名前を呼んではいけないアレ
名前ありのエネミーからドロップした鍵を使用して入った、未知のエリア。
期待に胸膨らませ、立ち塞がる敵をなぎ倒して進んだ先は――
「……行き止まりだな」
落胆したような、フレイの声。
道中、水没した通路を潜って進んだりと複雑に見えて、実は一本道だった道の先には、中央に台座を備えた広いホールだけが、ポツリと存在していたのだった。
だが、だからこそ。
「いかにも、なんか出てきそうな感じじゃな……」
明らかに中ボス部屋といった感じの部屋に、中を覗きこむクリムが手で皆へ警戒を促す。
「どうする、やるか?」
「うむ、わざわざ鍵まで使用させたエリアじゃ、何も無いとは考えにくいじゃろ」
「分かった……皆、何が起きても大丈夫なように、万全の準備を整えて入ろう」
クリムの意図を汲んだフレイの指示に、すぐに取り出せるアイテムの確認など、各々が支度を始める。
そうして、意気込んで突入するも……
「……何も起きないねぇ」
シン、と静まり返った部屋に、若干拍子抜けしたような声を上げる、先頭で盾を構えているフレイヤ。
「うむ……何かを調べるのがトリガーとなるタイプじゃろか。例えばアレとか」
「まあ、あからさまに何かあるって主張してるよな」
そう、クリムたちは皆で周囲を警戒しつつ、部屋の中央へと移動する。
半球形の台座、その中央に鎮座していたのは……歪んだ立方体の額に納められた、赤い結晶。
黒を基調としながら、ところどころ赤い輝きを放つ、球形に近い多面体の形状を持つその結晶。
そんないかにもなアイテムが納められたその台座の窪みからは、まるで血管のように脈打つ光が伝う基盤のようなものが覗き、台の中へと消えていた。
コメント:なんというか、アレに見えますね……
コメント:輝くアレがありますね……
コメント:いやまさか……まさかなぁ
ざわつくコメント欄に顔を痙攣らせながら、皆の『お前がやれよリーダーだろ、やだじゃないんだよ』という無言の同調圧力に負けたクリムがおそるおそる、宝石に触れようとした――時だった。
――パンッ!!
「ぉあ゛あ゛あっ!?!?」
突然手元で爆ぜた……爆ぜたように見えるほど、勢いよく方々に伸びた、赤い『何か』。
それに全身の毛を逆立てるようにして、クリムは濁音混じりのガチビビリな悲鳴を上げて、凄まじい勢いで飛び退った。
そんな眼前で、振動と共に台座から無数の赤い何か……糸束のようなものが、周囲へと飛び散り続けている。
その糸束は、まるで周囲の構造材を引っぺがすように台座へと集めていた。
「な、なんかヤバくないですか?」
「うぇ……血管みたいで気持ち悪いの……」
脈打ちながら形を構成していくその『何か』に、顔を顰めるのは幼少組二人。彼女らの言う通り、その光景はまるで逆再生で組み上がっていく生物のようであり、非常に視覚的に気持ち悪い。
そうこうしているうちに、部屋自体が組み変わるようにして姿を構成し、床から浮き上がるようにして現れたのは……
――動くたびにあちこち隙間のできる身体の奥に覗くのは、まるで血管のように脈動する先程の糸。
――役に立つのかも不明な、短く奇妙な手足。
――そして、先程の結晶をまるで目のように中央に輝かせた……巨大な球形の浮遊ゴーレム。
コメント:バック◯アード様!?
コメント:このロリコンどもめって言いそうw
コメント:ビホ……ビホル……
コメント:待てそれ以上はいけない!!
コメント:土下座右衛門! 土下座右衛門じゃないか!
騒然となるコメント欄。確かに見た目的なイメージは、ゴーレムで再現した目玉の怪物だろう。
そんな異様な見た目に圧倒され、硬直して見上げるクリムたちの前で、その目玉となっている赤く明滅する結晶が、より一層輝きを増していき……
「……! 皆、至急回避じゃー!?」
「きゃ!?」
そういうが早いかフレイヤの手を引いて飛び退ったクリム。他の者も、クリムの声に反応して咄嗟に床に伏せた――その刹那。
――ピキュン。
それはそんな、軽く小さな音。
だがそれは、先程クリムが飛び退いた空間を貫いて――たまたま、本当にたまたま入り口からこちらを覗いていた、運が悪い
「……ひぇっ」
皆が伏せる中、唯一その光景を一部始終直視したクリムが、真っ青になってそんな悲鳴をポツリと呟く。
「じ、じゃが、砲塔一つから一本のビームが飛んでくるくらいならばいくらでも対処……」
「あ、クリム馬鹿、フラグ立てるな!」
強がるクリムのセリフに、嫌な予感がしてフレイが制した――その直後。
部屋中から、次々とふたまわりくらい小さな同型のゴーレムが姿を現し……それを見た一同が、揃って顔を引きつらせた。
コメント:一射目見てすぐ〜くらい、はあかんですよ!
コメント:殺意高ぇえええええええ!?
コメント:まおーさま謝って! ほら謝るんだよ!!
「え、これ我のせい!?」
「そんなこと気にしてる場合か!!」
コメント欄の言葉に思わず叫んだクリムだったが、即座にフレイの叱責に我に返る。その間にも、周囲で高まる無数の禍々しい赤い光。
「…………散開!!」
クリムが真っ青な顔でそう叫んだ直後、ルアシェイア一同連携も何もする余裕もなく、致死の赤い閃光が乱れ飛ぶ部屋の中を蜘蛛の子を散らすように逃げ回るのだった――……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます