第八話 薄手の肌着に前掛けをした準裸エプロンスタイル

 首がもげるんじゃないかって勢いで頷いてくれたミリーちゃんに速攻で調理場に案内された。調理場は大広間の横を掘って設置されており、調理中の煙や匂いが広間に流れないよう工夫されているようだ。調理場で働いていたのは十人足らずでヒゲモジャと合法ロリが半々。男子厨房に入るべからず的な価値観ではないようだ。


 ミリーちゃんが調理場のボスっぽいロリっ娘に許可を取ってくれたので、さっそく食材のチェックに入る。鶏ももプチハーピー肉は想像通り、漬け込みダレと共に壺の中に入っている。味付けをしていないものは、調理場の地下にある保冷庫で保存しているそうだ。地霊様の力を借りて冷やしているとのこと。地霊様すげえ……と思うがそこを深く聞きだしたら時間がいくらあっても足りなそうだからぐっとがまん。


 茸は予想に反してそのまま山積みだ。てっきりマリネ液に漬け込んでいるものかと考えていた。聞いてみると、食べる直前にさっと酢と塩で和えるそうだ。その方がシャキシャキとした食感が残っておいしいとのこと。思ったより出汁の出やすい食材なのかもしれない。


 塩や香辛料は種類ごとに小壺に入って保存されていた。ひとつずつ味を確認し、内心で地球の香辛料に当てはめていく。これは唐辛子、これはクミン、これはニンニクっぽい? まだまだあるな。これはバジル、この舌にびりっとくるのはローズマリー? これは……わからん。味わったことのない香りだ。


 食材のチェックが一通り済んだら調理器具の確認だ。包丁は中華包丁のようなどデカい刃物と、ペティナイフのような小さな物のみ。さすがに中華包丁を使ったことはないが、繊細な包丁仕事をやるつもりはないので大丈夫だろう。


 次にいまも絶賛鶏もも肉を炙っている焼き場を確認。数本の細い鉄串に貫かれたモモ肉が真っ赤に焼けた砂利のようなものの上でじゅうじゅうと音を立てている。石と肉の間には金属製のといのようなものがあり、それが落ちた脂を受け止めて、脇の壺へと流しているようだ。


 焼き場を担当しているヒゲモジャさんに尋ねる。熱のせいか薄手の肌着に前掛けをした準裸エプロンスタイルだ。誰得よこれ?


「この脂って何かに使ってるんですか?」

「昔は灯し油ともしあぶらなんかに使ってたけどなあ。いまは捨てっちまうな」

「それなら、お料理に使ってもいいですよね?」

「おう、何を作るんだか知らねえが、かまわねえぞ」


 と言いながら、ヒゲモジャさんは油受けの壺を新しいものに取り替えた。食用として考えていなかったので、ろくに洗っていなかったらしく、きれいな壺に取り替えてくれたのだ。見た目はむさ苦しさしかないのに気遣いのできるヒゲモジャさん、これがギャップ萌えか。やるな。


「あと火にかけても大丈夫な小さな壺ってありますかね?」

「がはは! ドワーフの焼き物はどれも火にかけて問題ないわい」


 やるなドワーフ。耐熱食器がデフォルトか。


 肉がある、茸がある、香辛料に自由に使える脂がある。ふむ、これであの料理がいけるはずだ。簡単なのにおしゃれで美味しい、料理上手風に見せられるはったりの効いたあの一品が!

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