鍛錬の続き
――また訓練をつけて欲しい。
「ってお願いしただけなのに!」
「はは、悪い。皆に知られたら、みんな見に来るって聞かなくてよ」
「はあ……」
半ばヤケクソ気味に叫ぶクリムに、手を合わせて謝るレイジ。
その周囲では、旧『Worldgate Online』関係者がぞろっと観客席に陣取って、談笑しながら興味深そうにバトルフィールドの方を眺めていた。
――夕食会もだいたい終えて、談笑に移っていた頃合いを見計らい、玲史たちに稽古の続きを頼みに行ったところ……あれよという間に、こんな事になっていたのだった。
「ま、負荷テストには丁度いいな」
「ええ、せっかくだから思いっきりどうぞ」
そんな乗り気な天理と宙のお墨付きもあって……なんとペンションに居たほとんどの者が、野次馬としてついてきてしまったのである。
すっかり見世物扱いなコロッセウムを見渡して、クリムは諦めたように深々とため息を吐く。
ではそのバトルフィールド内はというと……今度はレイジに加え、新たな面々が立っていた。
大楯と片手剣を携え全身鎧を身に纏った、ソールレオンと同じ『ドレイク』種の黒髪の女騎士が、玖珂彩芽こと『ソール』。
武器は小手のみ、装備も身軽さ重視の軽装という出立ちをした、派手な金髪の、獣人の中でも銀狐に並び珍しい猿系ワービーストが、空井悟こと『
ずらっと並んでスタンバイしていた彼ら『四皇』のうち三人は、それぞれが圧倒的な威圧感を発して、挑戦者を待ち構えていたのだった。
「はぁ……私も、そちら側に居たかったわ……」
「母様はテンションが上がると自重しないからダメです」
「あはは……桔梗さんはちょっと色々とあの子らに悪い影響を与えそうですから、また今度……」
観客席でそんなことをボヤき拗ねている、雛菊と同じ銀狐、しかしはだけた和服にグラマラスなボディと圧倒的に妖艶な出立ちをした女性は、雛菊の母、桔梗。
そんな彼女を、両隣に座る雛菊とイリスが苦笑しながら、なんだか辛辣なことを言いつつ宥めていた。
ちなみにリコリスは、観客席の端っこの方で、真っ赤な髪をした長銃使い、スザクの父親であるキャラクター名『スカー』と狙撃談義に花を咲かせている。
また、フレイやラインハルトたち後衛職は、怜悧な美貌のエルフの男性、風見誠氏のプレイヤーキャラである『フォルス』、そしてソールレオンの母親だという『ミリアム』を交えて座席の一角を占有し討論会である。
「暁斗も、あっちにいって訓練をつけてもらってもいいんですよ。少し揉まれたほうが捻くれ癖が治るのでは?」
「あはは、お断りします。僕、スポ根は趣味じゃないんで。あと鏡見てください」
何やら笑顔の裏に険悪なものを潜ませたフォルスとシャオの二人がそんな牽制をし合っているのを、メイが「やれやれ、お父もお兄も同族嫌悪してみっともない」と呆れており、その後ろで星露が困ったように苦笑していた。
その他、ユリアや隼人、雪那など他の皆もすっかり観戦ムードで座っており、大変な様相を呈していたのだった。
クリムは正直、そんな賑やかな観客席を羨ましく思いつつ、気を取り直してバトルフィールド内、こちら側の陣営へと目配りする。
こちらはクリムとスザク、それに今回は相手側に盾持ちの騎士であるソールがいるため、フレイヤが志願してバトルフィールドに立っていた。
「それじゃ、こっちの盾持ちのエルフの子は、私が受け持つわね?」
「は……はい、よろしくお願いします、綾芽さん!」
「ええ、色々と手取り足取りたたきこんであげるわ」
そう言って離れていくソールとフレイヤを見送って……クリムとスザクは、改めて眼前の二人へと向き直る。
こちらの二人は、ソールのように優しく指導してくれるつもりはハナから無い。すっかりクリムたちを返り討ちにせんといった風情であり、準備万端といった感じだ。
「では二人とも、準備は良いであるか?」
「今回は二対二のタッグマッチだ。どちらがどちらと戦うかは最初は君たちに任せるが、不意のスイッチに慌てるなよ」
そう言って己が剣と拳を構える二人に、クリムとスザクがその圧力に負けまいと一歩踏み出し、それぞれの黒い魔剣を構える。
「「……お願いします!」」
そんな意気込む二人の掛け声と共に……『剣聖』と『拳聖』の暴風が、二人を飲み込まんと襲い来るのだった――……
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