最終局面①

 オーブの処理に回っていた皆が各々勝機を見出した頃――エイリー、否、悪魔ベルゼブブを受け持っていたクリムたちのほうは、これ以上ないと言うほど窮地に陥っていた。


「ええい、本当に容赦ないなあの悪魔!」

「いやもうこれ、運営は俺らに勝たせる気無いっしょ」

「泣き言を言うでないわー!」


 満身創痍の体で、しかし目だけは死んでいない二人が背中合わせになって死角を潰しながら喚く。

 スザクがぶつぶつと悪態を吐くのを咎めるクリムだったが、しかし彼が泣き言を言うのもやむなし。


 ――最強の悪魔の姫。


 それがここまでとは、まるで予想していなかったのだから。




「だから、炎に触れたらダメだと何度言えば学習できるんですかねぇ勇者様!」

「あー避けられるかこんなもん!」


 シャオの嫌味に、スザクが反論する。頭では理解していても、戦場が皆燃えているのだから本当にどうしようもないのだ。


 そんな、周囲に吹き荒れている青黒い炎に触れるだけで、まるで身体に鉛が積まれていくように重くなる。これは治癒魔法を受けるまで続くため、シャオはひたすら回復役に専念する羽目となっている。


 そんな厄介な特殊能力を持っているのは大問題だが、しかし何よりも、単純にステータスが高い。


『あはははははは!』

「くっ……っ!」


 楽しそうに哄笑を上げながら、ベルゼブブが上空から頭上から襲い掛かってきたのを、クリムは腕を激しく痺れさせる衝撃に後退りながらも、どうにか辛うじて大剣で受け流す。


 そう……彼女は今の宙を自在に駆ける軌道、翼を使っていないのだ。信じがたいことだが、単純に、エアダッシュを自在にかまして来るのである。


 クリムも以前街中で建物の壁を利用し三角跳びで三次元立体機動をかますという離れ業をやってみせたが、彼女はそれを何もない場所でこなすのだ。


「ははは、私たちもあれ練習したらできるようになるのかな!?」

「だから何故楽しそうなのお主ぃ!?」


 一番先頭で誰よりも攻撃を受け止めているため、一番ボロボロなソールレオンだったが、彼は実に楽しそうに宙を飛び回るエイリーを凝視していた。

 コイツ絶対変なアドレナリンの出方してるだろ……そんなアホなことを考えてしまったのがいけなかったのだろう。


「しまっ……」


 クリムが、先ほどの一撃を受け流した際の体勢の崩れから、反応が遅れた。咄嗟にカバーに入ろうとしてくれているソールレオンだったが、きっと間に合わない。


 振り返った時にはすでに、ベルゼブブはまたも宙を蹴ってこちらへと跳んで来る――と思われたその瞬間だった。



「――さ、せ、る、かぁぁあああっ!!」



 莫大な、まるで蝶の羽のようなエネルギーを背中から放出させた少女が、構えた槍ごとベルゼブブに横合いから突っ込み弾き飛ばしたのは。






「……委員長!?」

「よかったぁ、まおーさま、間に合った!」


 あまりにも予想外の速度でカッ飛んできた人物の登場に、驚愕の声を上げるクリム。

 その横へ、先程の蝶の羽を霧散させた少女……なぜかやたらボロボロになった上にさらに土まみれという姿のカスミが、スタッと降り立つ。


「お待たせ、頼まれた通り、オーブは撃破してきたよ!」


 そう、自慢げに胸を張ったカスミ。

 だが彼女はすぐに気を取り直すと、先程の衝撃により距離の開いたベルゼブブの方へと向き直る。


 そして……駆けつけたのは、彼女ばかりではない。


「む、一番乗りはカスミお姉さんに取られた、悔しいの……!」


 そう本当に悔しそうに言いながら、フローターの軌跡を描いて上空から現れるリコリス。

 彼女の口からこんな好戦的な言葉が聞けるとは、彼女もだいぶ自分たちに染まって来たようだ。ちょっとだけリュウノスケに申し訳なく思うクリムだった。


「むぅ、意外な伏兵がいましたのです」


 さらに次、こちらもリコリス同様に悔しそうにつぶやいたのは、まだまだ余裕があるから早く戦いたいといった様子の雛菊。


「え、うそ、私が一番最後!?」


 そう驚きの声をあげて、セツナもシュバっとクリムの隣へ出現した。


「お待たせ、皆、無事連れ帰って来たよ!」

「ま、僕らが何するまでもなく皆頑張ってたからな、あとでちゃんと褒めてやるんだぞ」


 各人のサポートに駆け回っていたフレイとフレイヤも、やや遅れて無事合流。これで、ルアシェイアの仲間たちは全員勢揃いした。



 だが、人はまだまだ集まってくる。


「もちろん、連王国にだけいい格好はさせませんよ」

「だな。悪りぃ大将、思ったより時間食っちまった」

「ラインハルト、シュヴァル!」


 新たに掛かった声に、ソールレオンが嬉しそうな声を上げる。

 西側からは、ボロボロではあるが担当していた敵配下を全て潰してきたらしい、ラインハルトとシュヴァル、それにリューガーやエルネスタら見知った顔、他、北方帝国の主力メンバーが勢揃いしていた。




「いいや、やっぱり俺らが一番いい格好をさせてもらうぞ!」

「ちゃんと役目をこなしたのは、あなた方だけではありませんことよ!」

「俺らだって、忘れて貰っちゃ困るからな、ははっ」


 そう言って東側から姿を見せたのは、エルミルら『銀の翼』、ホワイトリリィら『リリィガーデン』そして他にもジェドという獣人の青年率いる『黒狼隊』らを筆頭とした、連王国の主要メンバーたち。




「お兄、こっちもバッチリ片付けて来たよ!」

「そうですか……いやあ良かった、君に任せたのは不安で仕方がなかったですが、無事で何より」

「むー!」


 何やらシャオとじゃれあっている彼の妹メイたち、ブルーライン共和国の面々も無事参戦。全戦力が、ついにこの場に揃った。




 ――敵はもはやただ一人、眼前で楽しそうに笑っている最強の敵、ベルゼブブのみ。


「さぁ……最終局面じゃ、皆、勝って笑って帰るのじゃぞ!!」


 そう、残る力をかき集めてのクリムの号令に、およそ五百人にも上るプレイヤーたちの歓声が、白の森を再度震わせるのだった――……







【後書き】

Q.運営は勝たせる気あるのですか?


A.


 *     +  ないです

     n ∧_∧ n

 + (ヨ(* ´∀`)E)

      Y     Y    *



「後でお主ら全員社長室で説教な」

「「「うす」」」


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