エピローグ
両手で慎重に土の中を探る。
硬い感触。
太さは片手で掴んで余る程度。
地中をたどっていくと、わたしの身長くらいの長さがあるのがわかる。
ふふふ……これはわたしの優勝だな!
「みさきさーん、ぼくのを見てください! こんなに大きいですよ! つやがあって、太くて、ぜひこれをみさきさんに食べてほしいです!」
うがぁっ!? 後ろからいきなり声をかけられて思わず力んでしまった。
せっかく優勝レベルのを掘り出す直前だったのに、先っぽが折れちまったじゃないか……。
腹立ち紛れに、折れた先っぽを声をかけたカガ君に投げつける。
カガ君は「みさきさんからのはじめての贈り物……一生大切にします!」と折れた芋の先っちょを抱いて感涙にむせび泣いている。
いや、それ芋だからね? 一生保存がきくものじゃないよ?
なお、カガ君がドワーフ村に帰ってきたのはひと月ほど前のことだ。
細かい経緯は
カガ君曰く、「ぼくの結婚相手はみさきさん以外に考えられません!」とのことだったが、その台詞の最中もその視線は我が平らかなる平原に注がれていたのでまったく信用ができない。
どうせ、皇族のみなさまが立派な山脈の持ち主だったからお気に召さなかっただけだろ、おらぁん!?
「みさきさん、私もこんな立派なのが掘れました!」
「南方で見たものとは大きさが段違いでございますね。これで味がよければ逆に南方で売っても商いになるやもしれません」
頬を泥で汚してうれしそうに芋を掲げているのはミリーちゃんだ。
サルタナさんは掘り出された芋を興味深げに眺めている。
そう、ここはドワーフ村の芋畑なのである。
あの蛸髭魔王との決戦から早数ヶ月、南方から持ち帰ったアヌームを植えた畑の初の収穫なのだ。
「まさか環境でここまで生育に差が出るとは……アヌームはまだまだ研究しがいのある作物かもしれんの」
「
「ボクが高町さんのセーラー服以上のものを作ってみせますよ!」
刷毛で丁寧に芋を掘り出し、芋の観察をしているのはプランツ教授だ。ルーペを取り出して芋から伸びたひげ根をチェックしている。それで何がわかるのか……専門家の見るポイントは素人にはまったくわからん。
その隣で地上の蔓を引っ張って強度を確かめているのがガンダリオン先生とリッテちゃんだ。掘り出すときにも思ったけど、たしかにアヌームの蔓は地球の芋類と比べて圧倒的に強靭だ。そのままロープに使えそうなくらい丈夫である。
「ふふふ、芋掘りなんて何年ぶりですかね」
「……幼稚園のとき、やった」
畑の端の方で芋を引っ張っているのはメガネちゃんとメカクレちゃんだ。
南方での大決戦で大勢に姿を見せてしまったので、もう開き直ってメガネチャンダイオーで世界中を飛び回って観光をしているらしい。
遠く学術都市からリッテちゃんたちを連れてきてくれたのはこの二人だ。
普通に行けば1ヶ月以上の道のりなのに、メガネチャンダイオーなら1日とかからないのだからとんでもないチートである。
私もそういう強力なチートで無双プレイがしたかった……。
「おら、はよせい。みんなが掘ったもんがたまっとるやろ」
「うぇぇぇ……私だってお芋掘りしてみたい……」
「遊びで来てるんとちゃうんや。きりきり働かんかい!」
「ひぃっ!? よくわからないイモムシみたいの近づけないで!?」
背中に籠を背負ってみんなが掘った芋を集めているのは女神モドキだ。
監督しているのはメルカト様である。麓の町から分体でやってきてくれている。
芋畑の真ん中でアラブ風王子様が手にイモムシを持って女性を脅して働かせているのは率直に言って笑える光景だ。
女神モドキにはこのまま千年くらい芋畑で働いてもらいたい。
「これだけの豊作となるとはのう。まさかこの
「まったくだな、オババ。まったく、嬢ちゃんはよくやってくれたぜ」
「ほほほ、ミリーも褒めてやらんとな」
「……そうだな。これも地の声を語り継ぐ氏族の血なのか……」
「何を深刻ぶっておる。お主も若いころは外の世界に憧れておったろうが」
作業中の警備をしているのはローガンさん率いるドワーフの男たちだ。
これだけの戦力が集まっているところに岩ゴブリンが襲ってきたところで、カモもいいところなのだが。
ローガンさんの隣で雑談をしているのはオババ様である。
見た目は完全に女子高生なのだが……その歳で肉体労働は辛いということで見学に回っている。
理屈ではわかっているのだが、感情では理解が追いつかない。
ドワーフ……男はヒゲモジャなのに女は合法ロリ巨乳だし、おまけに有袋類だし……この世界の生態は本当によくわからん。
アヌームは交易をメインに考えた作物なので、ドワーフ村と麓の町とのおおよそ中間ぐらいに畑を作っている。
このあたりなら重力も街とほぼ変わらないし、誰でも来られるということで将来の行商人の行き来などを見越した立地なのだ。
「うぉぉぉおおお!! 百烈、芋掘り拳!!!!」
「やめろぉぉぉおおお!!」
何がきっかけでそんな暴挙に出たのか、突如猛烈な勢いで芋を掘り返しはじめた熱血イケメンを飛び蹴りで止める。
王国軍に就職したはずのこいつがなぜここにいるかといえば……蛸髭を倒した後にさっさとやめてしまったらしい。
なんでも魔王は世界中に存在しており、あのジャスティスファルコン号なるものに乗って魔王退治の旅をしているそうなのだ。
自分一人では太刀打ちできない相手には、メガネチャンダイオーの援軍も頼んでいるらしい。
個人的な興味は非常に薄いが、世界人類のためになる活動であることは否定できないだろう。引き続き頑張ってくれたまえ。
ふぁーあ、それにしてもわけのわからない日々だった。
突然セーラー服で異世界に放り込まれたと思ったら、怪物に襲われるわ怪物に襲われるわ怪物に襲われるわ……あれ? だいたい怪物に襲われてない?
ともあれ、てんやわんやであった。
ドワーフ村大不況の危機も落ち着いたし、しばらくゆっくりさせてもらおう。
なんてことを考えていると、セーラー服君が口を開く。
「ご主人、そろそろ学習していただきたいのですが」
あー、はいはい。もうね、言いたいことはだいたいわかるよ。付き合いもだいぶ長くなってきたしね。
「我々の使命は、多くの子孫を残すか瘴気領域の主を駆除すること。この村の食糧事情も安定しそうですし、カガ氏、あるいは天王寺ヒロト氏と繁殖を……」
ああーーーー!! わかったよ! わかった! わかったからさ!
大人しく瘴気領域の主とやらを退治しに行けばいいんだろぉぉぉおおお!?
「ご主人のものわかりがよくなって小生は非常にうれしく思います」
うれしいとか、そんな感情こいつにもあるんかい。
まあ、そんなわけで、これからもこの奇妙なセーラー服との旅は続くようである。
(了)
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