第四十三話 グロさを増すための飾りじゃなかったってわけか
「ご主人、来ます。真下です」
「くっそ! これで何回目よ!」
ミリーちゃんとサルタナさんを抱えたわたしが飛び退くと、先ほどまで立っていた地面が吹き飛び、中からあのデカブツが現れる。全身が宙に飛び上がるほどの勢いで現れたそれは、そのまま弧を描いて再び地面へと潜り込んでいく。
そう、デカブツが取った戦法は地上での殴り合いを避け、徹底的に地中からの攻撃をするというものだった。ミリーちゃんやサルタナさんを狙われた場合、
「でも、こんなのがいつまでも続けられたら……」
正直、すでに結構きつい。息が上がりはじめているし、全身が汗まみれだ。動ける体力が残っているうちにセーラー鎧モードを解禁して一気に勝負をかけるべきだろうか。
「次、試してみます!」
わたしが悩んでいるうちに、ミリーちゃんが何か思いついたようだ。
「来ます、真下です」
一拍置いてセーラー服の警告。再び跳び退き、地面が爆発する。怪物が地中に消える前に、ミリーちゃんが叫んだ。
「地霊様! お願いします!」
デカブツが飛び込もうとしている先の地面がカッと光を放つ。おお、本気モードだとエフェクトが付くのか! デカブツがそこに
いまがチャンスとばかりに二人を放し、デカブツに向かって一直線に駆け出す。なんとか眉間に一撃を叩き込めればきっとなんとかなる……と思いたい。だが悩んだところでしかたがない。現状を切り抜けられる可能性があるのはそれだけだ。接近するわたしに気づいたデカブツがしっぽを振るう。リスク覚悟で前方に跳躍して回避。デカブツの頭へと飛びかかる。それを叩き落とそうとデカブツが右腕を振り回す。迫りくるそれに戦鎚を叩きつけて上方に方向転換。わたしは怪物の頭上に舞い上がった。
「これでッ! くたばれぇぇぇえええ!!」
気合と共に渾身の力を込めて戦鎚を振り下ろす。狙う先はもちろん眉間だ。いやいやをするようにデカブツが顔を振る。くそっ、これじゃ当たらないどころか――
「ぐあっ!」
デカブツの豚鼻に弾き飛ばされる。大丈夫。ブロックは間に合った。ダメージは浅い。空中で姿勢を立て直して着地。デカブツを見るともう上半身が地面に潜っている。くそっ、間に合わなかった。
急いでミリーちゃんたちの元に戻る。離れている間に襲われてしまったら対処のしようがない。
「ごめん! 仕留められなかった!」
「すみません、術が破られてしまいました……」
ミリーちゃんが額に汗を浮かべて肩で息をしている。魔法の行使は規模に見合った体力が必要なようだ。少し休ませないと、先ほどと同じことをするのも厳しいだろう。
「先ほどのことで警戒心を増したようですね。諦めた様子はありませんが、少し離れた地中で様子をうかがっているようです」
よかった。それなら多少は時間が稼げそうだ。ほんの少しの安堵をしていると、サルタナさんが口を開いた。
「ミリー様、術で大地を細かな砂へ変えることは可能でございますか?」
「できます。固めるよりも簡単ですけど……」
砂にしてしまったら、あのデカブツはもっと容易に地中に隠れやすくなってしまうのではないだろうか。
「みさき様、一瞬でも動きを封じれば勝算はございますか?」
「わから……いや、なんとかする」
一瞬弱気なことを口にしかけてしまった。無理だと思ったらできることもできなくなる。やつは眉間をぶち抜けば倒せる。一瞬でも動きが止まれば十分だ。そう自分に言い聞かせる。
「このままではジリ貧は目に見えておりますからね。わたくしも策をひとつ思いついた次第にございます」
サルタナさんが
サルタナさんが水霊に祈りを捧げ、周辺に大量の水を撒きはじめる。ミリーちゃんが砂状に変えた地面はよく水を吸ったが、後から後から足される水に、辺りはついに
「ご主人。怪物が動きはじめました。これまでよりも速いです」
思わぬ反撃を受けて対策したのだろう。より素早く動いて地上にいる時間を最小限にし、反撃をされにくくするつもりなのだ。やつは馬鹿じゃない。学習してる。今回の
「ご主人、来ます」
二人を抱えて泥濘地帯から一気に飛び出す。背後で地面が爆発する。土が水分を含んだために、土煙の量は少ない。
「水霊様っ!」
まだ空中にいるうちにサルタナさんが水霊へ祈りを捧げる。泥濘と化していた地面が、まるで生きた蛇のように動いてデカブツの全身に絡みついている。だか力も強度もないようで、宙に飛び出したデカブツの動きはほとんど鈍っていない。
「地霊様!」
着地と同時にミリーちゃんが叫ぶ。蛇のように動いていた泥がびしりと固まる。空中で姿勢の自由を失ったデカブツが地面に墜落する。
そう、サルタナさんの
「セーフティ解除!」
セーラー服が光とともに弾け、光の粒子となり、わたしの全身を包む。白銀の光を放つ額のティアラ、二の腕から先を覆う手甲、セーラー服を思わせるデザインの胴鎧にそこから伸びるスカート状の装甲。膝から足先までを覆う脚甲。これで二度目のお披露目となるセーラー鎧だ!
闘争心で視界が真っ赤に染まる。腹の奥から熱いものが込み上げてくる。血が沸き立つ。地面を蹴る。これまでとは比較にならない速度で景色が流れ、無数の線へと変わる。黒い戦鎚を片手に持ち替え、背中のミスリル銀の戦鎚を右手で抜く。倒れたデカブツの身体に駆け上がる。足に何かが絡みついた。触手? くそっ、あれはグロさを増すための飾りじゃなかったってわけか。だが関係ない。力任せでぶっちぎる。そして動けないデカブツの顔の上で仁王立ちになり、ミスリル銀の戦鎚を力の限り眉間に向かって振り下ろす。硬いものを砕く感触。明らかに違う手応え。続けざまに黒い戦鎚を振り下ろす。ここで仕留められなければ後がない。銀の戦鎚を振り下ろす。黒い戦鎚を振り下ろす。デカブツの皮膚が破れ、血が吹き出す。全身に返り血を浴びるが気にしている場合じゃない。銀の戦鎚を振り下ろす。黒い戦鎚を振り下ろす。銀、黒、銀、黒、銀、黒。両手の戦鎚を雨あられとばかりに叩き込む。
「ご主人、エネルギー切れです。おやすみなさい」
セーラー服の声とともに、戦鎚の雨は止んだ。
-- あとがき --
「なんでミスリル戦鎚一本を両手で使わなかったの? そっちの方が威力ありそうじゃん」と思った方、はい、わたしも最初はそう思いました。画にもなりますし。
ただ、クソ重たいミスリル戦鎚を上下に振り回すと……主人公の体重だと身体が浮いてしまって力が逃げてしまうんですね(´・ω・`)
そのため、左右の戦鎚を交互に振り上げ、振り下ろすことでカウンターウェイトにしました。絵面としては、お祭りで和太鼓を連打する人みたいになってます。
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