第二十六話 リザードマンも繁殖効率が良いと予想されます
「西の皇都が緑の魔王に滅ぼされてから、交易都市との行き来もすっかり絶えてしまっております。武勇名高き
「願ったり、と言いたいところだが、そいつは無理な相談だな。おれたちは
ってか、いま魔王って言った? また瘴気領域の主的なやつなのかな?
わたしの表情にハテナマークが浮かんでいるのを察したのか、サルタナさんが補足してくれた。
「皇族の一人が魔に魅入られ、皇都の住民のほとんどを野菜に変えて喰らってしまった……と伝え聞いております。それが緑色の野菜だったため、緑の魔王、と」
なんやねんそれ。草食なのか肉食なのかさっぱりわからん魔王だな。つか、人間を野菜に変える魔法? なのかな。ニッチなくせに凶悪すぎるぞ。
「このあたりの主要な街道はすべて皇都を通っていたため、未だ西の交易都市とをつなぐ新たな交易路が見い出されていないのです。旅人などから情報は集めておりますが、いずれも狭い間道ばかりで、とても隊商を引き連れて通れるようなものではないのです」
そして、「皇都の北にある瘴気領域を安全に抜けることさえできれば、交易も再開できるでしょうに」と悔しそうに付け加える。なるほど、それでローガンさんたちに護衛の依頼をしたかったのか。
「冒険者には頼めねえのか?」
「並の冒険者ではとてもとても。熟練者でも瘴気領域を突っ切るとは聞いて尻込みするばかり。乗り気になるのは誰も彼も己の実力を弁えない未熟者……という次第でして。まずは少数の調査隊を送ろうと考えてはいるのですが、手札が揃わないのです」
おお、冒険者。ドワーフ村の会議でも耳にしたけれど、そんなファンタジー味あふれる職業が存在するのか。やっぱりゴブリンを退治したり、ドラゴンの巣にある秘宝を持ち帰ったり、お姫様を救うついでに世界も救っちゃう、みたいなやつなんだろうか。
「護衛がご入用でしたら、我が主人を推薦いたしましょう。先だって屈強のドワーフ戦士たちが苦戦した、
あれ? セーラー服君、何言っちゃってるの? しかもそれ色々盛ってない?
「実は我が主人は婿探しと共に、瘴気領域の主を倒すことを目的とした旅をしておりまして。
しれっと婿探しとか言うんじゃない。っていうか、都合良くない。わたしは切羽詰まるまでセーラー服君を誤魔化しつつ、安全域で過ごしたい
「この女性が……いや、しかしとても……」
サルタナさんが怪訝な顔でわたしを見る。心情をアテレコするなら、「このちんちくりんが? ちょっとちょっと、冗談はよしこちゃんよ」という感じだろう。わたしもまったく同意である。わたしは荒事とは無縁な料理とアニメが好きなだけの三十路OLなのだ。
「サルタナさんよ、嬢ちゃんを舐めてくれるな。こう見えて嬢ちゃんは、本気でやりあえばおれでもかなわん
あっ、ローガンさんが若干不機嫌そうに言い返してしまった。わたしが侮られたと思って間に入ってくれたのだろう。その気持ちはうれしいが、いまはありがたくない。すごくありがたくない。
「ローガン様のお墨付きとあれば疑う余地もありませんが……瘴気領域の探索となれば我々とて命懸け。無礼を承知で、ひとつ試しをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ご懸念はごもっとも。我が主人も大いに腕が鳴っているようです」
ちゃうちゃう。めっちゃ首を横に振ってるから。しかし、サルタナさんはわたしの様子を見てうなずいた。ちょちょちょ、なんでそこで納得しちゃうのさ。もしかして、このへんって首を横に振るのが肯定の意を表す風習だったりするわけ!?
セーラー服君が骨伝導を使い、わたしにだけ伝わる小声で言ってきた。
「ご主人の動作を光学処理によって自信ありげに頷いて見えるよう上書きしました。本来の動作と大きく異る映像を作り出すのはエネルギー消費が激しいのでなるべく避けたくはありますが、この機会を逃す手はありませんので」
ファック! ファック! ファーーーーック! その隙あらばわたしを危険に送り込もうとするスタイルやめてくれませんかね!?
「であれば、やはり異性誘引フェロモンを。リザードマンも繁殖効率が良いと予想されますので、おすすめですよ」
はい、ごめんなさい。いまのナシ。ボスモンスターを倒す方向でがんばりますです。
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