ダンス・マカブル
――櫓へと殺到するアンデッドたちと戦い始め、早数分。
「――おっと、弾切れのようじゃな。ジェード、頼んでいたマスケットは」
「はいはい、注文された数は揃えてあるわよ」
弾倉二つを撃ち切り、最後の薬莢を排出したのちボルトが動かなくなる。
もはやただの長い金属塊でしかない『ガングニール』をインベントリに仕舞い込みながら、ジェードから次々と、雷管式の長銃……シンプルな形状をしたマスケット銃を受け取り、これらも同じくインベントリに次々と突っ込んでいく。
「前衛は……特に問題は無いのぅ。はは、エルミルのやつ張り切っておるな」
高所から、ざっと戦況を広く俯瞰する。
敵後衛、スケルトンの魔法使いほぼ全てと、弓使いの大半はあらかた撃ち抜いた。
雛菊とカスミ、それとセツナはいつも通り機動力を生かした撹乱戦中。主に屋根上など高所を飛び回ってそこの敵を狩って回っている。
フレイヤは、やや後方で状況を見つつ、退魔の魔法で最前列の補佐。フレイもほぼ同じ位置で、主にまだ少し残る弓兵を狙って炎の矢を放ち続けている。
そのため……最前線を支えているのは、エルミルを先頭に据えた『銀の翼』だ。とくに休憩前の出来事が火をつけたのかエルミルの気迫は凄まじく、多数のアンデッド相手に全く引くことなく抑え切っている。
「うむ、向こうは安定しておるな。さて――」
前線の様子に満足し頷くクリムだったが……その直後、鋭い目でその反対、防壁の反対側へとバッと振り返る。
――と、そんな瞬間ガチャガチャと音を立てて、始めにクリムたちが来た方向、いまだ連弩の矢があちこちに刺さったままの門前の通路にスケルトンたちが殺到してきていた。
「挟撃!?」
「皆、後ろの敵を……」
にわかに騒然となる防壁上だったが、クリムはそれを手で押し止める。
「構わぬ、皆はそのまま前衛の援護を。向こうは我がやる」
「ひ……一人で?」
「なぁに、幸いこちらは狭き門じゃ、抑えるくらいならば一人でかまわぬ」
おそるおそる聞いてきた他ギルドの弓使いに、ニヤリと口元を吊り上げそう告げて……クリムはひらりと防壁を乗り越え落下しながら、最前列を走っていた曲刀を手にしたスケルトン目掛けて右手に構えたマスケットを照準し、引鉄を引く。
――込められている弾は、通常弾と散弾を複合したバックアンドボール弾。
命中精度のあまりよろしくない滑腔式の欠点を補うためのものだが、しかし面で殴りつけるようなその射撃は、前線をひた走ってくるスケルトン相手には有効らしく、射線上の数体が巻き込まれてバラバラになった。
更に……
「そ……らァ!!」
裂帛の気合いの掛け声と共に、弾を撃ち終え空になったマスケットの銃床を、その長い銃身を利用した遠心力と落下の勢いもつけて、叩きつけるようにして最も接近していた一体の脳天を殴りつける。
「うぇえ、やはり骨だけのやつは気持ち悪い手応えじゃ……なッ!」
枯れ木を砕くような手応えに顔を顰めながら、ひとたまりもなくバラバラになって吹き飛ぶその一体を横目に、空となった銃をさらに別の一体に投げつけて怯ませると……その隙に、もう片手で別のマスケットをインベントリから取り出して、今怯んだスケルトンの集団に向けてぶっ放す。
――そのまま、殴って、投げつけて、別の銃で撃つ。
くるくると手元でバトンのように複数のマスケットを振り回し、いくつも使い捨て、投げ捨てながら敵集団のド真ん中で舞うようなそのクリムの戦いぶりに。
「うわぁ……」
「まおーさま、踊りながら戦ってやがる……」
「めちゃくちゃだよぅ、クリムお姉ちゃん……」
防壁の上から聞こえてくるのは、狙撃隊の引き気味な声と、呆れたようなリコリスの声。
「もー、クリムちゃん手荒に扱いすぎ!」
「すまんジェード!」
「まだ安物ならいいけど、『ガングニール』でそれは絶対やめてよね!?」
後方でクリムが投げ捨てたマスケットを回収しては弾込めをしていたジェードが、さすがにあまりにもあんまりなその扱いに抗議する。
しかし給弾担当を得たクリムは、背後から次々と投げられる弾込め済みの銃をキャッチしては使い捨て、まるで水を得た魚のように生き生きと戦い続ける。
白い長髪を振り回し、赤い衣を翻して、まるでステップを踏むように火の粉と硝煙を撒き散らし戦場を舞うその姿は――まさしく
結局クリムは宣言通りに、背後から迫るスケルトンの集団を、ついには門前で単身にして完全に押し止め壊滅させてしまった。
「……ふぅ、たまには銃で戦ってみるのも悪くないのぅ。何よりあまりアンデッドどもに接近せずに済むのが良い!」
「って、それは断じて銃の戦い方じゃないのー!?」
「お、おぅ!?」
やり遂げたドヤ顔で、額の汗を拭って呟いたクリムだったが……その発言に対して、まさかの背後からのリコリスのツッコミに、目を白黒させる。
「……おれ、うちの盟主様が仲間で良かったって心底思ってるわ」
死屍累々と転がるスケルトンの残骸の山を眺めて、誰かが壁上でボソっと呟いたその言葉に……後衛部隊は、揃って頷いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます