第二十一話 女子はいくつになっても恋バナが好きなんですね
──そのとき、事件は起こった──
「このカガは、その平らかな胸に包まれて眠りたい! 我が槌をその平らかな胸に捧げることを、料理の聖女にして災厄を打ち払いし偉大な武人たる貴女にどうか許していただきたい! 我は
初戦闘訓練後の宴会で、カガさんというヒゲモジャさんが詰め寄ってきた。周りのドワーフたちが「うおおおーーー!」と盛り上がっている。なんすかねこれ。ちょっと圧が強いんですけど。
「婚姻の申し出じゃな。まさか男衆と交じってから雷鳴をいくつも数えんうちにとは、わしの若い頃にも負けんわい」
女子高生Lカップアイドルみたいなオババ様の若い頃とか言われてもよくわからんですたい。っていうか、婚姻の申し出?
オババ様によると、先ほどのカガさんの宣言は
急に地霊の試しとか言われてもわからん。っていうか君誰よ? わたしはまだローガンさん以外のドワーフ男性の見分けがよくつかんぞ。
「あっ……すみません、あの、ぼくは陶器職人の徒弟をやってまして……。次の灰色の空の刻でちょうど40歳になります。ひと目見たときから、みさきさん、貴女のことを愛してました!」
あっばー。あばば、あば。今度はどストレートな告白で攻めてきやがった。えっ、まっ、はっ? そういうの慣れてないんですけど、やめてほしいんですけど。カガさんを見返すと……ヒゲモジャの奥の顔はすっきり細面なアイドル系男子にも見えなくもない。体つきも他のドワーフ男性と比べると比較的スマートで、樽マッチョならぬゴリマッチョ止まりだ。これならアリか……いやいや、そうじゃない。脳がバグってるぞわたし。見た目だけで結婚を相手を選ぶなんて最低だ。もっとお互いのことを知ってから……いやそうじゃなくて。あれ、カガさんどこ見てるの? こういうときは相手の目を見つめるものじゃない? 明らかにあなたの視線はちょっと低くてさ。完全に胸のあたりに視線を感じるんですけれども。
頭の上に、ピコーンと豆電球が灯る。
あっ、こいつ貧乳フェチだ。
沸騰しかかっていた脳みそが急速に冷える。あれだ。こいつはアレだ。貧乳は希少価値だとか叫ぶ人種だ。微乳は美乳だとか拳を握って熱く語るタイプだ。地球時代の会社の後輩君にもいたぞ。たしかにこの合法ロリ巨乳の村では貧乳は希少価値であろう。君の趣味嗜好についても別に文句はない。内心の自由は日本国憲法においても保証されている。ここ日本じゃないけど。しかしだな、君、プロポーズのときに相手の身体の一部位しか見つめないとかはさすがにないんじゃないかなぁぁぁあああ???
そういえば、こいつの声には聞き覚えがあるぞ。そうだ、この前の宴会のときにバストサイズを聞いてきたやつとたしか同じだ。手近にぶん殴るのにちょうどよい鈍器がないのが悔やまれる。そしてお前はアレか、逆おっぱい星人と言うやつか。貴様は一切の起伏がない真球の惑星から転移してきた手合いだな!?
思考が暴走している間に目の前にジョッキがどごんどごんと並べられていく。酒壺が大量に運ばれてきた。あれ、何がはじまるんですか、これ?
「地霊の試しはしばらくぶりじゃのう……実にめでたいことじゃ。ほれ、他にも地霊の試しに挑む者どもはおらんのか!
オババ様が周囲に向かって声を張り上げる。「せっかくだから、おれも」「酔いつぶれても文句言われないしなあ」「いやー、ひさびさだな。喉が鳴るぜ!」とか言いながら数人の男たちが周囲の椅子に座る。えっ、なんすかこれ。気がつけば周囲に人垣が出来ている。人垣の中に見えたローガンさんに「へるぷみー」って視線を送ると、「よかったな、嬢ちゃん」って感じの微笑みを返された。ちがうそうじゃない。
「客人よ、地霊の試しというのは要するに飲み比べじゃ。男は強い火酒で、女はエンペールじゃからの。嫌なら負けるようなことはそうそうない。だがあのカガが気に入ったなら、遠慮せず負けていいのだからな」
にひぃ、と笑うオババ様。女子はいくつになっても恋バナが好きなんですね。いやそうじゃなくて。
くっそ! なんなんだこの状況は。これドワーフの村に嫁入りしないと納得されない空気になりかけていませんかね? すべてはあれか、セーラー服君の陰謀なんじゃないか!?
「いえ、ご主人。そのようになればよいと検討したことは否定しませんが、根本的にはご主人が曖昧な態度ではっきりと意見を主張しないことが原因かと。もっとはっきり言えば、押しに弱く状況に流されやすいためです」
ファーーーック! 正論で返すんじゃねえ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます