作戦会議
――致死ビームの飛び交う広間から無数の悲鳴が鳴り響き始めて、およそ一分後。
「だぁああああ!?」
部屋から転がり出るようにして、飛び出してくるクリム。続いて……
「もうやだ怖いー!?」
「というかなんで生きてるんだろー!?」
抱き合いながら飛び出してくるのは、カスミとフレイヤ。
その後もワラワラと無数の火線から脱出してきたルアシェイアのメンバー……どうやら奇跡的に、戦闘不能者はゼロだったらしい。
「ぜぇ……ぜぇ……ほんと、なんで今生きてるのかしら」
「か、火事場の馬鹿力ってやつですかにゃあ……げほっ」
こちらは、完全に息が上がった様子で床に座り込んでいるサラとジェード。どうやら運動不足と二日酔いの彼女らには、相当堪えたらしい。
「水着イベントって……もうちょっとライトなものだと思ってたの……」
「大丈夫、その認識は間違ってない、間違えているのはここの運営だから」
「なんでガチで殺しに来てるのかしら……」
リコリスのぼやきに、全面同意するのはフレイとカスミだ。
コメント:それな
コメント:なんで水着イベの敵が殺意こんな高いんだ
コメント:海岸を血で染めるという運営の意志を感じる
コメント:夏休みの無い社会人の怨念が形になったようだ……
コメントもそんな風に呆れと苦笑に満ちる、そんな中……
「さて……どうやら追ってこないらしいから、作戦会議といこうかの!」
「く、クリムちゃん元気だね……」
クリムはビクビクしていた先程までと違い、幽霊とかゾンビとか手足が生えて高速で這い寄ってくる魚とかの不気味なものに比べれば、いくら致死的な威力のレーザーやらビームやらを連射していようと相手がゴーレムならばやるべき事は明確だから平気……という『ぶった斬れる相手なら問題無い』理論で元気を取り戻していた。
「うむ、奴の行動が大体把握できたからの、忘れないうちに伝えておきたくてな」
そんなクリムは皆にそう告げて、背後、部屋の様子をこっそりと伺う。
背後からは壁越しとはいえ、いまだに肝の冷えるレーザー音が鳴り響いているが……どうやら出てくるつもりは無いらしく、運営最後の良心を感じて安堵の息を吐く。
「それで……まず我が気付いたことなのじゃが、一見激しく視える奴の攻撃は、だいたい三つのパターンの繰り返しじゃな」
「パターン、です?」
指を立てて教鞭のように振り、解説を始めるクリム。その言葉に、雛菊が可愛らしく狐耳を揺らして首を傾げる。
「うむ。まず一つめが、本体からこちら単体に向けてのレーザーじゃ。で、これは奴の目が三回点滅した数秒後に撃ってくるみたいじゃが……最後までこちらをターゲットしとらんな」
「クリムちゃん、どういう事?」
「うむ、三回めの点滅で、こちらの追尾が終わっとる。これは外周の子機にも当てはまるな」
おそらく、あの眼は感覚器官とレーザー発信器、両方の機能を同時には担えないのだろう。
三回目の点滅で感覚器官のしての眼としての役目を中断し、レーザー発信器として稼働しているのだろうと、クリムは補足する。
コメント:え、あの短時間でそんな分析したの?
コメント:なんであの弾幕の中でそこまで見てんだ……
呆れ混じりの、視聴者からの感嘆の声。
……そういえば、何故ここまで『視え』ているのだろう。
そんな疑問に、今更ながら不意に駆られるクリム。
思えば先程のPK戦でもそうだ、まるでごく当たり前のように銃弾を弾き落としていた。はて、あのような事は、以前はいくらなんでも出来なかったような……
「……クリム?」
「あ……悪い、話を続けるぞ」
フレイの呼びかけに、おかしな方向へ飛んでいた思考を頭を振って追い出し、話を戻す。
「二つ目が、奴の斜め四方の外装から出てくる砲塔からの、ボス中心範囲十字ビームじゃ。こちらは範囲がクソ広いうえにかなり照射時間が長いため、分断された上に回避する動きがかなり制限されてしまうのが、むしろ厄介じゃな」
「子機からの射撃も通常通り飛んでくるからな……子機の攻撃を誘導できないと、逃げ道が無くなるぞ」
「うむ。自分のいる安置の端から、少しずつ動きながら一つずつ回避していくのが無難じゃろ」
そう言って、クリムは皆の前で簡単な図を床に書いて、自機狙いのレーザーの回避方法を説明する。あとは、実際に実戦で慣れていくしかないだろう。
「三つ目が、本体を360°回転させての円周攻撃じゃな。こちらは射撃位置が高いため、接近すれば怖くないじゃろう」
「でも、やっぱり子機からの攻撃はあるの」
「うむ。いずれにせよ……本体の攻撃は全て即死級の威力であろう。それはそれで怖いが、大雑把な分対処は容易い。むしろ厄介なのは……」
「はい!」
まとめに入ろうとした時、元気に挙手をした者がいた。雛菊だ。
「うむ、雛菊早かった。答えは?」
「まわりの小さいのが邪魔です!」
「うむ、よくできたのじゃ」
自信満々に答えた雛菊の、両耳の間あたりをクリムが撫で回してやると、雛菊はその手に頭を押し付けるようにして「えへへ……」と嬉しそうにブンブン尻尾を振っていた。
うん、可愛い。
そんなギスギスした水没都市に咲いた花畑のような平和な光景に、クリムだけでなく皆でほっこりする。
コメント:これはAVですね
コメント:アニマルビデオの方な
コメント:ちなみに部屋内は絶賛致死ビーム乱射中
「おっと、ほっこりしている場合ではないわ」
背後からピキュンピキュンと聞こえてくるやばい音と視聴者のコメントに、我に返ったクリムが話を続ける。
「とにかく、敵は先程説明した三つのパターンの行動をループしておる。子機の配置が毎回変わるため臨機応変に対処する必要はあるが……」
「それじゃ、俺たちは十字ビームで区切られる四方に散って、ひとまず子機を減らすのに専念でいいな?」
「ああ。勿論、このパターンが最後まで続くとは思えない。そのあとは各自の判断で動いて欲しい」
フレイの確認に、クリムはそうだと頷く。
先の情報は無い完全初見攻略ゆえに、その後の指示は大雑把ではあるものの……そこには、皆なら切り抜けられるはずという信頼が見て取れた。
「うむ。遠距離攻撃の主砲であるリコリスとフレイは、遊撃として自由に動いてくれ。判断に迷ったらフレイの指示に従うこと」
「ああ、任せてくれ」
「はいなの」
指名された二人が、迷いなく頷く。
「残るは……委員長は我と、ジェードさんはフレイヤと、サラさんは雛菊と一緒に行動して、何かあったらそれぞれの班でフォローし合ってもらいたい」
最終確認するクリムに、皆、若干緊張した面持ちで頷く。
「では……休憩終了、今度こそ討ち取ってみせようぞ!」
そう鼓舞するクリムに皆の声が大きく唱和し、それぞれの持ち場へと飛び込んでいくのだった。
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