第九話 これを捨てていたなんて、とんでもない!
炙る前の生の
ナイフと中華包丁もどきを借り、鶏もも肉から骨を外す行程に入る。鶏肉を解体している動画を見たことはあるが、実践したことはないし内容もうろおぼえだ。だが、今回はチキンソテーを作ろうというわけでないので形にこだわる必要はない。
というわけで、まず中華包丁で関節部分をドカンと切り離し、ナイフでギコギコと骨から肉を剥ぎ取っていく。ふむ、多少手間取ったけれど案外キレイにできた。プチハーピーというやつは地球の鶏よりも身離れがいいのかもしれない。
解体したお肉は一口大のぶつ切りにし、軽く塩を振る。できれば炒めて焼き目をつけたいが……フライパン的な調理器具が見当たらない。炒めるという文化がないんだろうか? 炙り肉の脂を受けていた
お肉の準備ができたら次は脂だ。焼き場の準裸エプロンさんから新しく溜まった脂をもらい、小壺に移す。ふーむ、芳醇なる肉汁の香り。これを捨てていたなんて、とんでもない!
小壺に移した脂に、唐辛子とニンニクっぽい香辛料と塩を入れてよく混ぜる。他にも試してみたい香辛料がたくさんあったが、ただでさえアレンジレシピなのだ。あまり冒険をするのはやめておこう。
小壺の中にやはり一口大にむしった張り付き茸とぶつ切りにした鶏肉を加えて軽く混ぜたら下準備は終了だ。再び準裸エプロンさんの元へ行き、小壺を赤熱する砂利の隣に置かせてもらう。これで脂が沸騰したら完成の見込み。って、そこまで熱々になったら素手じゃつかめないな。キッチングローブ的なものはあるんだろうか?
火元から少し離れて観察すること数分。さっそく脂がふつふつと沸いてきた。すごい火力だ。ミリーちゃんがポンチョの中から取り出してくれた革手袋をはめ、小壺を火元から離す。ドワーフ的に皮手袋は標準装備なんだろうか? さらに鶏を炙るのに使っていた鉄串を借り、壺の中に突き刺して鶏肉を一欠取り出して頬張る。
ふほほ、熱々だ。うん、しっかり芯まで火が通ってる。塩加減も我ながら完璧だ。本来はオリーブオイルを使うけれど、同じ肉から出た脂を使ったことで鶏感がマシマシになっている。茸の方もすばらしい。あっさりした味わいだった茸が鶏肉の旨味を吸って主役を張れる立派な一品となっている。
うん、これはアレだね。ワインが欲しくなるアレだね。なんちゃってレシピではあるけれど、これはもうアレが再現できたって言ってよいのではないかな?
というわけで、「プチハーピーと張り付き茸のなんちゃってアヒージョ ~
ミリーちゃんがめっちゃガン見してくる。いやこれはつまみ食いじゃなくてね、味見なんですよ味見。味見しないのはメシマズの第一歩ですよ? これは料理人がよりよい味をお客様に提供するためには欠かせない調理の一工程なんですからね?
できれば女子会のテーブルでみんな一斉に味わってほしかったが、目をうるうるさせながらこちらを見つめるミリーちゃんの眼力に負けて、鶏肉を一欠片差し出す。親鳥から差し出されたエサをついばむ小鳥のように、ミリーちゃんがパクり。
「んんんん~~~~!!!!」
ミリーちゃんがまさしく小鳥のように両手をバタバタとさせながら、わたしに何かを訴えかけている。だいじょうぶ? 熱かった? 口やけどしてない?
「すっごい! すっっっごいです、これ! こんなの食べたことない!!」
頬を紅潮させ、「すっごい! しゅっごい! しゅごいのぉぉおおお!」を繰り返すミリーちゃん。そのたびに重厚かつ柔軟な胸部装甲が上下に揺れるミリーちゃん。ちょっと君、単体で事案になるやつだからやめたまえ。中学生Kカップアイドルのいかがわしい動画みたいなことになってるぞ。
ミリーちゃんの騒ぎを聞きつけて、調理場にいたドワーフたちが集まってくる。ここで味見を断れるほどわたしは豪胆ではない。鉄串に具材を刺し、合法ロリたちとヒゲモジャたちに交互に与えていく。そして食べた者から順にバタバタと鳥になる。どういう光景だこれ?
あっという間に壺の中身がなくなり、女子会に持っていく分がなくなってしまった。追加を作らねば。そしてみんなが残念そうに空になった壺を見ている。ちょ、この勢いで食べられたらわたし一人じゃいくらがんばって作っても追いつかないぞ。つーかみんな手に鉄串をかまえてるし。怖いし。わたしを刺してもアヒージョは出てこないぞ!?
そこでわたしの脳髄に電流が走る。飢えた人間には魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるのだ!
「あの、よかったら作り方を教えますので、広場のみなさんも一緒に食べられるように作りませんか?」
「「「おおおーーー!」」」
ドワーフたちが一斉に顔を輝かせ、右手の鉄串を天に向かって突き上げた。これなんすかね、出陣式とかそういう系ですかね。
そのあとめちゃくちゃアヒージョ作った。
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