彼女たちの戦い②
雛菊やリコリスがそれぞれ優位に事を運ぶ中で――カスミは一人、逃げながら灼熱の閃光を放ってくるオーブにまともに近寄ることさえ出来ずにいた。
決定打を与えられず、焦りが胸中を支配する中で………しかしカスミはただ愚直なまでに、オーブを視界に収めて追いかけ続けていた。
――私には、雛菊ちゃんやリコリスちゃんみたいな、何が一つ頭抜けた才能なんてない。かといって、突き抜けた廃人という訳でもない……と、思う。たぶん。最近は自信ないけれど。
自分が凡人なんだという事は、自分がよく分かっている。リアルの友人関係から紛れ込ませて貰えた、トップ集団の中の一般人であると。
「だから、何よ……!」
ただ愚直に力強く地を蹴って、逃げながら火線を放ってくるオーブに追いついては偃月刀を振るう。私には、ほかに出来ることはないから。
「私が、まおーさまに、任されたんだから……!」
嬉しかった。
一人で大役を任せて貰えるほどに、信頼された事が。
「だから、私がきちんとやってやるんだからぁあああっ!!」
【EXドライヴが解禁されました】
そんな視界に突然現れたメッセージに従って、新たに増えた技を即座に叩き起こす。
「
叫んだカスミの背中に生えたのは、まるで妖精のような、三対六枚の、蒼く輝く半透明な楕円形の羽根。だがそれは物質ではなく、放出されるエネルギーの奔流を一時押し留めたもの。
――さぁ、今こそ羽化の時。
まるでそう叫ぶかのように……キィィン、と甲高い音が鳴り始めた。
「ぶっ……飛べぇえええええッ!!」
ドンっ、と凄まじいGと共に、背景が全て後ろへと吹き飛んだ。
逃げていたオーブが一瞬で両者の間の距離を消しとばされて眼前に現れ、カスミは必死にそのターゲットに槍を突き出す。
硬質な手答えがついにカスミの手の中を震わせて、だがこれで終わらせるかとばかりにさらに抉り込む。
――ピシッ。
速度の暴力に耐えかねて、ついにオーブに亀裂が走った。その亀裂は、僅かずつ沈み込んでいく偃月刀の切先に合わせて、どんどん広がっていく。
「――っ!」
必死になるあまり、気付けばカスミの眼前に迫る壁……否、それは地面。
いつのまにか上空へと舞い上がっていたらしい体は、現在凄まじい高度から落下中らしく、みるみる迫ってくる大地。
胃が引き絞られるような落下感に恐怖を感じながらも、しかしカスミは相手を逃すまいと、未だ切先にオーブを捕らえたままの偃月刀の柄を両手で握りしめ直し、衝撃に備える。
そうして――さながら流星のように蒼く輝く尾を引いて、少女は轟音を上げて戦場の一角へと落下したのだった。
◇
――ギルド『ルアシェイア』は、ガチ勢と言い切るにはちょっと躊躇する、どちらかというとのんびりとした気風のギルドだった。
ピリピリとした空気でレアボス狙いで張り込みをしたり、ドロップアイテムでギスギスしたりする事もない。
皆が思い思いに過ごし、その日のノリでやる事を決めて、みんなてんでバラバラな方向を見ている自由なギルドだ。
――だが、強い。自由ではあっても、皆が纏まっている。
「……仲間たち、って言葉が、本当によく似合うのよねえ」
だから居心地が良いのだろう。初めは何があった時の保険として、打算ありきで入り込んだこのギルドが、ほんのわずかな間にすっかりセツナにとっての大事な場所になっているほどに。
――セツナには、ある憧れがあった。
警察内の、本来ならば関係者以外には家族にさえ存在すら秘密な部署の、エースとして活躍する父。
まるで正義のヒーローみたいなそんな自慢の父親が、幼い頃に寝物語に聴かせてくれたのは……絵本ではなく、しかしそんじょそこらの物語以上に物語をしていた、父の体験談だった。
綺麗で可愛い、でも抱えていた大変な運命に負けなかった天使のようなお姫様。
ぶっきらぼうだけど、そんなお姫様が大切で大切で仕方がなかった剣士の男の人。
皮肉屋だけどなんだかんだで面倒見のいい、シスコン気味な、お姫様のお兄さんでもある王子様。
他にも語尾が変な魔法使いや、軟派な狙撃手のお兄さんや……そうそう、頭のおかしな刃物大好きな巫女さんなんてのもいたっけ。似たような子をどこかで見た気がするけど。
父の物語は決してキラキラした話ばかりではなかったし、辛い経験もいっぱいあったみたいだった。
だけど、その中で彼らは確かに生きていた。生き生きとしていた。
……そんな話を聞いて育ったセツナが、父の話に憧れを抱くのは当然だったのだろう。いつか自分も、そんな仲間たちと旅をしたいと常々思っていた。
――だから、こんなバッチリ条件を満たしそうな集団の中に居たら、ねぇ。
「つい、『仕事』なんて忘れてもっと助けてあげたくなっちゃうじゃん……!」
あまり羽目を外すなと父だけでなく
「――EXドライヴ……『ダンシングブレード』ォ!!」
高らかに宣言したセツナの周囲に、無数の闘気により構成された漆黒の刃、無数の暗器が浮かび上がる。
まるで蜘蛛の巣のように伸びる鋼糸が、鎖鎌が、意志を持ったようにのたうち逃げ回るオーブへと殺到した。
――ここで決める!
「喰らえ、父さん直伝……『刹那』あッ!!」
周囲全ての暗器を思うがままに繰り出して、自キャラと同じ名を持つその技を、がんじがらめにされ無防備な姿を晒しているオーブへと解き放つのだった――……
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