第57話 12 俺が理由を与えてやる(part2)
松井先輩はサキちゃんが助けに行ったみたいだ。
集合してすぐにそれぞれの場所で起こったことの共有。
ということで、まずはもともと本題だった俺から……。
俺は包み隠さずすべてを話した。そして。安住がとっても不機嫌そうに聞いていたのを見て、ちょっと怖くなった。
そりゃね。現行犯逃がしたんだしキレるよな……。
「愚かだな」
「はぃ」
「お前は今軍所属だ。法を守らぬ愚か者には強く出ていいのに、あろうことか言い負かされるとは」
「ごめんなさい」
「ま、その言われ方は確かに、お前には特攻だったかもな?」
腕を組んでとっても怒ってそうな安住。今にも殴られそう。いや、しょうがない。情けないのは事実だ。
「このまま反省を促すのは簡単だが、お前に言っておくべきは、なぜ違法武器がまずいかだ。確かにお前の友人の言うことは一部分では正しい。ただそれは、悪用する人間がいないという性善説に基づいたものだ」
「というと?」
「武器をいたずらに普及させれば、それを悪用する者、誤用による事故が増え、結局は犠牲が増える。さらにあの箱はお前の話を踏まえると過激な毒物に類するもの。その普及自体が数多くの人間を殺すかもしれないし、それを悪用して、京都の防衛を揺るがす隙が生まれるかもしれない」
「結局、犠牲者が増えると?」
「可能性の話だと言われるだろう。誰もが気を付ければその危険は避けられる。だがこの世には負っていいリスクと背負うべきでないリスクがある。この場合は後者だ。想像してみろ」
欲に駆られた一般人が罪なき人に武器を向ける光景を。正義となったその武器が多くの人間を焼く様を。そしてこの街に生まれる新たな疑念が正義を揺るがし、本当に罪なき人々が死んでいく様を。
一瞬想像するだけで治安の悪い地獄絵図みたいなのが想像できた。
「そういう意味で言えばそこの鬼も俺は背負うべきでないものだ。だが幸運にもお前は恵まれたというだけだ。もしもうまくいかなかったら、誰か責任を取る? どうやって責任を取り修正できる? 前にも言ったな? 命に次はない。次は頑張る。うまくやるは通じないんだ」
……さすがだな。今までの経験のすべてを自分の正義のために費やした男に、生半可な言い訳は通じないわけか。
「夢原。お前はあの男をどうしたい?」
「もちろん。あれは良くない。手を引いて欲しい」
「気が狂ってるヤツに言葉が通じなかったらもう実力行使しかない。覚悟を決めておけよ。今日の反省はすべてが終わった後にして次に活かせ」
おそらく安住にしては寛大な処置だ。とりあえず殴られなくてよかったと深呼吸した。
松井先輩は声が震えていた。話を聞くと、景浦先輩たちを襲っていた敵に囲まれていたらしい。
「こわかったよぅ。なんかめっちゃ強くて連携できててさ。あれ自律兵器なのえぐいって」
それにしては怪我がないんですが?
「私が助ける必要はありませんでしたね。呪術師顔負けの呪術使いでしたね。しかもオリジナル呪術とは、勉強になりました」
「いやいや、にげるので精いっぱいだったし?」
話によると松井先輩は反逆軍オリジナルの呪術の開発の第一人者らしく、普段は戦闘訓練半分開発半分らしい。安住が言うには本気でやれば守護者も狙えるとのことだが本人がそれを嫌がっているんだとか。
「ほんとはエキスパートにもなりたくなかったよー。俺としては自分のラボとお給金で食っていけるだけで恵まれてるしねー」
反逆軍オリジナルの呪術。見て見たかったけど、また次の機会だろうな。
全員が話を共有することで分かったこと。
瑠璃色の炎を放つあの箱の武器が危険物であるのに間違いがないこと。そしてその売人を松井先輩が見たのでいよいよリバーンカンパニーが黒だということ。
密売している武器には、式神のような自分で動く召喚系の武器と、ハッシーが使ってたような装備して使うものがあるということ。
共通点はどちらも自動で動けるということだ。確かに武器を使うのに慣れない一般人に使わせるのにちょうどいいものだ。
「とりあえず今は要塞に帰って上層部と独立魔装部隊に報告だな。だが先にお前のことを連絡しておくべきか」
「お手数おかけします」
サキちゃんのことだな。まあ急に出てきたもんね。
「サキちゃん」
「巫女様。今回は大変なことになりましたね。今回もできる限りお手つだいさせていただければ嬉しいです!」
まっすぐ見る俺の目はきらきら輝いている。ハッシーがバイトに入ってきたころを思い出す純粋さだ。
はぁ……ハッシー。
「ごめんね。いつも俺がいると迷惑かけてるけど」
「自分で首を突っ込んでいるので気にしないでください。それに私は巫女様がこの街を守りたいというのなら、ご協力することが私のしたいことでもあるし真白様の言いつけも守れるので一石二鳥なので」
そうなのか……。でもなんか。前に比べて妙にご機嫌な感じがするな?
