第四十八話 5人麻雀大会・イン・異世界・イン・スーパー銭湯
※前書き:変則麻雀のルールが出てきますが、おぼえる必要はないです。
「ロンです!」
「ごめんなさい、ロン」
「ロンでございます」
「……ロン」
「ふぁっ!?」
セーラー服を着たまま、お風呂に浸かりつつ4人同時ロンというおそらく全異世界を総合しても一人として味わったことがないであろう体験をしているのがわたしこと、高町みさき満三十歳である。この世界では天が灰色に染まる時に一斉に歳を取る数え年制がメジャーなようであるが、わたしは地球人であり日本人である。つまり、誕生日までは歳を取らない。三十一歳まではまだ数ヶ月の余裕があるはずだ。繰り返すがあるはずなのだ。念のためもう一度言っておくと、わたしはまだ満三十歳である。
スーパー銭湯に案内されたわたしたちが手にしているのは耐水性のマージャンカードだ。通常、麻雀といえば親指程度の大きさの小さな牌を使って行われる遊戯なのだが、マージャン卓を用意できない環境でも遊べるように、牌をトランプのカードのように仕立てたものが市販されていたのである。
どうしてこんなことになったかと言うと、原因はメカクレちゃんである。どうしてもマージャンで遊びたかったのか、遅れてやってきたかと思うとこの耐水性マージャンカードを持ち出したのだ。おもちゃ屋さんだか雑貨屋さんだかから持ってきたらしい。そんなにまでしてマージャンがやりたかったんかい……。
そんなわけで、まずはメカクレちゃんとメガネちゃん、そしてわたしの3人でお風呂に浸かったままの3人マージャンというエクストリーム・スポーツがはじまったわけなのだが、それを興味津々に見守っていたのがミリーちゃんとサルタナさんである。
「せっかくだから、みんなで遊びませんか?」
「……うん」
というメガネちゃんの一声に同意したメカクレちゃんは、初心者込みの5人でも遊べる変則ルールを即興で考え出した。まず、手牌は通常12牌であるが、これを4牌とする。これは通称4枚マージャンと言われるもので、マージャン初心者向けに基本ルールを教える時に実際にプレイされているものである。
そして、フリテンやドラなどのややこしいルールはなし。捨て牌もきれいに並べたりはせず、卓の真ん中にババ抜きのように適当に捨てていく。これは中国式マージャンと同じだ。マージャン発祥の地は中国のはずなのに、日本やアメリカで魔改造されたルールがいまやメジャーとなっているのは面白いところだ。
ちなみに、卓になっているのは湯船に浮いたドラム缶ロボの頭である。防水性ばっちりか。
手役にも大幅な変更を加えた。存在するのはピンフ、タンヤオ、チャンタのみ。そして字牌はすべて役牌扱いである。上がり点数にも差はつけず、とにかく上がれば1点。鳴きはポンのみでチーはなし。たしかに、このルールでチーがOKなら速攻で終わり過ぎてしまって面白みがない。ほどよい調整と言えるだろう。
これくらいルールを単純化すれば、初心者でもすぐに飲み込める。そんなわけで超変則5人麻雀大会・イン・異世界・イン・スーパー銭湯が開催された次第である。カオスすぎてもはやわけがわからない。だが、新しい遊びというのは人間を興奮させるようで、すっかり白熱してしまっていた。
「ロンです!」
「ごめんなさい、ロン」
「ロンでございます」
「……ロン」
「ふぁあっ?!」
そんなことを考えながら切り出した
「みさきさん、背中が
と言ったのはミリーちゃん。これは決して某名作マージャン漫画のセリフではなく、ドワーフ的慣用句だ。炉に背を向けて煤がついてしまう様子から、「集中力が欠けてるよ」と注意する言葉なのである。しかし、前髪をかきあげながらそのセリフを放つミリーちゃんは丸っきり某名作マージャン漫画の主人公だ。ひょっとして元ネタ知ってたりしない?
それぞれ10点持ちスタートで、誰かが
次の手牌を引く。シャッフルした牌山ならぬカード山から4枚を引く。来いよ……絶対字牌来いよ……
願いを込めながら配牌を見ると、うへへ、
ひとりざわざわした気分になりながら
虎視眈々と捨牌をにらんでいると、無造作に
「ポォォォオオオン!」
気合一閃。メカクレちゃんの捨てた
あとは単騎選択(※上がれる牌が1枚だけになるときに、どちらを選ぶか決めること)だ。端牌の
「ロンです!」
「ごめんなさい、ロン」
「ロンでございます」
「……ロン」
「ふぁぁぁあああーーーー!!」
そんなわけで、わたしの
わたしの持ち点がなくなったので、麻雀大会はこれにてお開きである。最終的な順位は以下の通りだ。
・1位:ミリーちゃん 18点
・同点2位:メカクレちゃん、サルタナさん 12点
・4位:メガネちゃん 10点
・5位:高町みさき -2点
いかに運ゲーだったとはいえ、ルールを覚えたばかりの素人にここまでやられるとは……こっちの世界にやってきてから一番悔しい思いをしている気がする。つか、完全にわたしの一人負けじゃねーか。
「それで、みさき様へのお願いはどうされるのでございますか?」
「うーん……そうですねえ」
ミリーちゃんが考えているのは罰ゲーム的なアレだ。1位は最下位に対してお願い事をひとつできることになっている。「常識的な範囲で」みたいな条件はいちいち付けていないが、そんなことは言わなくてもまともな人間ならわかっていることだろう。
「じゃあ、お料理! お料理作ってください! ひさしぶりにみさきさんの手料理が食べたいです!」
「かねがね伺っていた料理の聖女様の腕前をいよいよ味わえるのでございますね」
おおう、料理か……。ぜんぜんかまわないし、しばらくぶりに何か作りたい気はするけど、厨房設備とかはあるんだろうか? つか、サルタナさんの期待値が高まりすぎてるのがちょっと重いぞ。
「キッチンならフードコートや飲食店にあるものを使って大丈夫ですよ。食材もお店にあるものは自由に使ってください」
さすがは商店街殲滅型巨大ショッピングセンターである。設備も食材もばっちりなようだ。こうなると、逆に作るものに悩むな。無限の自由とは、無限の迷いと同義なのである。
罰ゲームの内容が決まったところで、わたしたちはざばりと浴槽から立ち上がった。お、いよいよお風呂回らしいお色気シーン来るか? 謎の光で大事なところが隠されちゃうアレが来るのか……?
……とでも思ったか。ざんねーん。全員水着着用でしたー。こっちでは着衣入浴が普通なので、メガネちゃんがちゃんと用意してくれてたんですー。残念無念またらーいしゅー!
そんなこんなで、5人麻雀大会・イン・異世界・イン・スーパー銭湯は無事に閉幕し、グルメ回に続くのである。
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