストで見たはずなのだが。


「えぇと、獅子赤帝様……でしたっけ。その方は、暗黒時代の危険な兵器を廃して回ったんですよね?」

「うむ、そう言われておるな」

「たぶん、その中で見つけた暗黒時代以前のどこかの遺跡に、私に用いられた魔導技術に関しての記録が残っていたのを流用したのだと思います」

「なるほどなぁ……では、原初の巫女というのはあながち間違いでも無いのじゃな」


 意外なところから繋がったNPC同士の関係性に、クリムは「はー……」と、感嘆の声を上げるのだった。






【後書き】

 だいぶ長く続いた客人たちの話も終わりが見えてきた。あとピックアップするべきNPCは誰だろうか……

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