新兵器

 フレイヤたちと一緒に夕飯を済ませ、予定通り二時間後に再びログインしたクリム。

 そこには……すでに揃っている仲間たちの他、先ほどまでは予定が合わなかったために来ていなかったはずの者が一人、増えていた。


「ジェード!?」

「はいはいまおーさま、ジェードお姉さんですよー。敵に錬金術師っぽいのがいるって聞いて、居ても立っても居られず来てしまいました」


 そうあっけらかんと笑う、ルアシェイアの錬金術師。


「お主、仕事は……」

「私は今日は早番でした! サラちゃんは夜勤で残念だけどー」


 そう言いながら周囲を……防壁の上で各々の武器の確認をしている弓や銃使いの様子を見て、ニンマリと笑みを浮かべる彼女。


「それに……んふふー、どうやら丁度、頼まれた物の出番みたいね」

「……ぬ? ではジェード、もしや」

「ええ、頼まれたもの、ちゃんと用意できてるわよ」


 そわそわと期待の目を向けるクリムにそう言って、彼女はゴソゴソとカバンを漁る。やがて……


「状況的には狙撃用の方がいいよねー、はい、『ガングニール』!」


 どこぞの猫型ロボットのような調子で、ジェードが取り出して掲げた物体。

 それは無骨な金属色剥き出しの、クリムの身の丈ほどもある長大なライフルだった。




 ――狙撃銃『ガングニール』。


 長大な銃身に比べ、銃口はやや小さめなその銃。

 おそらくは将来的に槍で出す予定であろう『グングニル』との差別化のため、別の読み方をされた名を与えられたその銃は……現在発見されている中で最高峰の命中精度と威力を誇る、ガンナー垂涎物のスナイパーライフルだ。




 事実、連王国のメンバーでも銃を扱う仲間(リコリス含む)が揃ってガタッと反応を見せたのに苦笑しながら、クリムはその銃を両手で受け取ると、グリップを握り込んでみたり、構えたりして調子を確かめる。


 ……これは、ルルイエで得たレアな素材を結構注ぎ込んで作ってもらった一丁だ。残念ながら、一丁分しか素材を確保できなかったが。


「弾は、まさかこんな早く本格運用するとは思わなかったから十六発分だけ。専用弾で他の銃とは互換性はないから、無駄撃ちはあまりしないようにね?」

「うむ、感謝する」


 そう言って、ジェードが差し出した二つの弾倉のうち一つをインベントリに仕舞い、もう一つをざっと検める。


「ま、魔王様、使えるのか?」


 訝しげに尋ねてくるエルミルに、クリムは新しい玩具を貰った子供のようなキラキラした目で答える。


「問題ない、すでに我は手に持つ武器ならば制限なしに使用できるからの。ま、銃は魔法で製作できぬから今までは使っていなかったが」


 だが、実銃を手に入れたことで、今後はクリムもリコリスと共に狙撃運用が可能となる。


 もっとも、本来の銃スキルを極めた先にはスナイパーライフルや二丁拳銃などの、刀の『応変』や片手剣の『型』に相当するプレイヤー通称『特化スタイルスキル』があるらしいが、銃スキルを経由していないクリムのスキル構成ではそれを習得できない。


 それに加えてクリムは銃使いに有効なスキルを一部所持していないこともあるため、銃専門のスキル構成をしている者よりは中途半端感は否めないだろうが……それでも遠距離攻撃要員の数が必要な時に、あるいは弾幕要員として、人数を誤魔化すくらいはできるだろう。



 そうエルミルに言いながら、弾倉の中身を確かめると銃本体へ装填し、ボルトを操作して初弾を薬室へと送り込んだ。

 ジャコン、というボルトアクション方式の重々しい装填音と手応えに男心が強く擽ぐられ、身体をブルっと震わせる。


「あの、クリムお姉ちゃん。今度……ちょっとだけ貸して欲しいなー……って」

「うむ、皆で得た素材を使用したのじゃから、もちろん構わぬぞ。遠慮なく言うが良い」


 気になって仕方ないらしいのは、やはりガンマニアの性か、ソワソワとそんな事を尋ねてくるリコリス。そんな彼女の様子に苦笑しながら、クリムは快諾する。


「では……狙撃部隊は構えよ、前衛は櫓を守るように展開、撃った瞬間に敵は来るぞ」


 そう言って、クリムは胸壁の凹部分に『ガングニール』の長大な銃身を据えると、スコープ越しに遥か遠方、砦から突き出す岩落としの窓を覗き込む。


 そこにはやはり、こちらを伺っている死霊騎士の弓兵の姿。隣で構えるリコリスら狙撃部隊と視線を交わし頷き合うと、引鉄へと指を掛ける。


 大きく息を吸う。

 その息を、今度は大きく吐く。


 視野が狭まり、心臓の鼓動が遅くなったような錯覚の中……距離と、風の流れを加味してレティクルの中心を死霊騎士からずらし……引鉄を引く。



 ――ガォオンッ!!



 まるで獣の咆哮のような爆発音と共に、銃口から凄まじい初速で飛び出したその弾丸は、あっという間に両者の空間を飛び越えて――窓の奥に居た死霊騎士の片方、その頭を寸分違わず撃ち抜いた。

 同時に隣に居るリコリスの放った光弾も、ここから確認できるもう一体の頭を貫き、地上では狙撃部隊の先制射によって厄介なスケルトンの魔法使いが崩れ落ちる。


「よし、我らは前衛まで敵が到達する前に、可能な限り厄介な敵を削るぞ、皆のもの、後半戦の開始じゃ!」


 一斉にこちらを向いたアンデッドたちを前にして、ジャコンとボルトを操作して次の弾をリロードしながらのクリムの鼓舞を受け、周囲の仲間たちから咆哮が上がる。


 キンッ、と特注の弾の薬莢が防壁下の石畳に落ち、甲高い音を響き渡らせる中で――安息の時間は終わりを告げ、『城砦都市ガーランド』攻略戦後半が幕を開けたのだった――……







【後書き】

まおーさまは広く浅く、多種多様な武器を使うスタイルがお好き

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