危機
――敵の行動パターンは、概ねクリムが分析した通りだった。
激しく見えた一撃即死なオワタ式弾幕も、種さえ割れてしまえば余裕を持って対処できる。
ならば隙をついて周囲を浮遊している子機の撃破も容易であり、数が減少するにつれてその処理はどんどん手際をよくしていた。
そうして、子機をあらかた破壊した頃――突如、敵本体が爆砕した。
「じ、自爆!?」
流石に、狼狽した声を上げるクリム。
突如炸裂した敵本体と、周囲に撒き散らされる無数の飛礫。逃げ場など無く、嵐のように叩きつけられる破片にただ悲鳴を上げながらガードするのが精一杯――そんな時だった。
「……ふ、ぐっ!?」
右肩、鎖骨の少し下あたりと、左脇腹の二箇所。
まるで矢で射られた時のような体に突き刺さる衝撃に、たまらずクリムがくぐもった声を漏らす。
それでも、どのような攻撃か分からないため反射的に飛びのこうとしたクリムだったが……
「ぇ……ひゃあ!?」
何故か脚に思うように力が入らず、すとんと尻餅をついてしまう。
「きゃあ!?」
「ゔっ……」
「くぁ……!?」
「はぅ……っ!」
「あぅ!?」
「ぐっ……!」
「に゛ゃっ!?」
続々と背後から聞こえてくる悲鳴と、仲間たちが床に崩れ落ちる音。そして思うように動かない自分の身体。
明らかな異常事態に戸惑いながら、見下ろした体には……
「な、なんじゃ、これ……!?」
コメント:アウトぉおおおおおお!?
コメント:この絵面はまずいですよ運営ィ??
爆風が薄れ、土埃がはれてくるにつれて騒然となるコメント達。
クリムが戸惑いながら見下ろした自分の体、先程なんらかの攻撃を受けた場所にあったのは……敵本体から、水着に覆われていない部分、剥き出しになった白い柔肌に繋がった赤い物体。
それは……血管のように脈打ち、クリムの体から何かを吸い上げるように敵本体へ向かい定期的に光りながら蠢動していた。
コメント:これは紛れもなくアウトぉ!
コメント:悪意ありすぎワロエナイ
コメント:でもきっちり水着の上は避けてるあたりまだ最後の理性ある
コメント:大事なとこ隠してる水着上だと確実にヤバい絵になるから……
そんなコメントに、クリム達が慌てて触手を外そうとしても、びくともしない。まるで皮膚に潜り込み融合するように赤い繊維が張り付いている様は、かなり見た目的に痛々しい。
そんなアレな見た目ではあるものの、クリム達の感覚的にはただ張り付いているだけで、苦痛等は無い。
だが……ただ張り付いているだけで何も無い、などということは勿論なく。
「ぐっ……」
赤い触手が張り付いた場所から何かが吸い上げられる脱力感に、ぐらっと立ち上がろうとした膝が折れかけ、それでも鎌を杖代わりにどうにか立ち上がる。
見れば、HPとMPのバーが毒々しい赤色に明滅しながら振動しており、徐々にそのバーが短くなっていた。
更には、その上に並ぶステータス減少のアイコン。体に触手が吸着した箇所の数だけ、筋力と魔力に減少のデバフが付与されていた。
「す、ステータス吸収じゃと、この……っ!?」
大鎌を振りかぶり、しつこく纏わり付く触手を刈るように振り回す。
視界の向こうでは、雛菊が自身の二の腕と脚に取り付いた触手を『蒼炎』の炎で焼き斬ろうとしていた。
だが……
「し、師匠!? こ、これ切れないです!」
「えぇい、これもギミックの一種って事か……運営やっぱりアホじゃな!?」
この赤い触手は非常に柔軟かつ強靭であり、耐火性も高いらしい。ゴムのような手応えだけ残し伸びるだけで、切れそうにない。
後で両親に告げ口して抗議してやる……そう心に決めつつも事態を認識したクリムの判断は、迅速だった。
「皆、体力を吸収され尽くす前にあいつを破壊するのじゃ、フレイヤはMPが続く限り皆に回復魔法を!」
「う、うん、分かった!」
「り、了解です!!」
「承知しましたなの!」
慌てて攻撃再開する一行。
幸い、この状況で更なるレーザーやビームによる攻撃は加えられず、どうやら純粋なDPSチェックらしい、が。
「あ゛、は……っ!?」
ドッ、と再度身体に伝う衝撃。
もはや避ける余裕もない眼前で、再度身を震わせた敵本体が炸裂し……最前線で武器を振るうところだったクリムはひとたまりもなく、体の中央と左太腿に、新たな触手を受けていた。
加速するスリップダメージと、さらに低下する筋力と魔力。急に力が弱くなったせいで座り込みそうになる膝を奮い立たせ……
「ほんっ、とっ……散々じゃなこのダンジョン――ッ!!?」
弱った体を腹の底から奮い立たせるような、そんなクリムの全力の絶叫が、地下空洞に響き渡ったとか。
◇
――ズン、と地響きを上げて、敵本体は元の台座となって部屋の中心に落ちた。
「……はあ゛っ……はぁっ……もう、ほんと何なんじゃ……」
「うう、もうお嫁に行けないよぅ……」
息も絶え絶えに、クリムは傍らでべそをかいているフレイヤを慰めつつ、悪態を吐く。
他の皆も似たり寄ったりで、あちこち触手で繋がれ散々力を吸われまくった身体は、もはや動けそうになかった。
一方で、力を散々吸われて非力になりながらも死力を振り絞った甲斐もあり……皆の集中攻撃を受けて眼前で煙を上げて沈黙する敵本体は、再び動き出す気配は無い。
そんな残骸に心の底からの悪態を吐きながら……最終的には更に背中と首筋にも追加で突き刺さり、合計六本も被弾していた、今は力無くしおれている赤い触手をずるずると身体中から引っこ抜く。
「……ほんっとうに、垢BANされんじゃろうな?」
幸いながら、この触手たちも危険な部位には接触しないというポリシーだけは徹底されており、特に十五歳未満の雛菊やリコリスら二人は、どこに被弾しようが絶対に四肢に移動する仕様となっていた。
その辺りに、運営側も最後の理性は残っていたみたいだが……
コメント:……ふぅ
コメント:なんていうか、ドンマイ?
コメント:大丈夫? BANされない?
コメント:その時は抗議の署名でもなんでもするぜ?
視聴者たちの、そんな反応。
あられもない姿にいつもどおり沸き立つかと思いきや、むしろ同情的なコメントが流れていたのだった――……
【後書き】
配信垢BAN的な意味で。ちなみに男女平等なため、男だけのパーティーでも同じことになります。
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