テスト結果発表を終えて

 ――夏期休暇明けの実力テストから一週間。


 この日の昼休み、生徒用のコミュニティページに掲示されたテスト結果により、教室内は悲喜交々の喧騒に包まれていた。


 そして……それは、紅たちにとっても同じことが言えたのだった。





 教室の一角。

 白髪と銀髪という。二人ともやたらと目立つ色彩をした男女が、剣呑な雰囲気で順位表を眺めていた。

 その、まるでビリビリと両者の間の空気が振動しているかのように張り詰めた中で……


「「……くっ」」


 そんな両者が同時に、悔しげに呻き声を上げる。


「……学年で、同点3位か」

「……流石にやるな」


 二人揃って悔しそうに、お互い睨み合いながらバチバチと火花を散らす紅と玲央。


 紅はやはりというか、生理で集中力が落ちていたせいか……特に重かった二日目と重なった、試験初日の科目で何個かケアレスミスをしていた。

 一方で玲央については、ほぼ全教科パーフェクトながらも国語、特に古文でミスが数カ所見られた。それでも日本に来て間もない人物の成績としては驚愕なのだが……それでも、納得していないのはストイックというか、むしろ負けず嫌いというか。


 ……そして何よりも問題なのは二人よりも一つ上、2位に掲載されていた名前。


 その人物へと、紅も玲央も、揃って恨みがましい視線を向けた。


「ははは、負け犬の視線が実に心地良いな」

「くそぅ、久しぶりに昴に順位負けた……ッ!」

「くっ、このような伏兵が居ようとは……っ!?」


 そう、漁夫の利を掻っ攫うように紅たちの上に躍り出たのは、眼鏡を光らせて愉悦の表情で二人を見下ろす昴だった。


 その背後では、聖が「ねえ昴、その辺で……」とどうにか嗜めるべくオロオロしていたのだが……残念ながら、紅たちにはそんな彼のドヤ顔を崩すことはできなかった。


 ひとしきり悔しがった後……紅は諦めて、ふぅ、と溜息を吐く。今回に関しては紅が本調子でも勝てたか分からない彼の点数を見れば、完敗だったのは明らかだ。


「……まあ、負けは負けだしね。でも昴、今回は本当凄かったね?」


 明らかに成績が伸びていた昴に、紅は手放しで賞賛する。すると……


「ま、僕は委員長に勉強も教えていたからか、自分の復習もいつも以上に捗ったからね。そういう意味では委員長に感謝かな?」

「い、いえそんな、おかげで私もいつもよりずっといい成績だったし……!」


 そんな昴の自己分析に、恐縮するのは隣でハラハラと見守っていた佳澄だった。

 そんな彼女と聖は、同じ30位台に名前を連ねている。聖はだいたいいつも通りの順位であるが、佳澄は前回の期末考査から20以上も上がった順位に、喜び以前にすっかりテンパっていた。


 いずれにせよ……皆、問題なく良い結果が残せたことには違いなく、ホッと安堵する一行なのであった。




 ◇


 ……と、無事試験結果も出て安堵や絶望の空気が流れる中でつつがなく授業も終わり、本日最後のホームルーム。


 すでに終わった試験結果など放り投げ、今教室では一つの話題にもちきりだった。


「それで……再来月に迫った学園祭だが、何かやりたい事がある奴は居るかー、ま、だいたい結果は読めるけどな」


 教壇に立ち、やや投げやり気味に教鞭片手に問い掛けているのは、議題を取り仕切っている司会役の昴。

 その横では書記として聖と、クラス委員長の佳澄が、AR表示のホワイトボードに色々と書き込んでいた。


 そんな中、昴の問いかけにクラス全体がワッと沸き上がり、皆の手が一斉に挙がった。




 ……夏が終わり、月が変わると待ち構えているのは、学園祭。


 とはいえ、それは再来月、10月後半というまだ先の話ではあるのだが……私立ということで規制も緩く、けっこう出し物に自由があるこの学校の文化祭では、クラスごとの出し物の競争率も高い。

 それが、特に人気なために出店数が学年ごとで制限のある喫茶店系ならば、尚更だ。


 そのため、やりたい事を通すためには早めに届出をしないと不利になるため……紅たちが所属するクラスでは、絶対に自分たちの要望を通すのだと謎の意気込みを見せ、放課後こうして残って議論を始めたのだった。



「ま、うちのクラスは満月さんと玖珂さんが居るからな」

「ああ、話題性だったら抜群な二人、活躍してもらわないと損だぜ」

「……ふゃッ!?」

「はは……もちろん、クラスの一員として最大限協力させて貰うとも」


 周囲からの期待に満ちた視線に、紅は驚いて奇妙な声を上げ、一方で玲央は実に楽しそうに協力を快諾する。


「でもそれだけじゃないわ、うちの綺麗どころはまだまだ居るからね!」

「古谷さん達やイメチェンした委員長も話題性では負けてないよな。俺、本当このクラスで良かったと思う」

「ふぇ、私も!?」

「それにぃ、満月さんの着せ替えも是非ともしたいしぃー?」


 怪しい目で紅を見つめてくるのは、紅をやたら可愛がってくる女子たちのグループの視線。


「……なんだか、嫌な予感しかしない」


 悪寒に身を震わせながらぽつりと呟いた紅のその言葉は、虚しく騒ぎにかき消された。


 そんなわけで、若干の下心が渦巻く教室内。ガヤガヤと盛り上がりを見せる中で、もはや一つの候補だけ、どんどん伸びていく票。


 他人事で眺めていたら急に持ち上げられ、すっかり進行も出来ないほど慌てている佳澄を他所に……議論の余地すらなく、二位のお化け屋敷をトリプルスコアで下した圧倒的な支持で――紅たちのクラスの出し物第一希望は、コスプレ喫茶店で決定となったのだった。

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