「サキちゃん、なんか興奮してますね?」
「え、あ、すみません。その、この場にいられるのがうれしくて。でも失礼でしたか」
俺の顔を見たので、
「いや、協力してくれるのはうれしいから大丈夫だよ」
と、本心を返答しておいた。
ただ、サキちゃんには安心させるような顔を見せられなかったかもしれない。
安住が、何やらまずそうな顔をしている。
「どうしたの?」
安住は何も言わないまま俺たちにデバイスのメッセージを見せた。
和幸先輩からだ。
『今から音声だけ流す。通話状態を維持しろ。そっちからは決して話かけるな。厄介なことになったぞ。あとはお前たち、今日は要塞に戻ってくるな。別のところ行け』
そう言って、通信が入ると和幸さんの声ともう1人。
『今はこれを軍に売り込みに来ていてね』
『なら場所はここじゃない。とっとと受付に行け。一般人が軍の要塞の屋上に来るなよ』
『見てたよ。まずはお礼を言っておきたくてね。あの男を仕留めてくれてありがとう』
――これは。まさか。
あの店をぶっ壊したって言ってた、ハッシーに変なこと吹き込んだ女。
『堂々と姿を現して、何の用だ』
『サプライズは楽しんでくれたかな。諸君』
『諸君って俺1人しかいねえっての』
『そう言わないでほしい。どうせ誰か聞いてるんだろう? 今日のは私の製品の優秀さを見せるデモンストレーションだ。賢明な人間なら、私の製品が素晴らしいことはよくわかったはず』
『なんだ。だから買えって?』
『いいや。独立魔装部隊、そしてそれに協力する者たちにお願いがあってね。見逃してくれないかい? 私はどっちでもいんだけど、お互い死人が少ない方がウィンウィンというやつさ』
『できるわけねーだろ。仕事放棄しろって?』
『君は厄介だからね。ちょっと灸をすえにここに来た。少しはいい判断材料になるだろう』
『ずいぶん舐められてるな』
『舐めてないさ。お、こほん。私がちゃんと準備をしてきてるんだ、悪いが勝ち目無く君は死ぬ』
10秒かからずして通信が切れた。
「まさか。あの和幸さんが?」
松井先輩は困った顔をしているが、安住は表情を変えなかった。冷静だなコイツ。でもこの状況でも頼もしい。
「場所を変えるぞ。俺についてこい。サキ。早速力を借りたい。連中の尾行をまける呪術はないか?」
安住に尋ねられたサキは、
「お任せください。おに、いえ」
「鬼?」
「すみません。ちょっと張り切りすぎて、鬼もビビるような呪術をお披露目しますと言おうとして、ちょっと大仰な言い方だなと思いまして」
と照れ笑い。
安住は普段仕事中に冗談を言ったら冷たい目をするタイプなのだが、なぜか今回はほんの少し失笑して、
「じゃあ頼む」
と場を冷え込ませなかった。珍しいな。
とはいえ。
状況はかなり危うい気がしてきた。最初は単なる違法会社の検挙だと思っていた仕事だったはずが、その相手は今、常に俺たちの想像を超えてきている。
(第58話「13 夜に2人で」につづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます