第四十七話 脳の形と記憶を丸ごとアインシュタインと同じものに

 セーラー服を着ているのは決して趣味じゃないということを、異世界転移の顛末てんまつ手短てみじかに……っていうか手短にしか話せんわ。大した内容がない。一方的にセーラー服チートと無茶苦茶な使命を押し付けられただけで、質疑応答もろくにできなかった。


「私たちの時とはぜんぜん違いますね……。私たちの場合は、一応質問には答えてくれたし、チートも希望のものがなんでももらえました」

「……なんか雑だった。アインシュタインとか」


 おい、マジでわたしとぜんぜん待遇が違うな。っていうかアインシュタイン?


「天才にして欲しいって言った子が、脳の形と記憶を丸ごとアインシュタインと同じものにされたんです」


 は? それじゃアインシュタインが転生したのと同じことじゃない!?


「魂が違うから、別物になるって言ってましたね。正直、ピンときませんけど」

「……メガネちゃんがわからないことは、あたしもわからない」


 魂か……急に哲学? 神学? 的な話題が来たな。もちろんわたしにもさっぱりわからない。


「それで、メガネちゃんかメカクレちゃんがもらったチートが、この……ショッピングセンターってこと?」

「はい、のんびり本を読んで暮らしたいな、と思って」

「……あたしはメガネちゃんに着いてきただけ」


 そう、ずいぶん引っ張ったが、わたしたちがいるのはショッピングセンターの一角にある喫茶店だったのだ。「セーラー服なんで?」の後、目の前の特撮ロボットががしょんがしょんと音を立てて変形し、そこに現れたのがショッピングセンターだった。そしてやってきたドラム缶ロボに喫茶店まで案内されたのである。


 地方都市では地元商店街キラーとして恐れられることもあれば、老若男女に愛されるテーマパーク的存在にもなるショッピングセンターだ。そういえば、思い返すと特撮ロボットの胸のあたりに施設名を表すロゴの看板がついていた。


 他にも全身のあちこちに看板のようなものがあったので、冷静に観察すればあのロボが商店の集合体でできていることに気がつけたかもしれない。まあ、あの状況で冷静になれる人がいたらお目にかかってみたいが。


「まだまだ情報交換をしたいところですが……キリがないので、一旦お風呂にしますか?」

「……血まみれセーラー服、サイコ感すごい」


 つい話に夢中になってしまったが、改めて自分たちの姿を見るとひどいものだ。血まみれセーラー服のわたしは言うまでもなく、ミリーちゃんもサルタナさんも砂まみれの泥まみれである。


「あと、言葉が通じないと大変ですよね」


 メガネちゃんが先ほどから黙って未知の言語を聞いているミリーちゃんとサルタナさんを見る。すまん、正直話に夢中になっていて気が回らなかった……。いつかなんらかの形で補填することを心中で誓う。


 とりあえずセーラー服のスカーフをちょんちょんとつまんでみるが、やはり反応がない。再起動まではまだまだ時間がかかるようだ。


「そのセーラー服で翻訳してたんですよね? それが使えるようになるまでは、これを使ってください」


 と言ってメガネちゃんが差し出してきたものはミニチュアのドラム缶ロボだった。イヤリングとペンダントのようなもののセットだ。


「これを付けると、こっちの言葉をぜんぶ翻訳できるんです」


 ほほう、そんな便利グッズが。こんなもの日本のショッピングセンターじゃ絶対に手に入らないぞ。っていうか、大きい方のドラム缶ロボも現代日本の技術水準で作れるようなものじゃないと思う。チートショッピングセンターに付いてきたオプションなんだろうか。


「あの女神? でいいんですかね? すごくいい加減そうだったので、欲しいチートの内容をぜんぶ紙に書いて渡したんです」

「……うん、超いい加減だった」


 うわー、すっごい共感する。わたしも強制でなかったら、あんな女神モドキの言うことを聞いて異世界転移なんて絶対しなかった。


「ミリーちゃん、サルタナさん、これでわかる?」

「はい! わかります!」

「おお、翻訳の魔道具でございますね。そんなものまで用意があるとは……」


 借りたイヤリングとペンダントを付けて話すとしっかり話が通じた。セーラー服君が自動翻訳しているときとまったく差を感じない。ベースの機能は同じってことなんだろうか?


「このお二人はみさき様のご同郷なのでございましょうか?」

「あー、うん。だいたいそんなかんじ。知り合いではなかったけど」


 三人ともセーラー服を着て未知の言語で会話をしているのだ。当然そういう推測になる。


「このような……大宮殿? 大神殿? にお住まいの方の同郷であったとは……」

「さすがはみさきさんですね!」


 二人とも、わたしのことは地球という地方の日本という街から来たと思っている。異世界転移、なんて概念が通じるかわからないし、いまさら説明をするのもたいへんだ。わたしが地球出身であることを隠している可能性だってある。諸々もろもろを汲んで、メガネちゃんたちはこれまで日本語の会話に徹してくれていたのだろう。


「同郷の人間は珍しいので、つい話し込んでしまってごめんなさい。ようこそ、我が大神殿へ」

「……ようこそ」


 大神殿というサルタナさんの言葉を否定することなく受け入れるメガネちゃん。なんだか対応が手慣れている気がする。


「二人だけの暮らしではどうしてもマンネリになりますから。旅人は歓迎しているんですよ」

「……あたしはメガネちゃんだけでもいいけど」

「変化があっていいじゃない。二人だけじゃできないゲームとかもあるしさ」

「……うん。マージャンやりたい」

「それは……できるかなあ」


 マージャンとはずいぶん渋い趣味の女子高生だ。と言いつつわたしもネトゲでおぼえたから打てるけど……ミリーちゃんとサルタナさんが打てるはずもないし、短時間でルールを把握できるゲームでもない。


「……サンマでもいい」


 サンマ……って三人マージャンか。すごいマージャンにこだわるな。そんなに好きなら付き合った方がよさそうだ。故意ではなかったにせよ、命の恩人なのだ。連対率ぴったり50%のわたしのごく普通の腕前を見せてやろう。なお、連対率とは四人マージャンで1位か2位になる確率のことだ。これが高ければ高いほどマージャンでは勝ち組になる。


「えっと、マージャンは一旦置いておいて、先にお風呂に案内しよっか?」

「……うん」


 メガネちゃんとメカクレちゃんが席を立ったので、わたしたちもその後を追いかけた。

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